【現場視点】不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ取りまとめ(案)

20260805_224052_不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ取りまとめ(案)※会議後修正_1

要約

不登校児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループが取りまとめた本案は、令和6年度の小・中学校における不登校児童生徒数が約35万人と過去最多に達したことを踏まえ、校内外教育支援センター等で行われている学習活動を制度上正式に位置づける「特別の教育課程」(いわゆる「2階」部分)の創設を提言するものであり、現場に投げかける懸念は5点にのぼる。

本案の出発点は、現行の「包摂的な通常の教育課程」(1階部分)だけでは対応しきれない二つの隘路の指摘にある。一つは、児童生徒自身が指導計画の作成過程に関わり、学びを前向きな経験として積み重ねていくという新しい性質の個別指導計画を国として提示しなければ全国的な運用が難しいという点。もう一つは、下学年の学び直しに懸命に取り組んでも在籍学年の教育課程に基づく評価が適用され、「1」や「-」といった評定が児童生徒・保護者の学習意欲や自己肯定感の低下につながるという点である。

これを受けて本案は、対象を当面、義務教育段階(小学校・中学校・義務教育学校・特別支援学校小中学部)に限定し、高等学校段階は運用の成果を踏まえて将来検討するとした。対象児童生徒は「休み始めだが伴走支援があれば学びに向かえる状態」「回復期にあり学びたい意欲を持ちつつある状態」など、外形的な出席状況だけでなく心情面を含めた総合判断によって決定される。

制度の中核は、①学びにおいて意識したい視点、②教育内容、③目標やねらい、④指導方法、⑤授業時数、⑥振り返り、⑦フィードバックの7要素からなる新しい個別の指導計画である。授業時数は一律の基準を設けず学校長が柔軟に設定し、教育内容も「各教科等の目標・内容に基づく教育活動(A)」と「教科等に該当しない効果的な教育活動(B)」の二区分で整理される。学習評価においては、目標設定のパターンを❶在籍学年と同一の目標から❺個別に設定した指導のねらいまで5類型に分け、それぞれに観点別評価(評価方法A・B)または個人内評価による記述式評価(評価方法C)を組み合わせる仕組みが示された。指導要録には、評定に「※」を付す、計画書の写しや要約を添付するといった運用の柔軟化も盛り込まれている。

体制面では、免許状を持つ教師が「中核的な役割」を担いつつも、一定の要件を満たす無資格の指導員等が学級担任等の管理の下で日常指導を担うことを許容し、複数の特例(日本語指導、通級指導、特異な才能等)にまたがる情報を一元管理する「2階シート(仮称)」の導入も検討事項として挙げられている。施行時期は、学習指導要領の全面実施を待たず、調整授業時数制度と一体的に令和10年度からの先行実施を目指すとされた。

現場にとって重要なのは、これらの制度設計の多くが「運用の手引き」に委ねられており、本取りまとめ自体は方向性の提示にとどまっている点である。以下、現場視点から浮かび上がる懸念を5点整理する。

現場視点の一般的な懸念

  1. 教師の「最終確認」責任の実質的な重さ 本特例は、日常の指導を無資格の指導員等が担う場面を想定しつつも、指導計画の作成・評価の最終的な責任は学級担任等の教師に残す構成をとっている。しかし、指導員の把握した情報を教師が確認し、必要に応じて指導方針の調整に関与するという役割は、対象児童生徒一人ひとりについて発生する継続的な業務であり、その具体的な所要時間や校務分掌上の位置づけは「運用の手引き」に先送りされたままである。
  2. 対象児童生徒の判断基準の曖昧さによる運用格差の懸念 対象者は「総合的に判断」するとされ、休み始め・回復期という時期区分や例示は示されているものの、客観的な基準は設けられていない。判断の実務は各学校・教育委員会に委ねられており、地域や学校によって特例の対象範囲や運用の積極性に差が生じる可能性がある。
  3. 学習評価の組み合わせが複雑化するリスク 目標設定の5類型(❶〜❺)と評価方法(A〜C)の組み合わせは、児童生徒の実態に寄り添う設計である一方、教科ごと・活動ごとにどのパターンを適用するかを都度判断する必要があり、特に初めて本特例を担当する教員にとっては評価設計そのものが新たな負荷となりうる。
  4. 高校入試での取扱いが都道府県ごとに未確定 本案は、特別の教育課程における評価を高校入試で積極的に勘案するよう促す方向性を示しているが、現時点で紹介されている柔軟な選抜方法の事例は一部の都道府県にとどまる。義務教育段階でどれだけ手厚い個別評価を受けても、進学段階でその成果が公平に反映されるかどうかは自治体間で差が生じうる。
  5. 「2階シート」等ICT基盤整備の前提条件が不透明 指導計画や振り返り・フィードバックをクラウド等で関係者間に随時共有する運用が想定されているが、こうした基盤整備に必要な費用や技術支援を誰がどの程度負担するかは明示されていない。財政力や情報環境に乏しい自治体では、想定される連携体制そのものを構築できない懸念がある。

改善提案

  1. 「運用の手引き」において、学級担任等が担う確認・調整業務の具体的な範囲と標準的な所要時間の目安を明示するとともに、それに見合う授業時数の軽減や事務支援員の配置といった負担軽減措置を、財政的な裏付けとともに制度化すべきである。
  2. 対象児童生徒の判断に資する具体的な事例集やチェックリストを「運用の手引き」の一部として先行的に公表し、判断に迷うケースについては国・都道府県レベルでの相談窓口を設けることで、教育委員会間の運用格差を抑制すべきである。
  3. 目標設定パターンと評価方法の組み合わせについて、教科・活動類型ごとの標準的な対応表や記載例を「運用の手引き」に具体的に盛り込み、経験の浅い教員でも短時間で適切な評価設計を行えるようにすべきである。
  4. 高校入試における評価の取扱いについて、COCOLOプランの枠組みで既に柔軟な選抜方法を導入している都道府県の運用実態を早期に収集・全国展開し、努力義務にとどめず、すべての都道府県で一定水準の柔軟な選抜方法が講じられるよう明確な指針を示すべきである。
  5. 「2階シート」等の運用に必要なクラウド環境整備やセキュリティ対応について、国が標準仕様を示すとともに必要な財政支援を明確化し、自治体間の情報基盤整備状況の差が児童生徒への支援格差に直結しないようにすべきである。

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