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要約
本資料は、AI for Scienceを支える研究データの管理・利活用及び流通の在り方について検討する第6回(最終回)ワーキンググループの議事録である。政府はAI for Science向け共用計算資源を2030年度までに10倍以上にするという目標を掲げる一方、その中核を担うはずの次世代スパコン「富岳NEXT」はまだ開発中でノード数も未確定、想定は3,400ノード以上にとどまり、GPU化に伴うノード数減少と処理の質的変化への懸念が委員から示された。現場視点から6つの懸念点を整理する。
本会合は審議まとめ(案)の審議が中心で、委員からは分野横断の具体像の不明瞭さ、ソフトウェアや人材への予算配分の構造的な過小評価、定量指標の不在など、報告書の理念と実装可能性のギャップを突く指摘が相次いだ。
現場視点の一般的な懸念
1. 「分野横断」という言葉の具体像が共有されていない
若目田委員は、審議まとめに繰り返し登場する「分野横断」というキーワードについて、何を横断し何が期待できるのかが具体的にイメージできないと指摘した。江村主査代理も同様に、仕組みを整備しただけでは分野連携は自動的には起きず、人が関与しない限り連携は生まれないと述べた。理念は整理されていても、関係者が同じ完成形(ゴールイメージ)を共有できていない状態で予算要求や実装フェーズに進むことへの危うさが、複数の委員から重ねて表明された。
2. ハードウェア偏重とソフトウェア・運用予算の構造的な過小評価
千葉委員は、計算資源の議論がGPU台数やペタフロップス数といったハードウェア指標に偏りがちである一方、実際にユーザーの使い勝手を左右するのは課金システムやミドルウェアなどのソフトウェアであり、そこへの予算配分が一貫して不足してきたと述べた。大学の会計システムの制約もあり、課金ログから請求書発行までの電子化が十分に進んでいない可能性も示唆されている。ハードウェアの増強計画が先行し、それを使いこなす基盤への投資が置き去りにされる構図が繰り返し指摘された。
3. 人材育成・データ支援人材の記述が手薄
複数の委員が、データキュレーションや研究データ基盤の構築・運用を担う人材の育成に関する記述が本文中で弱いと指摘した。千葉委員は、かつての大型計算機センターが研究者を内部に抱え、対等な立場で利用支援を行っていた例を挙げ、AI for Science時代にも同様の人材強化が必要だと述べた。工藤委員も、概要(資料3-2)が計算基盤・ネットワークなどのハード的な要素に絞られており、人材育成やソフトウェア、運用体制といった論点が概要段階でこぼれ落ちている点を懸念した。
4. 効果測定のための定量指標が存在しない
江村主査代理は、計算資源を10倍にするという目標を掲げても、機動性やアクセス性といったユーザー体験の改善を測る定量的な指標が定まっていない点を問題視した。事務局はアンケート調査等を通じて把握を進めたいと回答したが、千葉委員も、ソフトウェアの世界でユーザビリティを測る定量指標が確立された例はこれまでにないと述べており、目標達成の検証可能性そのものに疑問符がついたままの状態にある。
5. 富岳NEXTのノード数減少と運用設計の遅れ
吉田委員は、富岳NEXTがGPUベースの構成になることでノード数自体は現行より減少する見込みであり、計算の質もこれまでの物理シミュレーション中心から大きく変化することを指摘した。運用ルールの設計が伴わなければ、計算資源全体を10倍にするという目標を掲げてもジョブ待ちなどでユーザーの利便性がむしろ悪化しかねないとの懸念が示された。事務局は、富岳NEXTのノード数は現時点で最終決定されておらず、3,400ノード以上を想定していると説明したが、具体的な運用設計は今後の検討課題として残された。
6. 蓄積データの分野特性による活用可能性の格差と、それを統括する司令塔機能の不在
吉田委員は、分野によっては研究者個々の局所的な興味に基づくデータが蓄積されても、それが集合体としてAI活用に資するかどうかは自明ではないと指摘した。マテリアル分野のように先行事例がある分野がある一方で、データが集まってもどう統合活用すればよいか見通しが立たない分野も存在するとし、こうした状況を俯瞰し方向づける「司令塔」的な機能の必要性を訴えた。石田委員も、審議まとめのイメージ図が分野別データベースの蓄積に偏っており、大学が果たすべき役割や、分野に属さないデータの扱いが見えにくいと指摘している。
改善提案
1. 「分野横断」の具体的なユースケースを最低限提示する
抽象的な「分野横断」の連呼ではなく、どの分野とどの分野が連携することで何が可能になるのかという象徴的な事例を、報告書または補足資料で最低限提示すべきである。全てを網羅する必要はないが、関係者が共通の完成形を思い描けるだけの具体性を持たせることで、実行段階での認識齟齬を防げる。
2. ソフトウェア・運用予算を独立した予算費目として明示する
ハードウェア調達予算とは別に、課金システム、ミドルウェア、運用体制整備に充てる予算費目を明示的に設けるべきである。予算配分の透明性を高めることで、「ハードは整備されたがソフトが追いつかない」という構造的な問題の再発を防ぐ材料になる。
3. データ人材の育成・評価軸を大学のガバナンス文書に明記する
データ基盤の構築・運用を担う人材について、大学内の評価制度やキャリアパスに明確に位置づける必要がある。研究支援人材としての評価軸を明文化しなければ、優秀な人材がこの分野に定着しない構造が続く。
4. 定量指標が存在しないことを前提にした代替評価の枠組みを設計する
厳密な定量指標が確立困難であることを認めた上で、利用者アンケートや利用開始までの所要時間、申請プロセスの短縮率など、測定可能な代理指標(プロキシ指標)を組み合わせた評価枠組みを早期に設計すべきである。指標がないことを理由に検証を先送りすることは避けたい。
5. 富岳NEXTの運用設計を計算資源整備計画と並行して策定する
ノード数の減少と処理特性の変化を前提に、ジョブスケジューリングや優先度設計などの運用ルールを、ハードウェア整備計画と同時並行で策定する体制を確立すべきである。整備が先行し運用設計が後追いになる従来型のプロセスを避ける必要がある。
6. 分野特性に応じたデータ活用可能性の事前評価と、分野横断を統括する機能を設置する
全分野一律の「データ空間」構想を掲げる前に、分野ごとにデータ蓄積がAI活用にどの程度資するかを事前に評価する枠組みを設けるべきである。あわせて、大学が生み出す分野に紐づかないデータの受け皿や、分野間連携を実際に牽引する統括機能(司令塔)を制度上明確に位置づけることが、絵に描いた餅で終わらせないための鍵となる。
AI for Science を支える研究データの管理・利活用 と流通の在り方について(審議まとめ)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu29/006/mext_02384.html

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