
要約
本資料は、次期学習指導要領における国語科の改訂方向性の「とりまとめ」を検討する中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語ワーキンググループ第12回の配付資料である。高等学校国語では、現行の選択科目(論理国語・文学国語・国語表現・古典探究)を実質的に解体し、必履修2科目に加えて標準選択科目2科目(4単位)・発展選択科目4科目(2単位)という計8科目体制へ再編する案が示された一方、「総授業時数を増加させないことを前提」に内容の充実と精選を同時に進めるという方針が全体を貫いている。現場視点から6つの懸念点を整理する。
現場視点の一般的な懸念
①内容の充実と時数維持の両立が現場任せになる懸念 資料は「内容の充実について」の項目に「※総授業時数を増加させないことが前提」と明記している。思考力・判断力・表現力等の整理や〔知識及び技能〕の再構成など、示される改善の方向性はいずれも意欲的だが、それらを既存の授業時数の枠内に収めるための精選の具体策は「教科書発行者に対して促す」という水準にとどまっている。制度設計上の帳尻合わせを、最終的に教材研究と授業設計の負担として現場が引き受ける構図になりかねない。
②「話や文章の機能」を軸とする再整理の移行コスト 「事実や知識の整理と理解」「考えや主張の理由付けと吟味」など、話や文章の社会的機能を軸に領域横断的に指導事項を整理し直すという発想は理論的には筋が通っている。しかし、現行の「構造と内容の把握」「精査・解釈」といった学習過程別の整理に慣れてきた現場教員にとっては、単元設計や評価の発想そのものを組み替える必要がある。告示・解説による説明だけで、全国の教員が同水準で再整理の趣旨を理解し実践に落とし込めるとは限らない。
③高校科目再編による実務負担の増加 必履修2科目・標準選択2科目・発展選択4科目という計8科目体制は、資質・能力のバランスを図る狙いは理解できるものの、現行4選択科目からの実質的な科目数増加を意味する。中小規模校では時間割編成や教員配置、担当できる教員の専門性の確保が一層難しくなることが予想され、資料内でも大学入試との接続や理系生徒の履修バランスの課題が指摘されている割に、具体的な解決策は示されていない。
④〔知識及び技能〕二側面の名称・線引きの曖昧さ 「①運用しながら深める側面」と「②教養として深める側面」という整理は、補足資料(第11回WGの御意見を受けての整理)を見る限り、委員からも「教養」という語の受け止め方について異論が相次いでおり、決着したとは言い難い状態のまま「とりまとめ」段階に進んでいる。名称や説明の仕方が現場の評価実務にそのまま影響する以上、曖昧さを残したまま進めることは、学校間・教員間で評価基準がばらつくリスクを高める。
⑤生成AI・ICT活用の理念先行 生成AIの発展を踏まえ「児童生徒が情報や生成AIの出力を比較・吟味し、自ら考え、判断し、表現した内容を自らの言葉で説明し責任を持つ」ことを基本とする方向性は妥当だが、具体的にどのような発問設計や評価観点でこれを担保するのかという指導技術上の道筋は示されていない。理念は繰り返し語られる一方、実践レベルでの支援策が伴わなければ、学校ごとの取り組みの差が広がるだけになる。
⑥特別な配慮を要する児童生徒への対応の手薄さ 資料は、小中学校全体(約892万人)のうち学習面または行動面で著しい困難を有する児童生徒が約8.8%に上るという令和4年度調査結果を引きながら、書写の指導等における配慮の必要性に言及している。しかし対応策としては「デジタル学習基盤の活用や代替措置の積極的な提供」といった一般的な方向性にとどまり、財政的裏付けや人員配置の議論は見当たらない。柔軟な教育課程編成(調整授業時数制度)についても「好事例を国が収集・周知する」という水準であり、地域間格差の是正には踏み込んでいない。
改善提案
①内容精選のロードマップと移行期支援策の明示 「総授業時数を増加させない」という制約を現場に丸投げしないためには、告示に先立ち、精選済みの年間指導計画モデルや、移行期に限定した実践事例集を国が具体的に提示し、モデル校での試行結果を公開することが必要である。
②「話や文章の機能」概念の複数年研修計画 新しい整理の考え方を全国の教員が実践に落とし込めるようにするには、指導主事向けの一斉伝達研修だけでなく、複数年をかけた単元設計ワークショップや、実際の授業動画・指導案の蓄積・共有の仕組みを、告示前から計画的に整備すべきである。
③高校科目再編に対応した柔軟な開設モデルの提示 中小規模校でも8科目体制に対応できるよう、単位の倍化や増単・減単の仕組みと組み合わせた具体的な時間割モデル、免許・専門性要件の柔軟化の方向性を、告示前の段階で国が例示することが望まれる。
④二側面の評価基準に関するモデルルーブリックの整備 「運用しながら深める事項」「教養として深める事項」という整理を評価実務に落とし込むためには、名称論争に決着をつけるだけでなく、学校間でのばらつきを防ぐ具体的な評価ルーブリックの例示を解説に盛り込むべきである。
⑤生成AI活用の指導モデルと研修のセット整備 理念にとどめず、生成AIの出力を吟味させる発問例や評価観点の具体例を解説に明記し、教員研修プログラムとあわせて整備することで、学校ごとの実践差を縮小できる。
⑥特別な配慮を要する児童生徒への財政的裏付けの強化 約8.8%という規模の児童生徒への対応を「配慮」の水準にとどめず、教員加配や専門人材の配置など財政的裏付けを伴う施策として位置づけ、好事例の周知にとどまらない地域間格差是正の仕組みを検討すべきである。
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語ワーキンググループの配付資料を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/107/siryo/mext_00012.html

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