【現場視点】中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会特別支援教育ワーキンググループ取りまとめ(案)

特別支援教育ワーキンググループ取りまとめ(案)_※会議後修正_1

要約

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会特別支援教育ワーキンググループが取りまとめた本案は、通級による指導・特別支援学級・特別支援学校のいずれにおいても在籍者数が「増加の一途をたどっている」という現状認識を出発点に、「重層的な指導・支援」という新しい概念を軸として、幼稚園から高等学校、特別支援学校までを貫く制度設計の見直しを提起している。通常の学級における学級全体への基礎的環境整備を土台とし、その上に個別的な指導内容・方法の工夫、さらに通級による指導や特別支援学級での指導を積み上げるという段階的な発想は、これまで個々の教師の裁量や経験に委ねられがちだった「学びの場の選択」に一定の理論的整理を与えるものと言える。

制度面では、通級による指導を利用する児童生徒に対して、自立活動の指導を前提としつつ特例的に各教科の内容の一部を扱うことを可能とする新たな枠組みや、高等学校における教育課程の柔軟化を見据えた特例制度の創設など、これまでの「通常の教育課程か、特別の教育課程か」という二分法を超えた選択肢を用意しようとする姿勢も見て取れる。デジタル学習基盤の活用は、合理的配慮の前提となる基礎的環境整備として位置付けられ、読字困難や難聴等の具体的な支援事例を通じて、個別対応から学級全体の環境整備へと重心を移す可能性が示されている。

一方で、本文書は随所で「学校や教師の負担が増大している状況」「特別支援教育に係る教師の専門性が十分でないこと」「地域間の差も大きい現状」といった、現場が既に直面している構造的な課題そのものを率直に認めている。しかし、その認識に対して示される処方箋の多くは、解説等での明確化、研修コンテンツの提供、好事例の周知といった情報提供・啓発の域にとどまっており、人員配置や財政措置、免許制度といった制度的な手当てにまで踏み込んでいるとは言い難い部分も残る。理念としての「重層的な指導・支援」がどこまで学校現場の実態を変える力を持つのか、以下、六つの懸念に即して具体的に検討したい。


現場視点の一般的な懸念

懸念①:新設される仕組みが積み重なることによる負担増と、働き方改革との整合性の担保不足

本案は、通級による指導における特例的な教科指導の導入、自立活動と各教科等の指導の関連付けの明確化、個別の指導計画の記載充実、障害種ごとの配慮事項の運用など、複数の新たな取組を同時に求めている。文書自体も、通級による指導を受ける場合の特例的な教科指導について「教師の持ち授業時数の増につながらないよう働き方改革にも留意した上で」実施することや、個別の指導計画の作成については「作成の煩雑さや負担感の解消を図る観点から」記載の重複を避けるよう「留意点を解説等に示す」としているが、これらはいずれも運用上の配慮の呼びかけにとどまり、加配定数や事務負担軽減のための具体的な仕組みには言及していない。個々の施策は妥当であっても、これらが同時並行で現場に下りてきたとき、総量としての負担がどこまで増えるのかについての見通しは示されていない。

懸念②:地域間格差が構造的に未解決のまま残されている

「合理的配慮の提供に積極的に取り組んでいる小・中学校の割合は一部にとどまっており、地域間の差も大きい現状がある」こと、また「自治体によっては、通級による指導の利用についてのハードルが高く」「通級による指導を実施している学校が一部にとどまっている自治体もあり」といった記述は、本案自体が地域間格差の深刻さを認識していることを示している。しかし、その対応として提示されるのは、都道府県教育委員会等による「先導的な施策」への期待や、国による指針・解説の整備が中心であり、格差の根本にある財政力や人材確保力の地域差そのものへの言及は限定的である。

懸念③:教師個人の専門性不足への帰責と、構造的な養成・配置課題との切り分けの曖昧さ

「特別支援教育に係る教師の専門性が十分でないこと」「必ずしも特別支援教育に関する専門性を持ち合わせていない教師が特別支援学級を担当する状況も生じており」といった課題認識は、実際には教員養成課程や人事配置、特別支援教育に関する免許取得率といった制度的な要因に根差すものであるはずだが、示される対応策は「分かりやすく示す」「研修コンテンツの提供」といった情報提供の域にとどまっている。専門性の不足を、個々の教師が努力して解消すべき課題であるかのように読める記述構成には注意が必要である。

懸念④:デジタル学習基盤への過度な期待と、活用格差という前提条件への目配りの不足

本案はデジタル学習基盤を「合理的配慮の基盤となる基礎的環境整備」として繰り返し位置付け、読字困難・難聴等の支援事例を通じてその有効性を強調している。しかし同時に、「特別な支援を要する子供たちへの学習活動でのICTの活用が進んでいない学校」や「1人1台端末に装備されたアクセシビリティ機能等を十分に活用しきれていない学校もある」という現状も明記されている。解決の方向性として示されるのは「分かりやすい例を提示するなどの方策」であり、ICT活用スキルの教員間格差や、学校のネットワーク環境整備の地域差といった、活用の前提条件そのものへの言及は薄い。

懸念⑤:通級による指導の特例的教科指導をめぐる免許・人員配置の実務的な壁

通級による指導において特例的に各教科の内容の一部を指導する場合、「中・高については、該当教科の免許を持った教師が実施」することが前提とされている。この要件は指導の質を担保する上で妥当な面がある一方、通級指導担当教員の確保自体に苦慮している自治体が少なくない中で、教科免許まで満たす人材を通級指導に充てられる学校とそうでない学校との間に、新たな実施格差を生む可能性がある。この点についての具体的な見通しは、本案では示されていない。

懸念⑥:「重層的な指導・支援」という理念の実効性と、高等部における就労・産業界連携への比重の偏り

「重層的な指導・支援」は本案全体を貫く鍵概念として位置付けられているが、その実効性を支える校内委員会の運用は「校長のリーダーシップの下」「組織的に対応していくことが重要」といった努力目標的な記述にとどまり、具体的な時間確保や人員配置の裏付けは示されていない。理念が共有されても、日々の校務分掌や授業時数の制約の中でどこまで機能するかは学校ごとの体制に左右されやすい。また、特別支援学校高等部の充実に関する記述では、地域の産業界・企業との連携、キャリア教育、専門学科の見直しなど就労を見据えた内容に比重が置かれており、自立と社会参加という本案の掲げる理念の中でも、経済的自立以外の人格的・文化的な成長という側面への目配りが相対的に薄くなっている印象を受ける。


現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

提案①:新設施策の総量管理と業務量の可視化

通級指導の特例的教科指導、自立活動と各教科の関連付け、個別の指導計画の記載充実などの新規施策を導入するにあたっては、それぞれが現場に生じさせる業務量を事前に試算・可視化し、既存業務の削減(例えば重複する計画書様式の統合や、記載事項の精選)とセットで導入することを制度設計の要件とすべきである。単なる「留意」の呼びかけにとどめず、業務量削減の実効性を伴う具体策を解説等に明記する必要がある。

提案②:地域間格差是正のための財政・人材支援の制度化

合理的配慮の提供や通級による指導の実施状況における地域間格差については、好事例の周知にとどまらず、格差の大きい自治体を対象とした重点的な財政支援や、都道府県を超えた広域的な人材シェアリングの仕組み(巡回指導教員の配置拡充等)を制度として組み込むべきである。国による指針の整備と並行して、実施可能な自治体とそうでない自治体の差を埋めるための具体的な予算措置の道筋を示すことが求められる。

提案③:教員養成・人事配置の構造的な見直しの明示

特別支援教育に関する教師の専門性不足という課題については、研修コンテンツの提供にとどまらず、教員養成課程における特別支援教育科目の必修化拡充や、特別支援学級・通級指導担当教員への人事配置基準の見直し(経験年数・専門性を考慮した配置ルール)など、制度的な対応の方向性を本取りまとめの段階で具体的に示すべきである。

提案④:ICT活用格差を前提としたデジタル学習基盤整備計画

デジタル学習基盤の活用推進にあたっては、活用事例の周知だけでなく、教員のICT活用スキルの底上げを図る体系的な研修プログラムの制度化と、学校のネットワーク環境・端末整備状況の定期的な実態調査及び是正措置を組み合わせるべきである。「活用しきれていない学校」が具体的にどのような要因で活用に至っていないのかを分析した上で、環境整備と人材育成の両面から支援策を講じる必要がある。

提案⑤:通級指導における免許保有教員確保のための移行措置

通級による指導での特例的な教科指導について、教科免許を持つ教員の確保が困難な学校・地域向けに、近隣校との連携による教員派遣制度や、オンラインを活用した遠隔での教科指導支援など、移行的な代替手段を用意すべきである。制度導入初期においては、免許要件を満たせない学校が不利益を被らないよう、段階的な実施計画とあわせて具体的な支援策を提示することが望ましい。

提案⑥:校内委員会の実効性を担保する時間的・人員的裏付けと、人格的成長を含めた評価軸の明確化

「重層的な指導・支援」の運用を担う校内委員会については、リーダーシップへの期待にとどまらず、会議時間の確保や事務局機能を担う専任・準専任の人員配置を制度上明確に位置付けるべきである。また、特別支援学校高等部における教育課程の充実に関しては、就労・産業界連携に関する記述と並行して、生徒の人格的発達や地域社会・文化芸術活動への参加といった、経済的自立以外の価値も評価軸として明示的に位置付けることで、自立と社会参加という理念のバランスを保つことが望まれる。

特別支援教育ワーキンググループ取りまとめ(案) ※会議後修正
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/105/mext_00001.html

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