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要約
本資料は、令和8年8月31日(月)9時30分~12時00分に、文部科学省東館の会議室とWeb会議を組み合わせた形式で開催された教育課程企画特別部会(第17回)の配付資料一式である。議題は「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ(素案)」の一点で、令和6年12月の文部科学大臣諮問以来続けられてきた次期学習指導要領改訂に向けた審議が、いよいよ全体を貫く「審議まとめ」の素案として初めて姿を現した回にあたる。配付資料の中心は【資料1】として示された「審議まとめ(素案)」(全4分冊、合計30MB超)であり、これに令和9年度の教育課程関係概算要求資料(参考資料1-1・1-2)が添えられている。
審議まとめ(素案)は、第1部「次期学習指導要領の基本的な方向性」(全8章、約90ページ)、第2部「基本的な方向性を踏まえた各教科等の方向性」(総則・幼児教育・特別支援教育・定時制通信制、および国語から特別活動までの全教科等、個別の児童生徒に係る特別の教育課程、約274ページ)、第3部「資料編」(約400ページ)という三部構成、総ページ数400ページを超える大部の文書である。第2部は、これまで各教科等ワーキンググループが個別に積み上げてきた検討内容を集約したものであり、第1部はそれらを貫く全体理念・制度設計を新たに整理し直したものという位置づけになる。
第1部の骨格は、①「主体的・対話的で深い学び」の実装、②多様性の包摂、③実現可能性の確保という三つの方向性を「三位一体」で具現化するという基本理念のもとに組み立てられている。具体的な改訂の柱として、(1)学習指導要領の「構造化・表形式化・デジタル化」——「知識及び技能に関する統合的な理解」と「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」による内容の構造化、学年区分にとらわれない柔軟な記載、教師の授業づくりを支える「デジタル学習指導要領」のUI刷新——、(2)「学びに向かう力、人間性等」を4要素(初発の思考や行動を起こす力・好奇心、学びの主体的な調整、他者との対話や協働、学びを方向付ける人間性)に再整理した上で、教育課程全体を通じた個人内評価を基本としつつ、「思考力・判断力・表現力等」の観点別評価に条件付きで「◯」を付記するという新たな評価方式の導入、(3)義務教育段階における「調整授業時数制度」の創設——各教科等の標準授業時数を最大15%程度(小学校で最大138コマ、中学校で最大128コマ程度)下回って教育課程を編成し、生み出した時数を他教科への上乗せ、新教科の創設、あるいは「裁量的な時間」(学習枠・研究研修等枠、合わせて最大週2コマ程度)に充てることを可能とする制度で、令和10年度からの先行実施、小学校令和12年度・中学校令和13年度からの全面実施を想定している、(4)高等学校における単位制の大幅な柔軟化——1単位の計算方法を17コマ(新単位)とする細分化、必履修科目の減単幅の拡大、外部試験による必履修科目の履修免除・上位科目等への振替制度の創設、学校設定教科・科目の単位数上限の引き上げ(普通科で28単位相当)——、(5)小学校「情報の領域」・中学校「情報・技術科(仮称)」の創設をはじめとする情報活用能力の抜本的向上、(6)学力検査の質的改善や多様な選抜方法の拡充を含む高等学校入学者選抜の見直し、(7)教科書・指導書の精選、教職員定数改善、教員養成・研修改革、デジタル学習基盤の充実など、諸条件整備の総合的な推進、が挙げられている。第2部では、こうした第1部の方向性を踏まえ、国語から特別活動に至る全教科等について、統合的な理解・総合的な発揮の記載イメージを含む具体的な改訂方針が整理されているほか、不登校児童生徒・特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る新たな特別の教育課程の創設についても第3章として位置づけられている。
なお本資料はあくまで「素案」であり、教育課程企画特別部会としての審議まとめの確定版ではない。今後の部会での意見交換(当日は約80分を「意見交換等①②」に充てる進行が予定されていた)を経て、内容が修正され得るものである点に留意が必要である。
現場視点の一般的な懸念
- 調整授業時数制度の運用が学校・教員に新たな設計負担を課す懸念:調整授業時数制度は「国への申請を不要」とし現場の判断で活用できる点は柔軟化として評価しうるが、裏を返せば、各教科等の標準時数から何コマ減じ、どの教科・裁量的な時間・新教科にどう配分するかという設計判断の全てが各学校に委ねられることを意味する。素案自体が「教育課程柔軟化アドバイザー(仮称)」の育成や拠点校での伴走支援の必要性に言及しているが、これらはいずれも今後整備される支援体制であり、令和10年度の先行実施開始時点でどれだけの学校が実質的な支援を受けられるかは不透明である。カリキュラム・マネジメントの経験や指導主事による支援体制に地域差がある中、制度を使いこなせる学校とそうでない学校の間で、教育課程の質に差が生じる可能性がある。
- 「学びに向かう力」への「◯」付記が新たな評価負担・判断のばらつきを生む懸念:「学びに向かう力」を教育課程全体を通じた個人内評価に一本化しつつ、「思考力・判断力・表現力等」の評価過程で特に表出した場合に「◯」を付記するという新方式は、形式的な評価材料集めからの脱却を企図したものだが、素案自体が「見取る姿」の解釈や「◯」の評定への反映の仕方について「所管の教育委員会の方針及び指導を司る教師の専門性・総合的判断」に委ねる部分が残ることを認めている。結果として、同じ観点別評価とその組み合わせでも学校・教員によって評定が異なり得る仕組みであり、児童生徒・保護者にとっての説明責任や、入試等で評定を用いる場面での公平性の担保に課題が残る可能性がある。
- 高等学校単位制の柔軟化が、実務上の対応能力に乏しい学校ほど機会格差を広げる懸念:新単位(17コマ=1単位)の導入、必履修科目の減単幅拡大、外部試験による履修免除・振替制度の創設など、高等学校の教育課程編成の自由度を大幅に高める内容が盛り込まれているが、これらを使いこなすには、時間割編成・単位認定管理・生徒個々の履修計画の管理といった、これまでにない複雑な校務対応が必要となる。教務担当者の専門性や人員体制に余裕のある学校では新制度を積極的に活用できる一方、小規模校や教員数に余裕のない学校では、制度はあっても実質的に活用しきれず、結果として学校間の教育課程の多様性・魅力化の格差がかえって拡大する懸念がある。
- 「余白」創出の理念と、実際に積み上がる新規業務との齟齬:調整授業時数制度、単元構想の参考イメージの活用、「学びに向かう力」の見取り、デジタル学習指導要領の活用、情報活用能力の指導体制整備など、素案全体を通じて「教師の負担軽減」「余白の創出」が繰り返し強調される一方、実際に列挙されている新規の検討事項・準備事項は多岐にわたる。特に経験の浅い教員にとっては、統合的な理解・総合的な発揮を踏まえた単元構想、形成的評価の充実、調整授業時数制度を活用した教育課程編成といった高度な専門性を要する業務が同時多発的に求められることになり、「参考イメージ」や「見取る姿」等の支援ツールが実際にどこまで現場の負担を緩和できるかは、今後の教科書・指導書の改訂や研修体制の整備状況に大きく左右される。
- 実施スケジュールと条件整備(予算・教職員定数・教員養成)の確定時期のずれ:調整授業時数制度は令和10年度先行実施・令和12~13年度全面実施が想定されている一方、教職員定数改善や運営費交付金の拡充規模、デジタル学習指導要領の具体的な機能整備、教員養成課程の見直しといった条件整備の多くは、令和9年度概算要求段階かそれ以降の検討課題にとどまっている。現行の学習指導要領改訂でもしばしば指摘されてきた「制度は先行するが条件整備が追いつかない」という構図が、今回はより広範な改革(学習指導要領の構造そのものの転換、教育課程の柔軟化、評価方法の刷新、入試改革が同時進行)であるだけに、一層深刻化するおそれがある。
- 高等学校入学者選抜改革の具体像が示されないまま、中学校・高等学校双方への影響が想定されている点:学力検査の質的改善や多様な選抜方法の拡充の必要性は明記されているものの、具体的な出題方針の転換、学力検査を課さない選抜や調査書を用いない選抜の解禁などは、いずれも「検討すべきである」との方向性の提示にとどまり、実施主体である都道府県教育委員会等との調整は「今後」の課題とされている。学習指導要領の構造化や調整授業時数制度による中学校の指導の変化が、入試制度の改革と歩調を合わせなければ、「学習指導要領は変わったが入試は変わらない」というこれまで指摘されてきたねじれが再燃し、結果として学習指導要領の構造化の意義そのものが現場で実感されにくくなる懸念がある。
- 情報活用能力の抜本的向上を支える教員体制の確保が本文全体の前提に対して後追いになっている懸念:小学校の「情報の領域」、中学校の「情報・技術科(仮称)」創設など、情報活用能力に関する制度改正は明確に示されている一方、それを担う教員の免許制度の在り方や指導体制整備は「検討を進める必要がある」との記述にとどまる。専門性を有する教員の確保には養成課程の見直しや免許制度改正など時間を要するプロセスが伴うため、制度先行・人材後追いという構図になれば、都市部と地方、あるいは自治体間で情報活用能力教育の質に差が生じる可能性がある。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
- 調整授業時数制度の段階的導入と支援体制の同時整備:令和10年度の先行実施に先立ち、「教育課程柔軟化アドバイザー(仮称)」の育成・配置スケジュールを具体的に前倒しで示すとともに、サキドリ研究校・先行研究開発学校で蓄積された知見を、都道府県単位で定期的に共有する研修の場を制度化すべきである。特に、指導主事が未配置の市町村や小規模自治体に対しては、都道府県教育委員会が広域的にアドバイザー機能を代替・支援する仕組みをあらかじめ組み込むことが望ましい。
- 「◯」付記制度の運用ガイドラインの早期具体化と、評定反映の考え方の統一的整理:「見取る姿」の具体例や「◯」の評定への反映方法について、国が学習指導要領告示と同時期に、できる限り具体的な運用の手引き・Q&Aを示すことが求められる。特に、地域・学校間での評定のばらつきが入試等の場面で不公平感を生まないよう、都道府県単位で評定運用の考え方をすり合わせる協議の場を設けることが有効である。
- 高等学校単位制の柔軟化に対応した校務システム・人員体制の整備支援:新単位計算や履修免除・振替制度の運用を支える校務支援システムの標準仕様を国が早期に示し、都道府県教育委員会が域内の高等学校に共通のシステムを提供することで、教務担当者の負担を軽減すべきである。あわせて、制度を積極活用する意欲はあっても人員体制に制約のある学校に対しては、教務担当の加配や外部人材(学校事務職員の増員等)による支援を検討する必要がある。
- 新規業務の総量管理と、既存業務のスクラップ・アンド・ビルドの徹底:学習評価のプロセス簡素化(評価規準の二重設定の解消等)で意図されているような「スリム化」の考え方を、調整授業時数制度の運用や単元構想支援など他の新規施策にも一貫して適用し、新たに求める業務と同時に廃止・簡素化する既存業務を明確にセットで示すべきである。特に経験の浅い教員向けには、参考イメージや見取る姿を単なる資料提供にとどめず、初任者研修・校内OJTに組み込んだ実装支援を制度化することが望ましい。
- 条件整備の予算確定状況を可視化するロードマップの提示:教職員定数改善、運営費交付金拡充、デジタル学習指導要領の機能整備等について、概算要求から予算確定までの見通しを複数年度にわたって可視化したロードマップを国が早期に公表し、学校・教育委員会が実施スケジュールを見誤らないようにすべきである。予算措置が想定を下回った場合の代替策や優先順位付けの考え方についても、あらかじめ整理しておくことが望まれる。
- 入試改革の検討スケジュールを学習指導要領改訂スケジュールと明示的に連動させること:高等学校入学者選抜の改善に関する検討について、都道府県教育委員会等との協議の開始時期・論点整理の公表時期を、学習指導要領の全面実施スケジュールと対応させた形で明示し、中学校現場が「入試がどう変わるか分からないまま指導だけが変わる」という不安を抱かないようにする必要がある。
- 情報活用能力を担う教員の確保・養成スケジュールの前倒しと、当面の代替策の明示:情報・技術科(仮称)等の創設に対応する教員免許制度の検討スケジュールを可及的速やかに示すとともに、専門教員が不足する期間の代替策(他教科教員への研修による兼担、外部人材の活用、広域でのオンライン指導の活用等)を具体的に提示することで、制度先行・人材後追いによる地域間格差の拡大を防ぐべきである。
教育課程部会 教育課程企画特別部会(第17回) 配付資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/101/siryo/mext_00056.html


