【現場視点】国語ワーキンググループ取りまとめ(案)※会議後修正を掲載しました

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要約

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会・国語ワーキンググループが取りまとめた「国語ワーキンググループ取りまとめ(案)」(会議後修正版)は、次期学習指導要領改訂に向けた国語科の全面的な再構造化を提示する文書である。PISA2022における日本の読解力はOECD加盟国中2位(516点)と国際的には高水準を維持しているものの、同資料は自由記述形式の問題における「根拠を示して自分の考えを説明すること」への課題を明確に指摘している。PISA2018公開問題の関連設問では日本の正答率が48.6%にとどまり、資料参照部分に添付されたデータでは、全国学力・学習状況調査の経年変化分析調査において小学6年国語の平均スコアが平成28年度の505.8から令和6年度には489.9へ、中学3年国語も508.6から499.0へと低下したことが示されている。

こうした学力面の課題認識を踏まえ、取りまとめ案は国語科の目標・内容を「話や文章の機能」という新しい軸で再構造化する方針を打ち出している。「事実や知識の整理と理解」「考えや主張の理由付けと吟味」「思いや経験の表出と想像」「協働による考えの深化や合意」「伝統的な言語文化の継承と創造」という五つの機能(いずれも仮称)を設定し、「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」の各領域で扱う話や文章を、この機能に基づいて関連付けて指導することを提案する。現行では領域ごとに学習過程が細分化され、各領域の学びが個別のものとして意識されがちであるという課題認識が、この再編の出発点にある。

〔知識及び技能〕についても、①各領域の学習過程で運用しながら深める側面と、②教養として身に付ける側面の二つに整理し直し、「事項のまとまり」という単位で構造的に示す方針が示された。生成AIやSNSの普及によって情報環境が急速に変化する中、検索結果の要約をそのままコピー&ペーストして十分な思考を経ないまま提出する実態が現場で散見されるとの指摘もあり、情報の信頼性・妥当性を確かめた上で活用する力の育成が改めて重視されている。

高等学校の科目構成についても大きな見直しが示された。現行の必履修科目「現代の国語」「言語文化」の枠組みは維持しつつ、選択科目は「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」の4科目から、標準的な内容を組み合わせた4単位の「現代の国語Ⅱ」(仮称)・「言語文化Ⅱ」(仮称)と、より発展的な内容を扱う2単位の「論説と批評」「対話と表現」「文学と創作」「古典と文化」(いずれも仮称)へと再編される。背景には、選択科目間の履修率の著しい偏りがある。文部科学省の推計によれば、現行の履修率は論理国語77%、古典探究87%に対し、国語表現はわずか16%にとどまっており、実社会で必要なコミュニケーション能力の育成を主眼とする科目が大学入試との関連が薄いことなどを理由に選択されにくい実態が指摘されている。

評価の在り方についても、形成的評価と総括的評価の意義を踏まえた実質的な評価場面の精選という方向性が示された。〔思考力、判断力、表現力等〕は単元末のパフォーマンス評価を中心とし、〔知識及び技能〕の運用側面は複数単元を経た後の総括、教養側面は単元末での総括というように、評価負担の軽減を図る考え方が提示されている。

巻末に付された参考資料・データ集には、読書習慣の形成に関する危機的な状況も示されている。学校読書調査によれば、1か月に1冊も本を読まない「不読率」は、高等学校で令和7年度に55.7%、中学校で24.2%に達し、いずれも上昇傾向にある。PISA調査の国際比較では、日本の生徒が新聞を「月に数回」以上読む割合は2009年の57.6%から2018年には21.5%へと大幅に減少し、雑誌についても64.5%から30.8%へと落ち込んでいる。一方でスマートフォンやSNSの利用時間は年々増加しており、東京大学社会科学研究所とベネッセ教育総合研究所の調査では、小学生の段階では読書時間とスマートフォン利用時間が「時間の取り合い」の関係にあることも示されている。

現場視点の一般的な懸念

懸念1:「話や文章の機能」による再構造化に伴う移行期の実務負担

「話や文章の機能」という新しい軸に基づく指導計画の組み替えは、現場教員にとって教材観・単元設計の考え方そのものの転換を迫るものである。取りまとめ案自体が「事実や知識の整理と理解」「考えや主張の理由付けと吟味」などの機能名称をいずれも「仮称」として示すにとどめ、告示・解説の作成過程で引き続き検討するとしている。名称や具体的な整理の仕方が確定しない段階では、現場が実際に年間指導計画や教材選定に着手することが難しく、移行期に周知や研修が追いつかないまま告示を迎える懸念がある。

懸念2:高校選択科目再編に伴う教員配置・教科書採択の負担

選択科目を「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」から「現代の国語Ⅱ」「言語文化Ⅱ」中心の体系へと再編する構想は、履修率の偏りという実態を踏まえた合理的な見直しである一方、学校現場では時間割編成、教員の専門性に応じた担当科目の再配置、教科書採択の見直しといった実務が短期間のうちに求められることになる。特に、現代文と古典を組み合わせた科目区分から、標準・発展の二段階構成へと移行する過程では、これまで「論理国語」や「古典探究」を専門に担当してきた教員の指導範囲の再編成も避けられない。

懸念3:「教科書等を読み解く力」をめぐる教科間の役割分担の曖昧さ

取りまとめ案は、国語科で育成すべき「読む力」と各教科で必要とされる「教科書等を読み解く力」の役割分担が「十分に整理されていない」という課題を自ら指摘しつつ、今後、日常的に用いられる語句や教科によって意味の異なる語句などについて整理し、教科書の改善や多様な教材開発を促す取組を行うとするにとどまっている。教科等横断的な言語能力の育成という総論には異論が少ない一方、具体的にどの教科がどの場面で指導責任を負うのかという各論が示されないまま、現場に対して「教科書等を読み解く力」の育成が期待される構図になりかねない。

懸念4:評価の見直しが実際に現場の負担軽減につながるかの不透明さ

評価場面の精選という方向性自体は歓迎すべきものだが、〔知識及び技能〕を「①運用しながら深める事項」「②教養として深める事項」という二側面に分け、それぞれ異なるタイミングで形成的評価・総括的評価を行うという設計は、現行の評価構造と比べてむしろ複雑さを増している面もある。総則・評価特別部会での検討と連動する形で具体的な評価表のひな形や記入例が示されない限り、各学校が独自に評価の運用方法を模索することになり、結果として負担軽減という趣旨が現場に浸透しない可能性がある。

懸念5:生成AI・ICT活用に関する指導方針の抽象性

生成AIの出力を「比較・吟味し、自ら考え、判断し、表現した内容を自らの言葉で説明し責任を持つことができるようにする」という方針は理念として妥当だが、具体的にどのような発問・活動を通じてこの力を育成するのか、国語科の授業レベルでの実践知は現時点で乏しい。取りまとめ案自身も「更なる技術の進展等、情報技術の変動性や陳腐化の可能性を踏まえた対応を行う必要がある」と留保しており、現場としては継続的な指導事例の更新なしに対応することが難しい分野である。

懸念6:読書習慣低下という構造的課題への対応策の限定性

不読率の上昇や新聞・雑誌講読率の大幅な低下という深刻なデータが示されている一方、取りまとめ案が示す対応策は「地方財政措置の積極的な活用」による学校図書館の機能充実や、司書教諭・学校司書との連携強化といった従来型の枠組みにとどまっている。参考資料集自体が、家庭でのスマートフォン・SNS利用時間の増加と読書時間の減少との関連を示唆するデータを提示しているにもかかわらず、本文の改善の方向性ではこの家庭環境要因への具体的な言及が乏しい。また地方財政措置は自治体の裁量に委ねられる性質上、地域間格差の是正手段としての実効性には限界がある。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

改善提案1:確定版の周知に先立つ移行支援策の整備

「話や文章の機能」等の名称・定義が仮称の段階であることを踏まえ、告示公表前の段階から、モデル単元例や年間指導計画の試案を複数示し、現場教員が実際の授業イメージを持てるようにする必要がある。告示から実施までの移行期間中、複数年度にわたる段階的な研修プログラムを整備し、確定版の周知スケジュールをあらかじめ明示することが求められる。

改善提案2:科目再編に対応した移行ロードマップの早期提示

高校選択科目の再編にあたっては、教科書発行スケジュール、教員研修計画、時間割編成のモデルケースを含めた具体的な移行ロードマップを、告示後速やかに自治体・学校に提示すべきである。特に、現行科目を担当してきた教員が新科目への円滑な移行を図れるよう、専門性の橋渡しとなる研修機会を十分な移行猶予期間とともに確保することが望ましい。

改善提案3:教科横断的な言語能力育成における役割分担の明確化

「教科書等を読み解く力」の育成について、総則および各教科の解説において、どの教科がどのような場面でどのように指導するのかをより具体的に明記し、国語科教員のみに責任が偏らないよう校内体制の整備を制度的に後押しする必要がある。教科等横断的な語彙指導の実施主体を明確にした上で、各教科の教材開発を進めることが望ましい。

改善提案4:評価の簡略化を実感できる具体例の提示

評価場面の精選という趣旨を現場が実感できるよう、文部科学省が「事項のまとまり」ごとの評価規準・評価表の具体例をモデルケースとして提示し、各学校が独自に評価の運用を一から設計する負担を軽減すべきである。総則・評価特別部会の検討結果と併せて、分かりやすい解説資料の整備が求められる。

改善提案5:国語科に特化した生成AI活用指導事例集の整備

生成AIの活用に関する指導方針を具体化するため、国語科の授業レベルでの発問例、評価の視点、注意すべき落とし穴などをまとめた指導事例集を早期に整備し、教員研修に組み込む必要がある。技術の変化に応じて内容を継続的に更新できる体制を併せて構築することが望ましい。

改善提案6:家庭を含めた読書環境整備への具体的な言及

学校図書館の機能充実にとどまらず、家庭におけるスマートフォン利用時間と読書時間との関係を踏まえた啓発活動や、新聞・雑誌等の紙媒体に触れる機会を教育課程内外で意図的に設計する具体策を、地方財政措置の使途例とともに提示すべきである。地域間格差の是正に向けては、財政措置の活用状況を国が継続的に把握し、活用が進まない自治体への働きかけを強化することも検討に値する。

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