【現場視点】特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ取りまとめ(案)

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要約

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会の下に設置された「特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ」(以下「特才WG」)が取りまとめ案(会議後修正)を公表した。特定分野に特異な才能のある児童生徒(以下「特才児童生徒」)を対象に、通常の教育課程では支援が困難な場合に限り、相当教科等の一部または全部を大学等の高度な学習活動に代替できる新たな特別の教育課程を制度化しようとするもので、義務教育段階を対象に令和10年度からの先行実施を目指す。以下、本稿では制度の骨格と、現場に投げかけられる懸念を整理する。

制度設計の出発点にあるのは「2階建て」という発想である。まず通常の教育課程(1階)における調整授業時数制度で生み出す「裁量的な時間」の活用等を優先的に検討し、それでもなお支援が困難な児童生徒についてのみ、特別の教育課程(2階)による対象活動を認める。対象活動には、部分的な早修、大学教員の支援を得た個人探究、大学の科目受講、大学・研究機関・民間団体が実施するプログラムやコンテストへの参加などが例示され、実施機関は高等学校、大学等、公的研究機関、博物館等の社会教育施設、一定の要件を満たす民間団体に限定される。対象活動の実施に伴い、相当教科等の授業に出席しないことが認められる点が本制度の最大の特徴である。

支援の意義については、令和4年の有識者会議「審議のまとめ」を踏まえ、【A】学習上・生活上の困難の軽減・解消、【B】「好き」を育み「得意」を伸ばす才能伸長、【C】個人と社会双方のウェルビーイングという3つの観点から整理される。同時に、令和4年審議のまとめの方針を踏襲し、IQなど特定の基準や数値による「特異な才能のある児童生徒」の定義付けは行わないとされた。これは、選抜のための過度な競争や、対象児童生徒が同級生から異質な存在として扱われる分断・差別のリスクを避けるための判断である。その結果、対象とするかどうかの判断は、教育委員会・学校が日常的な見取りや面談、必要に応じたWISC等の心理検査を通じて総合的に行うプロセスへと委ねられることになる。

指導計画・学習評価の在り方も重要な論点である。特才WGは、既存の「児童生徒理解・支援シート」や個別の教育支援計画・指導計画との重複作成という現状の課題を踏まえ、これらを一体的に電子ファイルで運用する「2階シート(仮称)」の創設を提案する。学習評価については、対象児童生徒が参加しない「相当教科等」についても、既存の評価規準をそのまま用いた観点別評価・評定の実施を維持することとし、対象活動での学習成果や事前アセスメントの結果を評価材料として参酌する運用が示された。また、入試対策や単なる早修の助長を防ぐため、指導要録本体には特別の教育課程の実施自体を記載せず、個別の指導計画の写しを別紙として添付する形に留める方針が明記されている。

対象学校種については、当面は義務教育段階(小学校・中学校・義務教育学校・特別支援学校小中学部)に限定し、高等学校段階は単位制の柔軟化(学校外学修の単位認定拡充や必履修科目の履修免除)の検討状況を踏まえて別途判断するとされた。財政面では、令和8年度予算額は前年度と同水準の1億円で、学校と大学等が連携した学習・支援プログラムの実証研究(33百万円)と、地域単位・全国単位の相談支援体制構築の実証研究(22百万円)に充てられている。愛媛大学、東京学芸大学、長野県教育委員会、京都府教育委員会・京都教育大学等が委託先となり、令和6年度から継続する形で実証が進められている。

現場視点の一般的な懸念

  1. 対象活動の調整・指導計画作成・実施機関連携に伴う業務の累積的負担 取りまとめ案は、対象児童生徒の日常的な見取り、面談、必要に応じた心理検査の実施、実施機関の選定・調整、指導計画の作成・改善、相当教科等の評価材料の収集・参酌といった一連のプロセスを、最終的には学級担任・教科担任が担うことを前提としている。これらは、同時並行で進む調整授業時数制度、日本語指導や不登校児童生徒への特例、教員養成部会が検討する新たな教職課程科目などと同様に、個々の施策としては合理的であっても、学校現場では複数の新制度が同時に積み上がる形で負担として現れる。取りまとめ案自体が「過度な負担とならないよう配意する」と繰り返し述べている点は、裏を返せば負担が発生しうることをWG自身が認識している証左でもある。
  2. 実施機関の地域偏在と、格差是正策がベストプラクティス共有の水準に留まっている点 対象活動の実施機関として想定される大学等、公的研究機関、博物館等の社会教育施設は、当然ながら都市部に集中する傾向がある。取りまとめ案はオンラインの活用や、大学附属校での連携のしやすさに言及する一方、実施機関そのものが近隣に存在しない地域における対応は、全国プラットフォームによる相談支援や都道府県教育委員会(総合教育センター等)による相談支援担当の設置といった「つなぐ」機能の整備に委ねられている。これは、実施機関の絶対的な不足という構造的な制約に対して、情報流通の改善という手段で対応しようとするものであり、地域間で対象活動を実際に実施できる機会の格差自体が縮小するかどうかは不透明である。
  3. 「相当教科等」の評価を学級担任が担うことの負荷と、評価の一貫性への懸念 対象活動を実施した児童生徒についても、相当教科等の観点別評価・評定は在籍級の既存の評価規準に基づき実施することが基本とされる。評価材料は、対象活動の学習成果物(論述、レポート、作品等)や実施機関からの情報提供、事前アセスメントの結果などから構成されるが、これらは通常の授業観察や定期考査とは性質の異なる情報であり、それを既存の評価規準に照らして観点別評価に落とし込む作業は、担任・教科担当者に相応の専門的判断を要求する。取りまとめ案は「柔軟に参酌することも考えられる」といった表現に留まり、具体的な換算方法や判断のばらつきを抑える仕組みについては「運用の手引き」に委ねられたままである。
  4. 定義によるラベル付けを回避する方針と、実務上の判断が学校の属人的な見取りに依存する構造 特才WGは、令和4年審議のまとめの方針を踏襲し、特定の基準・数値による「特異な才能のある児童生徒」の定義を意図的に設けないとした。ラベル付けや過度な競争の回避という理念は理解できるが、その結果として、対象とするかどうかの判断は、学校生活全般における日常的な見取りや教員の主観的印象を出発点とせざるを得ない構造になっている。これは、特才児童生徒の指導・支援の蓄積が本WG自身も認めるように「緒に就いたばかり」の状況において、判断の質が個々の教員や学校の経験・力量に強く依存することを意味し、自治体間・学校間で対象児童生徒の捕捉率や支援の質にばらつきが生じるリスクを内包している。

改善提案

  1. 対象活動の調整・指導計画作成・実施機関連携等に係る業務量を国が具体的に見積もり、既存の通級指導・日本語指導・不登校対応等の特例業務との重複や相乗効果も含めて総量を可視化した上で、特才児童生徒支援を担当するコーディネーターの配置や、業務時間確保のための人的・財政的措置を、単なる「配慮」の表明にとどめず制度設計の中に明記すべきである。
  2. 実施機関が近隣に存在しない地域については、全国プラットフォームによる情報提供や紹介にとどまらず、巡回型の指導者派遣や、オンライン受講に必要な通信環境整備、実施機関までの移動・宿泊費用に対する財政支援など、機会そのものを底上げする施策を「運用の手引き」の段階で具体的に制度化すべきである。
  3. 対象活動の学習成果を相当教科等の観点別評価に反映させる際の換算・参酌の考え方について、教科・学年別の具体的なモデルケースを複数提示し、実施機関の指導者による所見や評価材料のフォーマットを標準化することで、学級担任・教科担任の評価負担を軽減するとともに、学校間・自治体間での評価の一貫性を確保する仕組みを整えるべきである。
  4. 定義によるラベル付けを避ける基本方針を維持しつつも、対象児童生徒の判断プロセスにおける心理検査の実施基準や面談で確認すべき観点について、より具体的なガイドラインを整備し、判断を行う教職員向けの実践的な研修を制度に組み込むことで、判断の属人化と自治体間・学校間の支援格差を抑制すべきである。

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