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要約
要約
本資料は、次期学習指導要領の総則と学習評価の在り方を審議する中央教育審議会教育課程部会総則・評価特別部会の第11回(令和8年7月22日開催)配付資料であり、部会としての「取りまとめ(案)」を示すものである。各教科等の標準授業時数を学校判断で最大15%(小学校で最大138コマ、中学校で最大128コマ、週4コマ相当)まで下回って設定できる「調整授業時数制度」の具体像がここで初めて数値込みで固まったが、注目すべきは、その捻出した時数のうち週1コマ(最大35コマ)分を、児童生徒の学習活動ではなく教員の「研究・研修等」に充ててよいとする設計である。子供の授業時間を原資として教員の研修時間を生み出すという構図は、教育課程の歴史上例のない転換であり、その是非は制度の細部を精査して判断する必要がある。現場視点から6つの懸念点を整理する。
取りまとめ案の射程は広い。第一に、各教科等の内容を「知識・技能の統合的な理解」「思考力・判断力・表現力等の総合的な発揮」という新たな枠組みで構造化し、学習指導要領本体を表形式で示し直すとともに、学年別目標を廃して「◯学年相当」という柔軟な表記に改める。第二に、学習指導要領をウェブサイトベースの「デジタル学習指導要領」として提供し、教科書・教材との相互参照、学習指導要領コードによる検索、生成AIへの読み込みを前提とした機能刷新を構想する。第三に、義務教育段階の調整授業時数制度では、生み出した時数を「裁量的な時間」(児童生徒向けの学習枠と教員向けの研究・研修等枠、合計で週2コマ・最大70コマが上限)、既存教科への上乗せ、学校独自の教科新設に充当可能とし、現行の授業時数特例校・教育課程特例校制度を同制度に統合して各学校の判断で実施できるようにする。年間授業週数の標準も35週から40週へ改め、週28コマ化を促す。第四に、高等学校では1単位の計算基準を50分×35コマから17コマへ細分化する「新単位」を導入し(卒業要件は74単位から148新単位に読み替え)、必履修科目を含む科目内容の他科目への移行・統合(組替え後科目)、これまで原則不可だった減単の容認、CEFR B2以上の英語外部試験等を活用した必履修科目の履修免除・振替までを一体的に制度化する。第五に、「学びに向かう力・人間性等」の観点別評価を廃止し、教育課程全体を通じた個人内評価を基本としつつ、「思考・判断・表現」の学習過程で「見取る姿」が継続的に発揮された場合に「◯」を付記し、評定には「一体的な勘案」を通じて影響させるという新方式を示す。第六に、情報活用能力の抜本的向上のため小学校総合に「情報の領域(仮称)」、中学校に「情報・技術科(仮称)」を新設し(中学1・2年で各学年最大70コマ)、その時数は標準総授業時数を増やさない前提の下、週1コマ超の各教科等から一律の考え方で減じて確保する。全面実施は小学校が令和12年度、中学校が令和13年度の想定だが、調整授業時数制度は令和10年度からの先行実施を可能とする方向であり、サキドリ研究校(現在332校)は今年度中に追加募集して令和9年度に大幅拡大するとしている。全体として、標準総授業時数という固定されたパイの中で、情報教育の新設、深い学びの「余白」、教員の研修時間のすべてを賄うゼロサムの再配分設計になっている点が、本資料を読み解く鍵である。
現場視点の一般的な懸念
1.教員の研修時間を児童生徒の授業時数から捻出する構造は、条件整備の責任の所在を曖昧にする
裁量的な時間のうち「研究・研修等枠」(週1コマ・最大35コマ)は、教材研究・授業研究や学校が企画する研修に、各教科の標準授業時数を減じて生み出した時間を充てる仕組みである。教員が勤務時間内に研修時間を確保できない現状は深刻であり、週27コマの授業+研究・研修1コマという週時程の姿そのものは現場の願いに近い。しかし、この時間の原資はあくまで児童生徒の授業時数である。資料自身が「まず不断の業務改善や日課の見直し等を通じて、勤務時間内に必要な研究・研修等の時間を確保できるよう取組を進めることが前提となる」と釘を刺しているが、この前提を担保する仕組みは示されていない。本来、教員の研修時間は教職員定数の改善や業務削減という条件整備で保障すべきものであり、それが教育課程内部の時数再配分で処理されるなら、国・設置者が負うべき条件整備責任が学校の「裁量」の中に溶けてしまう。保護者に対して「お子さんの授業を減らして先生の研修に充てます」と説明する役回りを担うのは校長と教員自身であることも、忘れてはならない。
2.質確保の仕組みが事後是正型に偏り、指導主事の体制格差がそのまま制度活用の地域格差になる
調整授業時数制度にも高校の単位制柔軟化にも、国・都道府県・市町村・各学校の役割分担を示した質確保の枠組みが用意されている。ただしその中身は、教育課程編成届への記載、HPでの公表、計画訪問での実態把握、そして「不適切な運用があった場合には速やかに是正を図る」という事後対応が中心である。市町村教育委員会の指導主事の実務能力向上を研修で図るとされるが、指導主事の配置自体が薄い小規模自治体では、制度を使いこなす伴走支援も、不適切運用の検知も、どちらも機能しにくい。先行研究開発学校68校の多くが国立大学附属や体制の整った学校であることを踏まえると、「攻めの教育課程編成」ができる学校と、標準通りに運用するしかない学校との差が広がり、好事例の共有という手法だけでは埋まらない地域格差が構造的に放置される懸念がある。
3.情報教育の時数を全教科から「薄く一律に」削って確保する方式は、資料自身が認める学力課題と緊張関係にある
中学校の「情報・技術科(仮称)」は1・2年で各学年最大70コマ、小学校総合の「情報の領域(仮称)」は高学年で最大35コマを要し、その時数は標準総授業時数を増やさない前提の下、週1コマ超の各教科等から標準授業時数に応じて一律の考え方で減じて確保するとされる。情報活用能力の体系的育成という方向性自体に異論は少ないだろうが、注意すべきは、同じ資料の中で全国学力・学習状況調査の経年変化分析における学力の低下傾向や、基礎的な概念の理解に課題のある児童生徒が多い実態に言及していることである。各教科の時数減は「統合的な理解・総合的な発揮」に基づく内容の精選とセットで初めて成立する設計だが、精選の具体は各教科等WGと文部科学省の今後の検討に委ねられ、教科書の分量や入試の出題がそれに追随する保証はない。内容が変わらないまま時数だけが先に減れば、しわ寄せは授業進度と教師の裁量に来る。これは前回改訂時にも繰り返された経路である。
4.「学びに向かう力」の「◯」評価は、肝心の「見取る姿」が改訂後の後出しとされ、評定のばらつきを制度が公認する設計になっている
「学びに向かう力・人間性等」の観点別評価を廃し、「思考・判断・表現」の過程で「見取る姿」の継続的な発揮を見取って「◯」を付記する新方式は、形式的な評価材料集めからの脱却という問題意識において妥当性がある。しかし運用の要となる「見取る姿」は「学習指導要領の改訂後速やかに検討して示す」とされており、評価の根幹が告示時点では存在しない。さらに「◯」の評定への影響は「一体的な勘案」と説明され、「思・判・表」がB◯の生徒の評定が4にも5にもなり得ること、同じ観点別評価と◯の組み合わせでも学校によって評定が異ならざるを得ないことを、資料は明示的に容認している。評定が高校入試の調査書に直結する中学校現場では、この「専門的・総合的判断」の幅がそのまま保護者・生徒への説明負担となり、説明に窮した学校が結局は独自の点数化ルールという新たな形式主義に回帰するリスクが高い。
5.高校の単位制度改革は有意義な柔軟化と引き換えに、教務実務の複雑性と外部試験依存という新たなコストを持ち込む
1単位17コマへの細分化、卒業148新単位への読み替え、組替え後科目の創設、2単位必履修科目まで含めた減単の容認、必履修「教科」ごとの減単下限(3新単位)、CEFR B2以上の外国語外部試験や数学Ⅱ・B相当の外部試験による履修免除・振替、学校設定教科・科目の上限拡大(普通科56新単位)。これらが令和9年度末予定の改訂で一斉に導入される。単位数の管理、教育課程届、調査書、大学入試の出願資格確認といった教務実務は指数的に複雑化するが、それを担うのは多くの場合、専任の割ける人員が乏しい小規模校・課題集中校の教務部である。また履修免除の入口となる外部試験は検定料を伴う民間試験であり、受験機会の乏しい地方や経済的に厳しい家庭の生徒には事実上閉ざされた選択肢となる。大学入学共通テストへの英語民間試験導入が公平性の壁で頓挫した経緯を踏まえれば、同種の格差構造を高校の教育課程本体に埋め込むことへの検証は慎重であるべきだ。
6.改革の意義説明が労働市場論に強く傾斜し、普通教育の市民形成的・文化的価値が後景化している
高校の単位制柔軟化を根拠づける記述では、「生成AIがけん引する社会の急速なデジタル化」「大規模な労働力需給ギャップ」が前提とされ、数学教育改革の箇所では「AIやデータ等を駆使しながら地域の社会や経済を支えるアドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成」が急務と明言される。産業構造の変化に教育が応答すること自体は必要だが、本取りまとめ案では、教育課程の柔軟化・科目再編・外部試験活用といった主要な制度設計の正当化根拠が、ほぼ一貫して人材供給論の語彙で語られている。学習指導要領総則は本来、主権者の育成、文化の継承と創造、人格の完成といった価値を各教科の上位で束ねる場所である。「見方・考え方」の意義について「よりよい社会や幸福な人生に繋げる」と述べる箇所や言語能力の「身体性」への言及など、人間形成的な記述が皆無ではないだけに、制度の背骨の部分が経済的有用性一色で説明されるアンバランスは、この改訂全体の性格を規定しかねない。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
1.研究・研修等枠は教職員定数改善・業務削減の工程表とセットで制度化し、「授業時数の付け替え」で完結させない
研究・研修等枠の創設と並行して、国は教職員定数の改善計画と学校業務の削減目標を工程表として示し、児童生徒の授業時数に依存しない研修時間確保の道筋を明らかにすべきである。そのうえで、各学校の研究・研修等枠の実施内容と成果を教育課程編成届・HP公表の項目として具体化し、時数消化型の形式的研修に陥っていないかを設置者が検証できる観点を、施行前に国が示すことが求められる。
2.質確保は事後是正から事前支援へ重心を移し、小規模自治体への指導主事配置等を財政措置として明示する
制度施行に先立ち、指導主事の増員・広域派遣や近隣自治体との共同支援体制の構築を、努力義務ではなく地方財政措置を伴う具体策として示すべきである。サキドリ研究校の拡大に当たっては、国立大学附属や都市部の体制の整った学校に偏らないよう、小規模自治体・小規模校を意図的に指定枠に組み込み、「支援が薄い環境でも回る制度か」を検証する設計とすることが望ましい。
3.各教科の時数減は内容精選・教科書分量・入試出題の三点セットの進捗と連動させ、学力への影響を継続測定する
情報教育の時数確保に伴う各教科の標準授業時数減は、各教科等の内容精選の告示反映、検定教科書の分量の実際の縮減、高校入試・大学入試の出題範囲の対応という三つの条件の進捗を確認しながら段階的に適用すべきである。あわせて、全国学力・学習状況調査の経年変化分析を制度評価に明示的に組み込み、時数減先行による学力・格差への影響が確認された場合の見直し手順をあらかじめ定めておくことが必要である。
4.「見取る姿」とその運用は告示と同時に示し、入試調査書での扱いを事前に整理したうえで自治体単位の評価の目線合わせを制度化する
「◯」付記の着眼点となる「見取る姿」と運用方法は、改訂後ではなく告示と同時に公表し、学校が移行期間中に試行できるようにすべきである。また高校入試の調査書における「◯」と評定の扱いについて、都道府県教育委員会が入試要項改訂前に方針を示すことを国が促し、域内での評価事例の共有・すり合わせ(モデレーション)の場を指導主事研修等に恒常的に位置づけることで、評定のばらつきに対する説明可能性を担保すべきである。
5.高校の制度変更は高校版サキドリ研究校での教務実務検証と校務支援システム改修を先行させ、外部試験活用には検定料の公費支援を伴わせる
新単位・組替え後科目・減単・履修免除を同時に全国展開するのではなく、令和10年度からの高校版サキドリ研究校において、教務システムのソフトウェア対応、調査書・指導要録の様式、大学出願時の単位数証明の実務を検証し、必要な校務支援システム改修の費用措置とセットで段階的に展開すべきである。履修免除に用いる外部試験については、検定料の公費負担や学校会場での受験機会の保障を制度の要件側に組み込み、家庭の経済力・居住地による利用格差を生まない設計とすることが不可欠である。
6.総則の理念部分に市民形成・文化的価値の位置づけを明記し、経済的有用性との均衡を改訂の評価軸に含める
取りまとめから答申に至る過程で、教育課程の柔軟化や科目再編の意義を、労働市場への応答だけでなく、主権者教育・文化の継承・人格形成という普通教育の本質的価値との関係で説明し直す記述を総則の理念部分に明記すべきである。特に「多様な見解のある事柄や未確定な事柄の取り上げ方」を総則の共通事項に格上げする今回の方向性は、市民形成の観点から重要な布石であり、この趣旨を人材供給論と並ぶ改訂の柱として位置づけ、各学校の特色化が進路実績や資格取得への傾斜に回収されないよう、解説に留意点を示すことが求められる。
本取りまとめ案は、教育課程企画特別部会が示した「主体的・対話的で深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」という三本柱を、総則・評価の水準で具体化するものであり、扱う論点は多岐にわたる。第一に、各教科等の「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」を「統合的な理解」「総合的な発揮」として構造化し、学習指導要領を表形式で示し直す方針を打ち出している。第二に、学習指導要領そのものをウェブサイトベースの「デジタル学習指導要領」として提供し、教科書・教材との相互参照や生成AIによる活用を前提とした機能刷新を構想している。第三に、本稿で焦点を当てる調整授業時数制度により、義務教育段階で標準授業時数を最大15%まで下回って設定でき、生み出した時数を「裁量的な時間」(学習枠・研究研修等枠)や既存教科への上乗せ、新教科の創設に充てられる仕組みを具体化している。第四に、高等学校では単位計算の基準を1単位35コマから17コマへと細分化する「新単位」制度を導入し、必履修科目の減単容認、科目内容の柔軟な組み替え、外部試験による履修免除・振替など、単位制度を大幅に柔軟化する内容を含む。第五に、「学びに向かう力・人間性等」の評価について、これまでの目標準拠評価をやめ、思考・判断・表現の評価に「○」を付記する個人内評価中心の方式へと転換する具体案を示している。第六に、情報活用能力の抜本的な向上に向けて、小学校総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を、中学校に「情報・技術科(仮称)」を新設し、その時数を既存教科から一律の考え方で減じて確保する方針を示している。これらはいずれも、年間の標準総授業時数を現行以上に増やさないという大臣諮問の前提の下で、教育課程全体をどう再配分するかという「ゼロサム」の調整として設計されている点に留意が必要である。現場視点から6つの懸念点を整理する。
現場視点の一般的な懸念
1.「余白」の創出が、児童生徒の学習時間を原資とする構造になっている
調整授業時数制度は、各教科等の標準授業時数を最大15%(小学校で最大138コマ程度、中学校で128コマ程度、週4コマ程度)まで下回って設定できる仕組みである。ここまでは「多様性の包摂」を掲げる制度趣旨として理解できる。しかし本資料が示す「裁量的な時間」の内訳を見ると、最大70コマ(週2コマ)のうち最大35コマ(週1コマ)分は、児童生徒の学びそのものではなく、教員の「研究・研修等枠」――教材研究や授業研究、学校が企画する研修――に充てることが認められている。教師の研修時間の確保自体は現場から歓迎される話だが、その原資が「各教科の授業時数を減じて生み出す」という設計である以上、実質的には児童生徒の授業時間を削って教員研修の時間を捻出する構図になっている。働き方改革の文脈で語られてきた「教員の研修時間確保」という課題が、いつの間にか「子供の授業時数の再配分」問題にすり替わっていないか、現場では丁寧な説明が必要になるだろう。
2.質確保の仕組みが「事後の是正」中心で、実施前の支援体制が薄い
調整授業時数制度にも単位制の柔軟化にも、国・都道府県・市町村・各学校それぞれの役割分担を示した質確保の仕組みが用意されている。しかし記載されている内容の多くは「不適切な運用があった場合には速やかな改善を図る」「必要に応じて指導・助言を行う」といった事後対応であり、実施前段階での人員配置や予算措置には具体的に触れられていない。市町村教育委員会には「指導主事研修等を実施し実務能力の向上を図る」とあるが、指導主事そのものが恒常的に不足している自治体も多く、都市部と地方、大規模校と小規模校の間で「制度を使いこなせる学校」と「使いこなせない学校」の差が固定化しやすい設計になっている懸念がある。
3.「統合的な理解・総合的な発揮」という新概念が、経験の浅い教師にとって単元構想の負荷を増やす
本資料は「高次の資質・能力」という呼称は現場に誤解を招くとして採用しなかった一方、「統合的な理解」「総合的な発揮」という枠組み自体は維持し、これに基づく表形式化・単元構想プロセスの提示を進めている。既存の「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力等」との対応関係を整理し直す作業が、教科書改訂や指導書の充実に先行して教師に求められることになれば、特に若手・経験の浅い教員ほど、単元設計の負担が一時的に増大するリスクがある。資料内でも「経験の浅い教師でも資質・能力を関連付けて深めていく授業づくりができるようになっていく環境を整えていくことが重要」と留意されているが、教科書会社の編纂スケジュールや現場研修のタイミングとの整合が取れなければ、告示直後の移行期に混乱が生じやすい。
4.「学びに向かう力」の評価が、学校・教師間でのばらつきを容認する設計になっている
「思考・判断・表現」の過程で見取る姿が継続的に発揮された場合に「○」を付記し、それが評定に「一体的に勘案」されるという新方式は、形式的な評価材料集めからの脱却という点で理解できる面がある。しかし本資料自身が「観点別評価と○の組み合わせが同じでも必ずしも評定が同じとならない」「評定の具体の決定方法は所管の教育委員会の方針及び指導を司る教師の専門的・総合的判断による」と明記している通り、制度上、評定のばらつきが構造的に許容されている。進学・進級に関わる評定の付け方が学校・教師の裁量に委ねられる度合いが強まることは、保護者や生徒への説明責任という観点からは新たな摩擦を生みやすい。
5.高校の単位制度改革が、現場の教務実務を複雑化させる
1単位の授業時間を35コマから17コマに細分化する「新単位」制度、科目の内容を移行・統合する「組替え後科目」、外部試験による必履修科目の履修免除・振替など、高校の単位制度は複数の新しい概念が同時に導入される。減単の考え方も「原則不可」から「一定の限度で可能」へと転換し、教科ごとに減単可能な単位数が細かく設定される。これらは生徒の多様性に応じる柔軟性を高める一方で、卒業認定や教育課程届出、時間割編成といった教務実務を担う現場(多くは進路多様校や小規模校で、専任の教務担当が手薄なところ)にとっては、制度の細部を正確に運用しきれるかという不安が残る。
6.高校教育課程の柔軟化の意義説明が、労働市場論に強く傾いている
単位制の大幅な柔軟化を論じる箇所では、「生成AIがけん引する社会の急速なデジタル化」「労働力需給ギャップ」といった経済・労働市場の用語が前面に出され、「学校教育を『起点』として社会課題の解決や社会経済の発展等につながる動きを生み出す」ことが柔軟化の主要な意義として語られている。もちろん実社会との接続を意識した改革は重要だが、普通教育が本来担うべき市民性・教養・人格形成といった価値が、経済的有用性の語りの陰でやや後景化している印象を受ける。学校現場が「攻めの教育課程編成」という言葉に引きずられ、進路実績や資格取得偏重の運用に傾かないか、注視が必要である。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
1.研究・研修等枠の運用を透明化し、授業時数のねん出目的化を防ぐ基準を明確にすべきである
「研究・研修等枠」の実施状況(頻度・内容・成果)を学校ごとに公表項目として明確に義務付け、単なる時数消化のための形式的な研修に陥っていないかを都道府県・市町村が定期的に検証できる指標を、制度施行前に具体的に示すべきである。教員研修の必要性自体は認めつつ、それが児童生徒の学習機会の縮小を代償とする構図にならないよう、教育課程全体でのバランスを可視化する仕組みが求められる。
2.制度の運用を支える人員・予算面の裏付けを財政措置とセットで提示すべきである
各都道府県・市町村における指導主事の増員や研修体制の強化を、努力目標としてではなく、具体的な財政措置・人員配置基準とセットで示すべきである。制度の恩恵が指導体制の厚い自治体・学校に偏らないよう、特に小規模自治体・小規模校への重点的な支援策を先行して整備することが望ましい。
3.教科書編纂・研修スケジュールと足並みを揃えたロードマップを教員に早期提示すべきである
「統合的な理解・総合的な発揮」に基づく単元構想の考え方について、告示前から解説・参考資料・研修動画等を段階的に公開し、特に経験の浅い教員が孤立して対応することのないよう、校内研修・地域研修双方でのモデル指導案の共有を制度的に位置付けるべきである。
4.「学びに向かう力」の評価運用について、都道府県単位でのモデレーション(評価の目線合わせ)の仕組みを制度化すべきである
評定のばらつきを完全になくすことは難しいとしても、少なくとも同一自治体内での評価基準のばらつきを最小化するため、指導主事や教科等の代表教員による定期的な評価事例の共有・すり合わせの場を制度上位置付け、保護者への説明可能性を担保すべきである。
5.高校の単位制度改革は先行実施校での実務負担を十分に検証したうえで全国展開すべきである
新単位・組替え後科目・履修免除等の複数の制度変更を同時に導入するのではなく、「高校版サキドリ研究校」等の先行実施を通じて教務システムのソフトウェア対応や事務処理の実務負担を十分に検証し、必要な校務支援ツールの整備とセットで段階的に展開すべきである。
6.高校教育課程改革の意義説明において、経済的有用性と人間形成的価値のバランスを明示すべきである
単位制柔軟化の趣旨説明において、労働市場・産業構造の変化への対応だけでなく、シティズンシップ教育や教養・人格形成といった普通教育の本質的価値についても明確に位置付け、各学校が特色化・魅力化の名の下に進路実績偏重の教育課程編成に傾斜しないよう、留意点を解説等に明記すべきである。
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会総則・評価特別部会(第11回)の配布資料を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/103/siryo/mext_00001.html
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