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要約
本資料は、次期学習指導要領における体育・保健体育、健康、安全分野の改訂の方向性を審議する中央教育審議会 教育課程部会 体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ第10回の議事録である。全10回にわたる議論を集約した「取りまとめ骨子案」の審議では、高等学校専門学科「体育」を「スポーツ」へ改称する事務局案に対し、主査自らが「競技をやっていればいいのねというメッセージに独り歩きしてしまわないか」と懸念を表明するなど、審議会内部からも文言・表現レベルでの警戒感が相次いだ。現場視点から6つの懸念点を整理する。
本会議は大きく2つの議題からなる。1つ目は部活動・地域クラブ活動の学習指導要領上の取扱いについてで、スポーツ庁が別途設置した検討ワーキンググループの報告を受けるかたちで、部活動と地域クラブ活動の当面の併存を前提とした記載方針が確認された。2つ目は本ワーキング自体の取りまとめ骨子案の審議であり、体育・保健体育の目標構造、内容の構造化、「運動との関わり方」への態度指導の再整理、水泳授業の持続可能性、教科書改善、学習評価のあり方など、多岐にわたる論点について委員から具体的な意見が出された。全体として、事務局が示した骨子案は「よくまとまっている」と高く評価されつつも、個々の文言が現場にどう伝わるかという点で細かな懸念が集中的に示された回であったといえる。
現場視点の一般的な懸念
懸念1:教科・科目名称の混在が現場の混乱を招く
佐藤(豊)委員が指摘した通り、骨子案には「体育」「保健体育」「体育科」「保健体育科」「体育保健」、また「運動・スポーツ」「運動やスポーツ」など、同義とみられる複数の表現が未整理のまま併存している。一度公的な文書として世に出た表現は事実上オーソライズされてしまうため、告示文・解説の最終化を待たずにこの段階で用語を精査しなければ、現場の教員間でも解釈のばらつきが生じかねない。
懸念2:態度評価の再整理により「指導内容を評価する」原則が曖昧化する
「学びに向かう力・人間性等」に位置づいていた態度的要素を「知識・技能」側に再整理する方針について、岡出委員は「指導した内容を評価する」という評価の大原則が記述から抜け落ちていると指摘した。また保健では見取る姿が明記されている一方、体育の該当箇所には「学びに向かう力・人間性等」の指導内容や見取る姿が示されておらず、斎藤委員は「何もイメージせずに授業をするのは心配」と述べている。評価の枠組みが変わること自体よりも、現場が何を根拠に評価すればよいか分からなくなることへの懸念が強い。
懸念3:専門学科「体育→スポーツ」改称が競技偏重メッセージとして誤読されるリスク
高等学校専門学科の教科名称を「体育」から「スポーツ」に改める案について、主査自身が「競技をやっていればいいのね」という誤解を招きかねないと述べ、実習・実技を実質的に部活動化している学校の実例があることも念頭に置いた発言をしている。教科名の変更は現場の授業観・カリキュラム編成に直接影響するため、名称変更の意図が正確に伝わらなければ、かえって教育的意義を狭めるメッセージとして機能しかねない。
懸念4:水泳における安全教育の重要性が弱い表現に留まっている
水泳授業について、安全確保につながる指導は「水に触れる機会を通して学ぶことが望ましい」という表現に留まっており、斎藤委員・佐藤(若)委員はいずれも「望ましい」ではなく「重要である」「望まれる」といった、より強い表現にすべきと指摘した。座学だけでは身につかない技能であり、中学校以降で水難事故が実際に多発している実態を踏まえれば、記述の強度が実際の指導の優先順位づけに影響しかねない。
懸念5:スパイラル型系統性が「同じ内容の繰り返し」に陥る懸念
保健・体育双方に採用されている、学校段階をまたいで同一の概念を繰り返し学ぶ「スパイラル」型の系統性について、南委員は「学校現場では、現実に同じ内容を繰り返し学んでいて、おもしろくないと感じている子供が多く見受けられる」と述べている。設計思想としての反復学習と、現場での児童・生徒の実感としての「二番煎じ」感との間にギャップが生じている。
懸念6:部活動の地域移行における教師の「希望」の実質性
部活動から地域クラブ活動への移行に伴う教師の兼職兼業について、渡辺委員は「希望する教師」という文言が、実際には「致し方なく希望させられているように見える教師」を含みうる点を懸念として提起した。地域に担い手がいない場合、結局特定の教員に負担が集中し、働き方改革という改革の出発点にあった目的が骨抜きになるリスクがある。
改善提案
提案1:用語集・表記統一表を骨子案の最終化前に整備する
「体育」「保健体育」等の教科・科目名、「運動・スポーツ」等の用語について、文脈ごとの使い分けルールを一覧化した用語集を告示・解説作成の前段階で整備し、ワーキング内での確認を経てから公表することが望ましい。特にウェブ公開される議事録・資料はそのまま検索・引用されるため、確定前の表現揺れが独り歩きしないよう配慮が要る。
提案2:評価規準に「指導したことを評価する」原則を明文化する
体育における「学びに向かう力・人間性等」についても、保健と同様に学年段階ごとの見取る姿の例示を追加し、あわせて「指導した内容を評価する」という評価の大原則を骨子案・解説の記述に明記する。これにより、知識・技能側に再整理された態度的要素が、指導と評価の対応関係を欠いた「なんとなくの評価」に陥ることを防げる。
提案3:名称変更の趣旨を解説等で先行して明示する
専門学科の名称変更を行う場合は、「スポーツ科学」のような科学的知見の活用を含意する名称の検討や、変更と同時に解説において「競技力育成が目的ではない」旨を明記するなど、名称単独が独り歩きしないための補足説明をセットで用意する。名称は最終的な告示に先行して現場に伝わる情報であるため、解説の先行公表や教員向け説明資料の準備も検討に値する。
提案4:水泳の安全教育に関する記述を「重要である」等の明確な表現に改める
水泳授業における安全確保に関する指導について、「望ましい」という婉曲的な表現を「重要である」に改め、中学校以降の段階における安全教育の検討についても「期待される」ではなく「検討すべき」という踏み込んだ表現に見直す。事故実態を踏まえた記述強度の調整は、現場の指導優先順位に直接影響する実務的な論点である。
提案5:スパイラル型系統性における「深まりの可視化」を具体例で示す
同一概念を扱う各学校段階において、単なる反復ではなく「何が新たに深まるのか」を明示する具体的な例示(学年ごとの到達目標の違いや、新たに扱う視点の追加等)を解説やモデル授業例として提供する。子供が「前にもやった」と感じないよう、反復と深化の違いを教員が説明できる材料を整えることが有効である。
提案6:地域クラブ活動への教員参画における負担分散の仕組みを制度設計に組み込む
「希望する教師」の兼職兼業が実質的な強制とならないよう、単なる留意事項の記載にとどめず、地域における担い手不足地域への支援策(外部人材バンクの整備、複数校での分担体制等)を制度設計の段階で組み込むことを検討すべきである。教師個人の善意や負担感に依存しない仕組みがなければ、働き方改革という改革の出発点自体が形骸化しかねない。
教育課程部会 体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ(第10回) 議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/112/gijiroku/mext_00011.html
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