
要約
本資料は、次期学習指導要領改訂に向けた算数・数学ワーキンググループ(WG)の取りまとめ骨子案を示したものである。令和7年10月の第1回から令和8年4月の本会(第9回)まで9回にわたる審議の集大成として、以下の方向性が示されている。
現状認識と課題 国際学力調査での数学的リテラシーは世界トップクラスを維持しているが、数学への好意的態度・自己効力感は低く、学年が上がるにつれ「楽しい」と感じる児童生徒が減少している。割合・比・分数など特定単元の習得不足が進学後の学習困難につながる「雪だるま式」の問題が深刻であり、論証・証明に関する指導も全体として不十分とされる。また、家庭の社会経済的背景(SES)による学力格差や、理工系進学における男女格差も課題として挙げられている。
改善の方向性(主なもの)
- 目標・見方・考え方の統一:小・中・高で教科目標の文言を統一し、一貫性・系統性を強化する。新たな「見方・考え方」として「事象や言説を数理の視点から論理的・統合的・発展的・批判的に考察すること」を検討。
- 6つの分野による内容整理:小学校算数~高校数学Ⅰまでの学習内容を「数と式」「図形」「変化と関係」「データと確からしさ」「論証」「社会を読み解く数学」の6分野で共通整理する。
- 新設内容「数学ガイダンス(仮称)」と「社会を読み解く数学」:数学全体の見取り図と社会・職業との関係を学ぶ内容を中学・高校に新設し、高校では必履修科目「数学Ⅰ」に組み込む。
- 高校数学の再編:選択科目「数学A・B・C」を一つの新科目に統合し、生徒が進路に応じて選択履修できる構造に改める。行列・統計・確率・数列・ベクトル等を整理。AI・データサイエンスの基盤となる線型代数・解析・確率・統計をより重視する。
- 深い学び・ICT活用・探究的な学びの充実:認知心理学・学習科学の知見(分散学習、検索練習など)を活かした指導の充実、AIドリルを含むICT活用の推進、探究的な学びの在り方の明確化を求める。
- SES格差の緩和:低SES層へのアプローチとして、校内学習環境整備やAIドリル活用など、国・自治体による積極的な情報発信・支援を求める。
- 高次の資質・能力の構造化:各分野を「区分」に分けて「統合的な理解」と「総合的な発揮」を示す表形式(並列パターン)を採用し、教師が単元設計時に参照しやすい形式で整理する。
現場視点の一般的な懸念
①「取りまとめ骨子案」の情報量と教師の解釈負担 本資料は分野・区分ごとに「統合的な理解」「総合的な発揮」「知・技」「思・判・表」を示す詳細な表形式を採用しているが、その構造は複雑で、教師が単元設計に実際に活用できるよう落とし込むまでには相当な研修や支援が必要と考えられる。特に多教科を担任する小学校では、教科間の記載様式の差異がさらなる理解困難を生じさせる可能性がある。
②新設内容(数学ガイダンス・社会を読み解く数学)の授業時数確保 「数学ガイダンス(仮称)」と「社会を読み解く数学」の新設が提案されているが、資料でも明記されているとおり「総授業時数を増加させないことが前提」である。現行内容を維持しながら新設内容を加えることは時数上の矛盾を生じさせやすく、何を削るかの判断が現場に委ねられた場合、学校間で格差が生じる恐れがある。
③「雪だるま式つまづき」への対応策と指導時間の現実 割合・分数・証明など課題が指摘されている内容の「確実な習得・定着」を求める記述が随所に見られるが、それを実現するための授業時間・教師配置・補充指導の体制については具体的な手立てが示されていない。認知心理学の知見(分散学習等)の活用も重要な提言であるが、それを日常授業で実装するには教師自身が新たな指導観を習得する必要があり、現職研修の質・量が課題となる。
④ICT活用の地域・学校間格差 「算数・数学におけるICT活用は教師・学校・地域・学校種等により大きな差が見られる」と資料自身が認めているとおり、1人1台端末やAIドリルの活用を前提とした指導改善は、ICT環境の整っていない地域・学校では実施困難な場合がある。環境整備への財政的支援策の見通しが不明確なまま「活用推進」を求められる点に現場の不安がある。
⑤高校における選択科目統合と指導計画の再構築 数学A・B・Cを一新科目に統合し、生徒が選択履修できる構造にすることは、高校側にとってカリキュラム編成・時間割・教員配置の大幅な見直しを迫るものである。進路多様化への対応という意義は理解できるが、少人数選択科目の開設には人員・教室・評価方法の整備が伴い、特に小規模校での実施可能性には慎重な検討が求められる。
⑥理工系進学の男女格差解消策の実効性 「政府一丸」とされるアンコンシャスバイアス解消や女子生徒の理系進路支援は重要な方向性ではあるが、それが学習指導要領改訂に直接的に盛り込まれる内容なのか、別途の施策として対応されるものなのかが曖昧であり、現場教師が担うべき責任範囲の不明確さにつながる可能性がある。
教育課程部会 算数・数学ワーキンググループ(第9回) 配付資料:文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/110/siryo/mext_00010.html

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