【現場視点】学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会(第8回)配付資料

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要約

令和8年8月3日に開催された「学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会」(第8回)では、令和7年の小中高生の年間自殺者数が538人と過去最多を記録したという痛切な事実を背景に、中間まとめ(案)の審議が行われた。本会は令和7年5月の第1回以来、関係団体へのヒアリングを重ねてきた12名の委員(座長:髙田礼子・聖マリアンナ医科大学予防医学主任教授)による調査検討会であり、今回示された中間まとめは、健康診断の意義、実施項目・実施方法、実施時期、児童生徒等のプライバシーや心情への配慮という4本柱について、早急に対応すべき事項に一定の方向性を示すものである。

実施項目の見直しでは、地域による学校医等の確保困難という現実的制約を踏まえ、全項目一律実施から「全員に定期的実施の意義が高いもの」「対象を限定して対応可能なもの」「日常の健康観察が優先されるもの」への選別が進められている。具体的には、身長・体重・栄養状態は毎学年実施を維持しつつ、成長曲線(身長曲線・体重曲線)の作成・評価を法令上位置付けることが検討され、脊柱・胸郭・四肢の状態は高校段階まで毎学年実施を維持する一方、検査機器(薬機法に基づく届出済み機器)の活用は「現時点で全国一律の導入は困難」としながらも既導入自治体の事例を踏まえて推進する方向が示された。視力・眼疾患、聴力・耳鼻咽頭疾患については、眼科医・耳鼻咽喉科医の確保状況に応じて特定学年(小学校低学年や進学時の学年等)に重点化し、それ以外の学年は日常の健康観察や保健調査で代替できることとされた。尿検査については、日本学校保健会の令和7年度調査で約8割の学校が蛋白・糖に加え潜血を独自に検査している実態を踏まえ、潜血を正式な検査項目として追加することが適当とされている。結核健診は、小・中学校での発見数が15年間で23人(うち外国出生者87%)、集団感染は2014年以降ゼロという実績を根拠に、第1学年での問診に絞り込み、感染症法施行規則の見直し(喀痰検査・聴診・打診の削除)とも整合させる方向である。

実施時期については、学校保健安全法施行規則が定める「毎学年6月30日まで」という期限について、令和7年度調査で心臓検診の37.4%が期限内に終了できていないことが明らかになったことを受け、保健調査・身体計測・視力聴力検査・問診・胸部エックス線・尿検査といった予診的事項は引き続き6月30日までとしつつ、学校医等による診断は地域の実情に応じて夏季休業開始までを目安とする柔軟化が図られる。

プライバシー・心情への配慮については、令和6年1月の通知・同年9月の事務連絡の趣旨徹底が改めて求められているが、令和7年度調査では「心情やプライバシーに配慮した対応について説明を行った」学校が66.3%にとどまり、「いずれも説明を行わなかった」学校も16.6%存在する実態が明らかになった。特に脊柱・胸郭・心臓・皮膚疾患の検査では、体操服や下着をめくっての視触診や聴診器の挿入が必要な場合があることについて、児童生徒・保護者の理解を得るための事前説明の徹底が課題として挙げられている。

心の健康の保持については、令和8年6月に成立・公布された改正自殺対策基本法(令和8年4月1日施行)により、学校が心の健康の保持のための健康診断・保健指導等に努める規定が新設されたことを踏まえ、1人1台端末を活用した「心の健康観察」の推進が方針として示されている。

さらに「今後検討すべき事項」として、(1)不登校(令和6年度で35万3,970人と12年連続増加、過去最多)等により健康診断を受けられなかった児童生徒への機会確保、(2)学校医の高齢化・複数校兼務や「1人配置」学校が全体で39.2%にとどまる実施体制の脆弱性、(3)PHR(学校健診PHR)やデジタル庁のPMH(Public Medical Hub)との連携を見据えた学校健康診断情報の利活用――の3点が、いずれも「引き続き検討する必要がある」という表現にとどまり、具体的な工程は示されていない。

参考資料として提示された千葉県印西市教育委員会の脊柱側弯症検診・小児生活習慣病予防検診の実践事例では、令和7年度の一次検診(3Dスコリオ撮影)の有所見率が小学5年生12.8%、中学1年生22.6%(総計17.3%)、二次検診(側弯症エックス線)の有所見率は総計36.6%に達し、精密検査を要する児童生徒が相当数存在する実態が示された。一方で保護者への事前案内文書や『脊柱側弯症管理手帳』による経過共有、採血に伴うリスク説明を尽くした承諾書取得など、プライバシーと安全に配慮した先進的な運用も紹介されている。

現場視点の一般的な懸念

  1. 累積的負担の蓄積:成長曲線の作成・評価の法令上位置付け、尿中潜血検査の追加、1人1台端末による「心の健康観察」の推進など、新たに求められる業務が個別には合理的であっても、それぞれが養護教諭・学校医・学校歯科医の実務に上乗せされていく構造になっている。中間まとめ自体が「学校における働き方改革の一層の推進が求められている」ことを繰り返し言及しながらも、項目追加のたびに負担軽減策とのセット設計がなされているとは言い難く、累積的な負荷が現場に集中する懸念が残る。
  2. 地域格差がベストプラクティス共有のみで対応されている:学校医・学校歯科医の確保困難、眼科医・耳鼻咽喉科医の不在、検査機器導入の可否といった地域間格差について、中間まとめは「既に導入している自治体の導入事例や実施体制を踏まえつつ」「先進的な自治体の取組も参考にしながら」という表現を繰り返しており、事例横展開が基本戦略となっている。しかし学校医確保の困難は医療資源の地域偏在という構造的問題であり、事例共有だけでは解消されない可能性が高く、財政的な裏付けを伴う対応が明確化されていない。
  3. プライバシー配慮の徹底が学校任せの構造になっている:令和7年度調査で「いずれも説明を行わなかった」学校が16.6%存在するという結果は、個々の教員や学校の意識の問題として片付けられかねないが、実際には通知・事務連絡が現場まで十分に浸透する仕組みが整っていないという制度上の周知経路の課題である可能性が高い。周知の「更なる徹底」という方針の繰り返しだけでは、同種の調査結果が次年度も同水準で再現されるおそれがある。
  4. 心の健康観察のデジタルツール導入が効果検証に先行している:中間まとめは「心の健康観察」として様々なアプリ等が既に導入されている一方で「その内容や効果についてばらつきが指摘されている」ことを認めつつ、1人1台端末の活用推進という方針自体は維持している。効果が定まらないツールの普及が先行し、その後に検証・整理が行われるという順序になっており、指標や手段の導入自体が自己目的化するリスクが指摘できる。
  5. 不登校児童生徒への対応が方向性の提示にとどまっている:不登校児童生徒数が12年連続で増加し過去最多となっている中、健康診断を受ける機会の確保は「引き続き検討する必要がある」とされるにとどまり、具体的なスキームや実施時期の目途は示されていない。日本学校保健会調査でも教育委員会レベルで「医師会等と協力し、受診できる体制を整え、周知している」割合はわずか10.7%にとどまっており、対応の温度差が大きい。
  6. 学校健康診断情報の利活用が現場負担への配慮を欠いたまま進む懸念:「経済財政運営と改革の基本方針2026」という政府全体の方針からトップダウンで求められる学校健診PHR・PMH連携の推進に対し、学校や学校設置者側では「導入のメリットを感じにくい」という声があり、現場感覚と政策要請との間に乖離がある。個人情報保護や運用負担への配慮は「検討が必要」との記述にとどまり、具体的な負担軽減策が明示されないまま制度設計が先行する可能性がある。

改善提案

  1. 新たな検査項目・業務の追加を検討する際には、既存業務の廃止・簡素化とのセット設計を制度上の要件とし、追加分の業務量に見合う外部委託費用や人員配置の財政的裏付けを、中間まとめの段階から具体的に示すべきである。
  2. 学校医・学校歯科医・眼科医・耳鼻咽喉科医の確保困難地域に対しては、事例紹介にとどまらず、都道府県単位での医師派遣調整や広域健診センター設置に対する国庫補助など、財政措置を伴う制度的枠組みを整備することが求められる。
  3. プライバシー配慮に関する通知・事務連絡の周知は、各学校の自主的努力に委ねるのではなく、教育委員会や地域医師会が主体となった定型研修・確認チェックリストの活用を制度化し、次回調査で改善が数値として確認できる仕組みとすべきである。
  4. 心の健康観察のデジタルツールについては、全国的な普及推進に先立って、文部科学省の「健康診断・健康観察に係る調査研究事業」による効果検証・標準化の結果を踏まえた段階的導入とし、効果が不明確なツールの拙速な普及を避けるべきである。
  5. 不登校児童生徒等への健康診断機会確保について、モデル自治体を指定した具体的な実施スキームの構築と、教育委員会が主体となった受診体制整備の達成目標・期限を明示し、進捗を定期的に検証する仕組みを設けるべきである。
  6. 学校健診PHR・PMH連携の導入に際しては、学校現場における運用負担の具体的な試算を事前に公表し、限定的なパイロット運用の結果を十分に検証したうえで、本格実施の可否とスケジュールを判断する段階的アプローチを採るべきである。

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