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要約
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会外国語ワーキンググループが公表した「外国語ワーキンググループ取りまとめ(案)※会議後修正」では、CEFR A1レベル相当以上を有する中学生の割合がH25の32.2%からR6には52.4%へ、高校生のCEFR A2レベル相当以上を有する割合もH25の31.0%からR6には51.6%へと上昇した実績を踏まえつつ、次期学習指導要領改訂に向けた広範な改善の方向性が示されており、現場視点からは少なくとも6つの懸念が浮かび上がる。
本取りまとめはまず、現行学習指導要領の成果として、小学校での外国語活動導入と「読むこと」「書くこと」の段階的接続、中学校での対話的言語活動の重視、高校での科目再編(英語コミュニケーション/論理・表現)による発信力強化の取組を挙げる一方、課題として、語彙数の大幅増加にもかかわらず選定基準や具体的リストが示されておらず教科書間で語彙にばらつきが生じていること、中学校の文法事項が増加し内容が過度に高度化しているとの指摘があること、そして「言語活動」の解釈にばらつきが見られ、他教科と比べて位置付けが重い外国語固有の概念を既存の共通用語で表しきれていないことを列挙している。さらに小学校では「書くこと」の正答率に学校間で最大約30〜90%の差があること、中学校では経年変化分析調査のスコアが低下傾向にあること、高校の「論理・表現」では5領域をバランスよく扱う「英語コミュニケーション」と比較して活動を通じた英語使用機会が十分に与えられていないことなど、校種ごとの具体的な課題も示されている。
改善の方向性としては、AIの発達により翻訳が容易になる時代における外国語学習の本質的意義を、「言葉、文化、コミュニケーションへの深い理解を育むこと」と「自分の考えが磨かれて思考が深まるとともに、人間関係が豊かになること」の二つの観点から再整理し、目標・見方考え方・内容に反映させるとしている。具体的な制度設計としては、複数のコーパスを参照して国が「基盤語彙リスト」を作成し教科書発行者に使用を推奨すること(最も頻度の高い3,000語で一般的なテキストの約95%をカバーし、20,000語で約99%に達するとのデータが示されている)、現行の「言語活動」を「コミュニケーション活動」(主に思考力・判断力・表現力等を育成)と「コミュニケーション活動を支える活動」(主に知識及び技能を育成)に再整理して目標の柱書に位置付けること、英語の目標を現行の領域別(聞く・読む・話す・書く)記載から知識及び技能/思考力・判断力・表現力等/学びに向かう力・人間性等の三観点で示す構成に改めること、が中心に据えられている。
高校段階では、必履修科目「英語コミュニケーションⅠ」を5領域を総合的に扱う趣旨を明確化した「英語コミュニケーション(総合)Ⅰ」に、選択科目「論理・表現」をProduction・Interactionによる発信力強化の趣旨を明示した「英語コミュニケーション(発信)」に、それぞれ名称変更する方向が示されている。あわせて、CEFRとの対応関係が明確な外部試験を活用し、B2レベル相当以上の英語力を有すると認められる生徒については必履修科目の履修を発展的な学習や英語以外の外国語の学校設定科目等に振り替えることを認める制度運用の開始が盛り込まれた。教員養成・研修面では、第二言語習得研究や認知心理学、学習科学の知見を踏まえた学習方略指導の充実、文部科学省による全国規模のオンライン研修実施、ALT等との連携強化などが挙げられている。学習評価についても、国が「内容のまとまりごとの評価規準例」を示すことで各学校による評価規準の個別作成義務を軽減し、単元の目標をそのまま評価規準として活用できるようにするなど、評価プロセスの簡素化が図られる方向である。
英語運用能力に関する社会全体の課題として、英語話者が日本語の専門的能力を身に付けるために必要とされる授業時間数が2,200時間とされる一方、日本の小中高の外国語授業時間は600〜1,000時間程度にとどまるとのデータ(米国国務省Foreign Service Institute資料に基づく)が示され、この構造的な時間的制約を家庭学習との連携やAIの活用による発話量確保で補う方向性が打ち出されている。以下、現場視点からの懸念と改善提案を整理する。
現場視点の一般的な懸念
- 語彙・文法の精選策が新たな移行負担を生む可能性:本文書は現行学習指導要領で語彙数・文法事項が増加し「指導や学習の負荷が上がっている」との指摘を明記している一方、その解決策として提示される基盤語彙リストの作成・教科書への反映は、教材の差し替えや指導計画の再構築など、学校・教員に新たな移行作業を課すことになる。移行期のスケジュールや支援体制についての具体的な言及は乏しい。
- 「言語活動」から「コミュニケーション活動」への用語再整理に伴う現場の混乱:「言語活動」の解釈のばらつきという課題を解消するために「コミュニケーション活動」「コミュニケーション活動を支える活動」という新たな二分構造を導入する方針が示されているが、これは各校の指導案・評価規準・教材構成の抜本的な見直しを要求するものであり、移行期における実務負担への配慮が十分に読み取れない。
- 「論理・表現」における指導困難の要因分析が構造的制約に十分踏み込んでいない:文書は「論理・表現」で活動を通じた英語使用機会が不足している要因として、文法解説中心の教科書運用や個別フィードバックの物理的困難、教師が指導方法に難しさを感じている実態を挙げているが、これらは学級規模や授業時数といった構造的制約に起因する面が大きいにもかかわらず、対応策は科目名変更や教材工夫が中心であり、指導条件そのものの改善には踏み込んでいない。
- 地域間格差への対応が事例共有・検討にとどまる:英語以外の多様な外国語について、「地域によっては学校数が限られ、教育委員会等における研修が実施しにくい」という課題を認めつつ、対応策は「関係者間の共有」や「専門機関との連携可能性の検討」にとどまり、財政的措置は示されていない。AI活用格差についても「先行事例の成果を共有」することが中心的な対応となっている。
- AI活用の前提が楽観的である:AIの学習指導要領への明記やAI活用の位置付けが、外国語学習の質・量の充実や発信力強化に資するとの前提で議論が進められている一方、AI活用が学習指導要領等に位置付けられていないこと自体が「学校現場での活用格差を生み、外国語学習の量や質の差につながる」との課題認識が示されているにもかかわらず、AI依存によるコミュニケーション意欲・スキルへの影響や、学校間の機器・通信環境格差是正の具体策については十分な検討が示されていない。
- 高校必履修科目の履修免除制度が教育機会格差を広げる可能性:CEFR B2レベル相当以上の外部試験結果により必履修科目の履修免除・振替を認める制度は、高い英語力を持つ生徒への発展的学習機会提供という利点がある一方、外部試験の受験可否や結果は経済的・地域的条件に左右されやすく、免除対象生徒とそれ以外の生徒との学習機会格差を広げる可能性がある。
改善提案
- 基盤語彙リストの導入や教科書語彙数の見直しにあたっては、教員研修・移行支援のロードマップをあらかじめ明示し、既存教材からの移行に伴う作業量を定量的に把握した上で、他の外国語WG施策との実施時期の重複を避けるなど、学校現場の年間業務量を通算したうえでの実施スケジュールを設計すべきである。
- 「コミュニケーション活動」「コミュニケーション活動を支える活動」への用語再整理を実施する場合は、移行期における評価規準・指導案の暫定的運用ルールやサンプル教材を国が先行して提示し、各校が独自に一から再設計せずに済む体制を整えるとともに、十分な教員研修の機会を確保すべきである。
- 「論理・表現」(新称「英語コミュニケーション(発信)」)の改善においては、教材工夫や科目名見直しに加え、少人数指導やティームティーチングの拡充、個別フィードバック業務を支援するデジタルツールの整備など、指導条件そのものの改善策を具体的に盛り込むべきである。
- 多様な外国語教育及びAI活用における地域間格差の是正については、事例共有にとどまらず、専門機関との連携経費やICT環境整備への財政的支援を検討し、条件不利地域への重点的な資源配分を制度として明確化すべきである。
- AIの学習指導要領への位置付けにあたっては、活用の有効性だけでなく、過度な依存によるコミュニケーション意欲・思考力への影響や、学校間の機器・通信環境格差について留意点を解説等に明記するとともに、活用状況を継続的にモニタリングする体制を整備すべきである。
- 必履修科目の履修免除・振替制度の運用にあたっては、外部試験の受験機会が経済的・地域的条件に左右されないよう、公的試験の無償提供や校内実施の枠組みを併せて検討し、免除対象生徒とそれ以外の生徒との間で教育機会格差が生じないよう配慮すべきである。


