【現場視点】総則・評価特別部会取りまとめ(案)※会議後修正

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要約

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会総則・評価特別部会が公表した「総則・評価特別部会取りまとめ(案)※会議後修正」は、次期学習指導要領の土台となる総則・学習評価・教科等構成の全体設計を、90ページを超える分量で提示するものである。教育課程企画特別部会が令和7年9月にまとめた論点整理が掲げた「主体的・対話的で深い学びの実装」「多様性の包摂」「実現可能性の確保」の三位一体の方向性を、実効的な制度としてどう具体化するかが本取りまとめの中心的な課題であり、学習指導要領の構造化・表形式化・デジタル化、教育課程の柔軟化、学習評価の改善という三つの柱が並行して整理されている。

最も現場への影響が大きいのが、新設される「調整授業時数制度」である。現行の授業時数特例校制度(対象教科等の10%まで時数を下回ることが可能)を発展させ、標準授業時数の10〜15%程度を目安に各教科等から時数を捻出し、それを「裁量的な時間」(学習枠・研究研修等枠)や既存教科等への上乗せ、新教科の創設に充てることを可能にする仕組みである。試算では、対象教科の15%を上限とした場合、小学校で最大138コマ程度、中学校で最大128コマ程度の調整授業時数を生み出せるとされ、そのうち「裁量的な時間」は週2コマ・年間最大70コマを上限に、さらに研究・研修等枠は週1コマ・最大35コマを上限として設定する方向が示されている。先行研究開発学校(9都道府県68校)の実態として、研究・研修等枠と学習枠の双方に取り組む学校が全体の72%を超え、55%の学校が週1回以上学習枠に取り組んでいるというデータが、制度設計の裏付けとして引用されている。

学習指導要領そのものの構造も大きく変わる。「知識及び技能に関する統合的な理解」と「思考力、判断力、表現力等の総合的な発揮」という二軸で各教科等の内容を表形式に再構成し、あわせて紙・PDF中心の提供形態から「デジタル学習指導要領」への移行を進める。検索性の低さや教科間・校種間の関連性の把握しづらさといった、現場教師から寄せられた具体的な不満(PDF検索で改行にまたがる語句がヒットしない、等)を出発点に、ウェブベースでの一体的参照、生成AIを活用した指導案・評価計画作成支援などの機能案が参考資料として提示されている。ただし資料自体に「本画面は現時点イメージ」との留保が付されており、実装の詳細は今後の検討に委ねられている。

学習評価の分野では、「学びに向かう力・人間性等」の評価方法が刷新される。「初発の思考や行動」「学びの主体的な調整」「対話と協働」という三要素が「思考・判断・表現」の過程で表出した場合に「◯」を付記する新方式を採用し、各教科等ごとに「見取る姿」を国が示した上で、できるだけ長い期間をかけて継続的な発揮を見取ることとしている。「◯」は独立した評価観点とはせず、思・判・表の観点別評価と一体的に勘案した結果として評定に影響しうるとされ、同じ観点別評価と◯の組み合わせでも学校や教師の判断により評定が一意に定まらない場合があることも明記されている。

教科構成・時数については、大臣諮問で示された「標準総授業時数を現在以上に増加させない」という前提の下、情報活用能力の抜本的向上を目的に小学校に「情報の領域(仮称)」、中学校に「情報・技術科(仮称)」を新設する。各学年最大30〜70コマ程度の新規時数を、標準授業時数が35コマ以下の教科等を除く既存教科等から一律の考え方で減じて確保する方針であり、特定教科への皺寄せを避ける設計とされている。高等学校では単位計算の基礎を1単位35コマから17コマへと見直し、必履修科目の単位数は38単位(現行換算)から新基準で最大78新単位に倍増する一方、総学習時間(コマ数)はほぼ現行水準(1330コマ→1326コマ)に据え置かれる。数学Ⅰでは「数学ガイダンス」「社会を読み解く数学」を新設して最大8新単位に増加させる一方、数学Ⅱを標準6新単位(3単位相当)に縮減するなど、教科内での再配分によって総量を調整する設計となっている。

現場視点の一般的な懸念

懸念① 調整授業時数制度が管理職・組織運営に新たな管理負担を課す 「裁量的な時間」の学習枠・研究研修等枠にはそれぞれ6項目・3項目の要件が設定され、研究・研修等枠については「管理職等により実施状況が適切に把握される」ことが運用条件とされている。制度自体は現場の創意工夫を活かす柔軟な仕組みとして設計されているが、要件充足の確認や組織的・計画的な実施の担保を誰がどのように行うかは各学校・教育委員会の裁量に委ねられており、これまで存在しなかった「調整授業時数の管理」という新たな事務・調整業務が、主に教務主任や管理職に集中する構造になりかねない。

懸念② 「◯」評価の運用が評価者間のばらつきと説明責任の負担を生む 「見取る姿」に基づく「◯」の付記は、従来の「主体的に学習に取り組む態度」評価が抱えていた形式的な評価材料集めの弊害を避ける狙いで設計されているが、取りまとめ自体が「観点別評価と◯の組み合わせが同じでも必ずしも評定が同じとならない」ことを容認しており、評定の決定は「所管の教育委員会の方針及び指導を司る教師の専門的・総合的判断」に委ねられるとされている。評価の妥当性・信頼性の担保を個々の教師の専門的判断に依拠する設計は、保護者への説明や学校間・学級間の評価の一貫性という観点で、現場教師が背負う説明責任の負荷を増やす懸念がある。

懸念③ 標準総授業時数を増やさない前提が既存教科の実質的な圧縮につながる 情報・技術系の新教科・領域の創設に伴う時数は、既存教科等から一律の考え方で減じて確保する方針であり、新教科誕生の裏側で必ず既存の教科等の時数が削られる仕組みになっている。「今後更に各WGの取りまとめを踏まえた教育課程全体の議論の進捗を踏まえて精査が必要」とされている通り、具体的な削減幅は現時点で確定しておらず、複数の教科等WGがそれぞれ独自に精選を進める中で、各教科の現場が総量としてどれだけの削減を引き受けることになるのか、全体像が見えにくい。

懸念④ 高校の単位再編・柔軟化が時間割編成やカリキュラム管理の複雑性を増す 1単位=17コマという新基準の導入、必履修単位数の実質的な倍化(38単位→最大78新単位)、既存の2単位科目まで対象を広げた減単の容認は、各学校が編成できる教育課程の自由度を高める一方で、単位換算・時間割編成・成績処理といった実務を扱う教務担当者にとっては、旧単位制度との併存期間も含め、制度移行期に相応の事務負担が生じることが見込まれる。

懸念⑤ デジタル学習指導要領の実装が「イメージ」段階にとどまっている 参考資料として示されたデジタル学習指導要領の画面例には「本画面は現時点イメージです」「実際の画面は一層シンプルなものになることを想定」との留保が繰り返し付されており、検索性向上や生成AI活用支援など機能面の構想は具体化されているものの、実際の開発・運用体制、教師への研修、令和10年度からの先行実施に向けた工程はいまだ具体像を欠く。制度は令和12年度(小学校)・13年度(中学校)の全面実施を見据えているが、紙の学習指導要領からデジタル基盤への移行を、限られた準備期間で現場が円滑にこなせるかは不透明である。

改善提案

提案① 調整授業時数制度の運用ガイドラインと管理負担軽減策をあわせて示す 制度の告示化にあたっては、要件充足の確認方法や実施状況の把握方法について、学校が過度な書類作成や会議に追われることのないよう、標準化されたチェックリストや簡便な報告様式を国が事前に用意し、管理職に集中しがちな確認業務を分散できる運用モデルを併せて提示すべきである。

提案② 「◯」評価のばらつきを抑える具体的な調整プロセスを制度化する 評定が「一意に定まらない」ことを許容する設計を維持するとしても、学年内・学校内での「見取る姿」の解釈のすり合わせを行う校内研修や学年会での確認プロセスを、運用上のミニマムな手続きとして明確に位置づけ、教師個人の判断に委ねきりにしない仕組みを併せて整備する必要がある。

提案③ 既存教科の削減幅の全体像を各WG横断で早期に可視化する 情報・技術系新教科の創設に伴う既存教科の削減幅について、教育課程企画特別部会は各WGの検討結果を待つのではなく、各教科等が現時点でどの程度の削減を見込んでいるかを一覧化した中間的な資料を早期に公表し、現場が全体の負担感を見通せるようにすべきである。

提案④ 高校単位制移行のための実務研修と移行期の事務支援を先行して用意する 新単位計算方式や必履修科目の再編について、制度の全面適用前に教務主任・進路指導主事等を対象とした実務研修や、時間割編成支援ツールの提供を先行実施し、制度移行に伴う事務負担のピークを平準化する取組が求められる。

提案⑤ デジタル学習指導要領の段階的先行公開とフィードバック機構を設ける 参考資料段階のイメージにとどめず、機能を絞った試行版を一部教科・一部地域で先行公開し、現場教師からのフィードバックを踏まえて改良を重ねるアジャイル型の開発プロセスを採用することで、令和10年度からの先行実施に向けた実装リスクを早期に低減すべきである。

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