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要約
本資料は、学校の教員構成や個人属性、異動状況等を3年周期で悉皆調査する学校教員統計調査の、令和7年度中間報告(令和8年7月22日公表)である。公立小学校における精神疾患を理由とした離職者数は、平成27年度間の331人から令和6年度間には801人へと、この9年間でおよそ2.4倍に急増しており、同期間に教員総数自体は減少しているにもかかわらずこの増加が生じている点は、文部科学省の公表資料が前面に打ち出していない切り口である。中学校(213人→365人、約1.7倍)、高等学校(75人→153人、約2倍)でも同様の増加傾向がみられ、初等中等教育全体に共通する構造変化であることがうかがえる。
これと並行して、公立小学校では採用者に占める新卒者の比率が平成27年度間の45.1%から令和6年度間には64.4%まで上昇しており、経験の浅い教員が現場に投入される割合が高まっている。一方で公立幼稚園教員は、小学校・中学校・高等学校が軒並み若返り傾向(30歳未満比率の上昇、50歳以上比率の低下)にあるのとは対照的に、平均年齢が前回調査より1.1歳上昇して42.5歳となり過去最高を更新するなど、独自に高齢化が進行している。大学・短期大学・高等専門学校の教員についても、平均年齢がいずれも過去最高を更新し、50歳以上比率が全校種で上昇するなど、高等教育の担い手の高齢化も同時進行している。
さらに、教員の平均週担当授業時数は公立小学校・中学校・高等学校のいずれも前回調査より低下し、小学校と高等学校では過去最小となった。数字だけを見れば負担軽減とも読めるが、本調査は授業時数のみを対象としており、部活動指導や校務分掌等の授業外業務は捕捉されていない。現場視点から、これら精神疾患離職の急増、新卒偏重の採用構造、幼稚園教員の高齢化、高等教育教員の高齢化、再任用の不透明さ、授業時数指標の限界という6つの懸念点を整理する。
現場視点の一般的な懸念
①精神疾患による離職の増加傾向が「病気のため」という括りに埋没している
離職理由別の集計表では、精神疾患による離職者数は「病気のため」という大分類の内数(うち精神疾患)としてのみ示されている。公立小学校では平成27年度間の331人から令和6年度間の801人へと約2.4倍、中学校は213人から365人へと約1.7倍、高等学校は75人から153人へと約2倍に増加しているが、この数字は本文の「調査結果のポイント」では触れられておらず、平均年齢や採用者数といった他の指標の陰に隠れている。教員総数が減少傾向にある中でこの増加が生じているため、実質的な発症率の上昇はここに示された倍率以上である可能性が高いが、本資料からはその実質的な比率(本務教員数に対する精神疾患離職者の割合)を直接算出できない。
②公立小学校における新卒採用比率の上昇と、離職者急増の時期的な符合
公立小学校の採用前状況別内訳をみると、新卒者の比率は平成27年度間の45.1%から令和6年度間の64.4%へと大きく上昇し、逆に他の学校の本務教員や官公庁からの異動者の比率は縮小している。これは同時に、離職者数が平成27年度間の17,649人から令和6年度間の18,590人へと増加し、かつ離職者に占める精神疾患由来の割合も上昇している時期と重なる。新卒者が経験を積む前に現場に投入される比率が高まる一方で、離職・休職リスクも高まっているとすれば、両者の因果関係を検証しないまま採用構成の変化だけが進むことへの懸念がある。
③公立幼稚園教員の急速な高齢化と若手層の細り
公立幼稚園教員の平均年齢は前回調査より1.1歳上昇して42.5歳となり、過去最高を更新した。30歳未満の比率は17.3%(前回より3.3ポイント低下)に対し、50歳以上の比率は43.0%(同0.9ポイント低下とはいえ依然として高水準)となっており、小学校・中学校・高等学校が軒並み若返り傾向(30歳未満比率の上昇、50歳以上比率の低下)にあるのとは対照的な動きを見せている。幼児教育の担い手が他校種と逆方向の高齢化を辿っている実態は、将来的な世代交代の困難さを示唆する。
④大学・短期大学教員の高齢化が全校種で過去最高を更新している
大学教員の平均年齢は49.9歳(前回より0.1歳上昇)、短期大学は54.1歳(同1.1歳上昇)、高等専門学校は49.1歳(同0.2歳上昇)と、いずれも過去最高を更新した。40歳未満比率は大学でのみ上昇し、短期大学・高専では低下している。一方で50歳以上比率は全校種で上昇しており、若手研究者・教員の供給が高等教育の教員構成の若返りに追いついていない構図が続いている。採用前の内訳を見ても、大学教員採用における「学部新規卒業者・大学院修了者」比率は令和6年度間で64.4%まで上昇しているにもかかわらず、教員全体の年齢構成としては高齢化が進むという、入口と全体構成の間のねじれが生じている。
⑤公立高等学校における60歳以上教員比率の上昇と、その内実の不透明さ
公立高等学校の教員年齢構成において60歳以上の比率は6.4%(前回より1.0ポイント上昇)となっているが、この資料からは、この増加分が定年延長・再任用によるものか、新規採用によるものかを区別できない。離職者数のうち定年(勧奨を含む)による離職は令和6年度間で2,870人(53.9%)と前回より比率が上昇しており、大量退職期を迎えつつある中で、60歳以上層の増加が制度的な再任用の拡大によるものだとすれば、それは若手・中堅層の採用拡大とは別の意味を持つ現象である。
⑥平均週担当授業時数の低下を、負担軽減の指標として単純に読むことへの懸念
公立小学校・中学校・高等学校のいずれにおいても教員の平均週教科等担任授業時数は前回調査より低下し、小学校(17.7単位時間)と高等学校(13.4単位時間)は過去最小となった。この数字だけを見れば教員の負担が軽減されているように読めるが、本調査が対象とするのはあくまで教科等の担任授業時数であり、部活動指導、校務分掌、報告書作成といった授業以外の業務時間は捕捉されていない。授業時数の減少が総労働負担の減少を意味するとは限らず、むしろ授業外業務への負荷の移動を覆い隠すリスクがある。
改善提案
①精神疾患由来の離職を独立した継続監視指標として明示公表する
「病気のため」の内数扱いにとどめず、精神疾患による離職者数・休職者数を年齢層別・学校種別にクロス集計し、本務教員数に対する比率として毎回の調査結果のポイントに明記すべきである。増加率ではなく実質的な発生率を示すことで、現場の負荷実態がより正確に伝わる。
②新卒採用比率の上昇と早期離職・休職リスクを関連づけて分析する
採用前状況別の内訳(新卒/官公庁/非常勤講師等/その他)と、勤続年数別の離職・休職データを突き合わせた分析を、次回調査以降で実施すべきである。新卒採用比率の上昇が進む学校種ほど、初任者向けのメンター制度や研修体制への予算配分を優先的に強化する必要がある。
③幼稚園教員の処遇・キャリアパスを他校種と切り離して個別に検証する
幼稚園教員の高齢化が他校種と逆方向に進んでいる以上、給与体系・昇進機会・勤務環境について、小学校以上の教員と同一の枠組みで語るのではなく、幼児教育独自の処遇改善策を検討すべきである。特に30歳未満比率の低下傾向が続く場合、早期に養成段階からの誘導策(奨学金返還免除等)を強化する必要がある。
④若手研究者から専任教員への移行を制度的に太くする
大学・短期大学・高専における50歳以上比率の上昇が続く中、任期付き若手ポストの拡充や、ポストドクターから専任教員への移行支援(テニュアトラック制度の実質的な運用改善)を、個々の大学任せにせず政策的に後押しする必要がある。学部新卒・大学院修了者の採用比率上昇という「入口の変化」を、実際の年齢構成の若返りにつなげる制度設計が欠けている。
⑤60歳以上教員比率の内訳(再任用か新規採用か)を区分して公表する
現行の年齢構成データでは、60歳以上比率の上昇が定年延長・再任用の結果か、純粋な新規採用によるものかが判別できない。次回調査では再任用者を区分したデータを公表し、再任用への依存度が高い学校種・地域を可視化することで、恒常的な人員不足を一時的な再任用で埋めている実態があるのかどうかを検証可能にすべきである。
⑥授業時数調査と並行して、授業外業務の負担実態を補足調査する
平均週担任授業時数の低下を「負担軽減」と単純に評価しないよう、部活動指導時間、校務分掌、事務作業等を含めた総労働時間についての補足調査を本調査と同時に実施し、両者を並べて公表すべきである。教員の働き方改革の進捗を授業時数だけで測ることは、実態の誤読を招く危険がある。
学校教員統計調査 -令和7年度(中間報告)結果の概要-
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/kekka/k_detail/2025.htm
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