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要約
本取りまとめ(案)は、次期学習指導要領改訂に向けて、体育科・保健体育科の目標・内容・評価の全体構造を大きく組み替える方針を示すものである。最大の特徴は、これまで「学びに向かう力・人間性等」に位置付けられてきた公正・協力・責任・参画・共生・健康安全といった態度に関する要素を、「知識及び技能」領域に「運動との関わり方」として再整理する点にある。これは、態度の指導と評価が体育科独自の要素と全教科共通の「粘り強さ」「自己調整」とが混在し、特に経験の浅い教師や体育を専門としない小学校教員にとって指導イメージが持ちづらいという課題認識に基づく改善であり、報告書自身がその難しさを繰り返し認めている。
あわせて、「体育理論」を「スポーツ理論」に、高等学校専門学科「体育」を「スポーツ」に改称する案、内容を4年ごとの発達段階でとらえ直し、小1~4段階では具体的な運動種目の限定的な明示を避け「余白」を創出する方向性、そして水泳授業における施設老朽化・維持管理コスト・天候リスク・教員負担という現実的課題への対応(プール集約化、指定管理者制度活用、民間委託等)も打ち出されている。
一方で、これらの改善提案の多くは「更に検討する」「留意が必要」という表現にとどまり、具体的な指導・評価方法、教員研修体制、施設整備の財源といった実装レベルの制度設計は今後に委ねられている部分が大きい。理念の再整理が先行し、現場で実際に指導・評価を担う教師がどのような支援を受けられるのかという点については、以下で述べる懸念が残る。
現場視点の一般的な懸念
- 態度要素の「知・技」再整理に伴う評価の実務的困難 公正・協力・責任等を「運動との関わり方」として知識及び技能に位置付け直すことで、指導の趣旨は明確になる一方、実際の評価場面では依然として「意思的な部分をどう見取るか」という技術的な難しさが解消されるとは限らない。報告書自身も「態度主義的な評価とならないよう留意しつつ、指導と評価イメージについて更に検討する必要がある」としており、具体的な評価基準や見取り方の提示が改訂後にずれ込む可能性がある。
- 経験の浅い教師・非専門教師への配慮が「明示」止まりで支援策が未確定 目標・見方考え方の表現を「経験の浅い教師や専門としない教師にも理解しやすく」する方針は繰り返し強調されているが、実際にそれを可能にするのは表現の工夫だけでなく、解説書・指導参考資料・研修機会の充実である。これらは「国において検討」「更なる充実が期待される」といった記述にとどまり、具体的なスケジュールや予算的裏付けが示されていない。
- 水泳授業をめぐる施設対応の地域間格差 プールの老朽化・維持管理コスト増、天候による実施困難、教員の管理負担という課題に対し、公営プールへの集約化や民間事業者への管理・指導委託が対応策として例示されているが、これらは自治体の財政力や地域の社会体育施設の充実度に大きく依存する。「地域の状況に応じた中長期的な視野を持った対応」という表現は、裏を返せば施設に恵まれない地域では従来通りの負担が学校・教員に残り続けることを意味しかねない。
- 暑熱対策の実効性が空調整備という物理的インフラに依存 WBGTに基づく実施判断や暑熱順化の導入は運用上の工夫として有効だが、体育館等の計画的な空調整備が対策の柱として位置付けられている以上、整備が進んでいない学校では「指導計画の工夫」のみで対応せざるを得ない。整備状況の格差については課題として認識されているものの、財源措置についての言及はない。
- 内容の「余白」創出が指導の質のばらつきを招くリスク 小1~4段階で具体的な運動種目の明示を控え、育成する「動き」を軸に示す方向性は、画一的な種目消化からの脱却として理解できる一方、指導のよりどころとなる具体例が乏しいまま現場に委ねられれば、学校・教員による指導の充実度や解釈に差が生じる懸念がある。報告書も「指導イメージがわきづらくなったり、学習内容が不十分なものとなったりしないよう十分留意が必要」と自ら課題を指摘しており、解説・指導参考資料の質と量が改善の成否を左右する。
- 外部人材・専門家連携の調整負担が教員に帰属したまま 外部人材の活用や外部機関との連携は指導充実の観点から有効とされる一方、「その調整に係る教師の負担への対応や効果的な活用方策等については更に検討する必要がある」と明記されており、体育と保健の両分野で外部連携の拡大が期待される一方、コーディネート業務を誰がどのような体制で担うのかという肝心の論点は先送りされている。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
- 評価基準・見取りの具体例を告示・解説と同時に整備し、移行期間中の実践事例を継続的に発信する 「運動との関わり方」に関する評価規準例やモデル授業の映像・記録集を、告示前の周知段階から先行して提供し、形式的な評価に陥らないための判断ポイントを具体的な発問例・観察の視点として明示することが望ましい。
- 非専門教師向け研修を制度化し、予算措置とセットで公表する 「研修機会の充実」を努力目標にとどめず、小学校専科指導体制の拡充や、体育を専門としない教員向けのオンライン研修パッケージの整備スケジュールを、学習指導要領改訂と同時並行で具体的に示すべきである。
- プール施設整備・集約化について国による財政支援の枠組みを明確化する 自治体単独の判断に委ねるのではなく、公営プールとの複合化や広域集約化を進める自治体に対する補助制度の拡充・要件の明確化を、教育委員会が活用しやすい形で提示することが必要である。
- 体育館空調整備の達成目標と現状の見える化を行う 全国の学校体育館の空調整備率を定期的に公表し、未整備校向けの優先的な補助制度や暫定的な運用ガイドライン(実施可否判断基準の統一化等)を示すことで、地域間の実施格差を縮小する道筋を作るべきである。
- 「余白」段階の指導内容について、複数の具体的な単元モデルを解説に併記する 種目の限定を避けつつも、幼児期からの接続を意識した「運動遊び」の具体的な指導計画例を複数パターン用意し、現場が自校の実情に応じて選択・応用できるようにすることで、指導の質のばらつきを抑えることができる。
- 外部人材コーディネートを支援する専任スタッフ・地域連携窓口の制度設計を先行して検討する 外部人材活用の効果を最大化するためには、教員個人の調整努力に依存しない仕組み、たとえば教育委員会単位でのコーディネーター配置や、地域人材バンクの整備を、指導内容の充実策と並行して具体的に制度化する必要がある。
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ取りまとめ(案)を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/112/mext_00001.html


