【現場視点】「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」を作成しました。

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要約

本資料は、文部科学省が令和8年8月に公表した「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」(副題:保護者等の社会通念上許容される範囲を超えた言動への対応指針)及びその関連資料一式である。背景には、令和7年6月11日に公布された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和7年法律第63号)による労働施策総合推進法の改正があり、これまで事業主の義務とされていたセクシュアルハラスメント・パワーハラスメント対応に加え、いわゆる「カスタマーハラスメント」への対応が令和8年10月1日から新たに事業主の義務として位置づけられる。これを受けて令和8年2月26日に「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号、以下「カスタマーハラスメント防止指針」)が策定され、本ガイドラインは学校設置者(公立学校は教育委員会、私立学校は学校法人、株式会社立学校は学校設置会社、国立大学法人が設置する附属学校は国立大学法人)向けに、この防止指針に即した対応を解説するものとして作成された。

ガイドラインは全34ページで構成され、第1章では保護者・地域住民等を「児童生徒等の健やかな成長を支えるパートナー」と位置づけた上での信頼関係構築の考え方を示し、第2章では防止措置の対象となる言動を、①学校等において行われる保護者や地域住民等の言動であって、②教職員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、③教職員の就業環境が害される、という3要件で整理している。対象となる言動の典型例として、a. そもそも理由がない要求、b. 学校の教育活動・運営の範囲を著しく超える対応の要求、c. 対応が著しく困難又は不可能な要求、d. 相当性を欠く賠償要求、e. 身体的な攻撃、f. 精神的な攻撃(脅迫・中傷・SNSへの投稿等)、g. 威圧的な言動、h. 継続的・執拗な言動、i. 拘束的な言動の9類型を挙げ、これらは限定列挙ではなく個別の状況に応じた総合判断が必要である旨、また学校設置者や教職員側の不適切な対応が原因・背景となっている場合があることにも留意すべき旨を明記している。加えて3つの具体的なシナリオ(担任交代を求めて怒鳴り執拗に電話をかけるケース、下校中のトラブルを理由に土下座を要求し威嚇するケース、児童生徒間トラブルを理由に勤務時間外の面会を求めて居座るケース)を用いて判断ポイントの解説を行っている。なお、障害のある保護者等からの合理的配慮を求める意思表明自体は対象となる言動に該当しない点も明示されている。

第3章では学校設置者・学校管理職・教職員それぞれの責務を整理し、第4章では学校設置者が講ずべき義務として、①方針の明確化及び周知・啓発、②相談に応じ適切に対応するための体制整備、③事案発生後の迅速かつ適切な対応(事実確認→被害者への配慮措置→再発防止の3ステップ)、④対応の実効性を確保するための措置(警察通報、警告文発出、電話から書面への切替え、出入禁止等)、⑤①~④と併せて講ずべき措置(相談者のプライバシー保護、相談・協力を理由とした教職員への不利益取扱いの禁止)、⑥他の事業主が講ずる雇用管理上の措置の実施に関する協力、の6項目を具体例とともに示している。相談体制の設置形態としては、学校設置者内部の窓口設置、元校長等を「学校問題解決支援コーディネーター」として配置し外部専門家(弁護士・警察OB等)と連携する形、首長部局と連携した専任組織設置の3モデルが例示され、奈良県天理市の「ほっとステーション」や東京都教育委員会独自のガイドライン(面談30分目安、対応回数に応じた対応者のエスカレーション等)が参考事例として紹介されている。第5章では、義務ではないが望ましい取組として、言動の発生原因・背景要因の解消、教職員参画によるアンケート等を通じた運用の見直し、他事業主が雇用する労働者(納入業者等)への言動に対する注意、教職員以外の者(委託労働者・個人事業主等)に対する同様の方針の適用が挙げられている。

本資料には、このガイドラインの参考資料として文部科学省が別途作成した「事例集(学校と保護者・地域とのより良い関係構築に向けて-行政による学校問題解決のための支援体制の構築)」も含まれる。事例集では、高知県香美市・奈良県天理市・徳島県徳島市・三重県四日市市・茨城県・徳島県・京都府の7つのモデル事業採択自治体に加え、茨城県牛久市・福岡県福岡市・北海道岩見沢市・長野県伊那市・新潟県新潟市の計12自治体の実践事例が、対応実績や具体的な組織体制(配置人員・雇用形態・出勤頻度)とともに紹介されている。あわせて、保護者・地域住民向けに配布するリーフレット(社会通念上許容される範囲を超えた言動の例と、保護者・地域住民への協力依頼をまとめたもの)や、令和8年1月21日に開催予定の自治体・教育委員会関係者向けイベント「学校と保護者・地域とのよりよい関係づくりに向けて」の案内も収録されている。

なお、資料内のコラムで示されたアンケート結果(令和7年度「行政による学校問題解決のための支援体制の構築に向けたモデル事業」採択自治体の公立学校563校を対象、令和7年11月~12月実施)によれば、42.6%の学校が令和7年度中に「過剰な苦情・不当な要求等」を受けたと回答しており、また保護者等対応を「いつもあった」と回答した教員は、過剰な苦情・不当要求等を受けた経験がある教員のうち40.9%にのぼる。これらの数値は本ガイドラインの「社会通念上許容される範囲を超えた言動」とは定義が異なる点に留意が必要だが、学校現場における負担の広がりを示すデータとして紹介されている。

現場視点の一般的な懸念

今回のガイドラインを学校現場(教職員、学校管理職)及び学校設置者(教育委員会・学校法人等)の視点から見ると、いくつかの懸念が浮かび上がる。

第一に、判断基準の曖昧さと現場でのばらつきのリスクである。ガイドラインは「社会通念上許容される範囲を超えるかどうか」の判断について、言動の目的・経緯・態様・頻度・継続性・教職員の心身の状況・行為者との関係性等を「総合的に考慮」するとし、9類型の例示も「限定列挙ではない」と明記している。これは個別事案の多様性に配慮した規定である一方、実際に対応する学校管理職や相談窓口担当者にとっては、目の前の言動がどの類型に該当し、どこまで毅然とした対応を取ってよいかの線引きが容易ではない。特に「そもそも要求に理由がない」場合と「学校側の不適切な対応が原因・背景となっている」場合の切り分けは、当事者である学校自身による自己評価が難しく、判断が学校や自治体によってばらつくおそれがある。

第二に、相談体制整備や方針策定に伴う新たな業務負担である。学校設置者には、方針の明確化・周知啓発、相談窓口の整備、マニュアルの整備、教職員研修の実施、相談者のプライバシー保護のための措置整備など、複数の恒常的な取組が義務付けられる。事例集で紹介されている先進自治体はいずれも学校問題解決支援コーディネーターや専門家(弁護士・心理職・福祉職等)を独自に配置しているが、こうした人員や予算を確保できない小規模な自治体・学校法人では、既存の乏しい人員体制の中で全ての措置を実質化することが難しく、方針の「明確化」が形式的な文書整備にとどまるおそれがある。

第三に、施行までの準備期間の短さである。ガイドラインは令和8年8月に公表され、カスタマーハラスメント防止措置の義務化は同年10月1日に施行される。約2か月弱という短い期間で、全国の学校設置者が方針を策定し、相談体制を整え、教職員へ周知・研修を行うことは容易ではなく、特に事例集で紹介されているような体制構築の知見を持たない自治体・学校法人ほど、施行日までの対応が後手に回るリスクがある。

第四に、事実確認や録音等の実務上の負担と、教職員個人にかかる心理的圧力である。ガイドラインは事案発生時に「相手に断りを入れた上で録音する」対応例を示しているが、実際の対応時に断りを入れることが可能とは限らず、個人情報保護法の遵守も求められる中で、現場の教職員が咄嗟の判断でこれを適切に行うことは難しい。また、判断ポイントの解説でも「学校設置者又は教職員の側の不適切な対応が当該言動の原因や背景となっている場合がある」との留意が繰り返し示されており、対応にあたる教職員が「自分の対応が悪かったのではないか」と萎縮し、本来相談すべき事案を一人で抱え込んでしまう懸念も残る。

第五に、教職員以外の関係者や委託事業者への実効性の担保である。ガイドラインは、雇用関係にないボランティアや会計年度任用職員、さらには学校に物品・サービスを提供する他の事業主の労働者に対する言動についても学校設置者・教職員が注意を払う旨を求めているが、これらの周辺的な関係者にまでガイドラインの内容が周知され、実際に保護される体制が整うかは不透明である。特に私立学校・株式会社立学校では、公立学校のような教育委員会主導の統一的な研修・マニュアル整備の仕組みがなく、学校法人ごとの取組状況の格差が生じやすい。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

以上の懸念を踏まえ、次のような改善の方向性が考えられる。

まず、判断基準の曖昧さについては、9類型の例示に加えて、実際に自治体窓口に寄せられた匿名化・類型化した相談事例とその判断結果を蓄積・共有するデータベースを国が整備し、学校設置者が参照できるようにすることが有効である。徳島県や京都府の事例集での取組(過去対応事案のデータベース化、事案概要・専門家見解・対応のポイントをまとめた通信の配布)はその先行モデルとなり得るため、こうした知見を全国展開する仕組みを国主導で構築することが望ましい。

次に、相談体制整備の負担については、既存の「学校問題解決のための支援体制の構築」事業による財政的支援を継続・拡充し、特に小規模自治体や財政基盤の弱い学校法人が学校問題解決支援コーディネーターや外部専門家との連携体制を構築できるよう、都道府県単位での広域的な支援体制(例えば都道府県教育委員会が市町村や私立学校をカバーする形)の整備を促進することが考えられる。

施行までの準備期間の短さについては、10月1日の義務化施行後も、方針の明確化やマニュアル整備が未了の学校設置者に対して一定の経過的な支援期間を設け、その間はモデル方針のひな形や研修教材を国が提供することで、実質的な対応の底上げを図るべきである。

事実確認や録音等の実務負担については、録音・記録に関する具体的な操作手順(断りの入れ方の例文、記録機器の整備、個人情報保護法との関係の整理)を盛り込んだ実務者向けの補助資料を別途作成し、教職員が一人で判断に迷わないよう、管理職への即時報告と複数人対応を徹底する研修を制度化することが望ましい。あわせて、教職員が萎縮せず安心して相談できるよう、相談したことを理由とした不利益取扱いの禁止について、抽象的な方針の周知にとどまらず、実際に相談した教職員の事後のケア(メンタルヘルス相談、担当変更等)の実施状況を学校設置者が定期的に点検する仕組みを設けることが有効である。

最後に、教職員以外の関係者や委託事業者への実効性を高めるためには、私立学校・株式会社立学校を含めた学校設置者全体を対象とした周知啓発を都道府県私学担当部局とも連携して行うとともに、学校に出入りする委託事業者(給食配送、清掃、警備等)向けの簡易な周知資料を学校設置者から委託契約時に配布することを望ましい実施例として具体的に示し、モデル校・モデル法人での試行を通じて得られた知見を全国に共有する仕組みを整えることが、理念と現場実態の橋渡しとして有効であると考えられる。

「学校と保護者・地域住民等とのより良い関係構築のためのガイドライン」を作成しました。
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/hatarakikata/mext_00013.html

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