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要約
令和8年6月11日開催の第190回大学分科会では、審議事項1件と報告事項3件が扱われた。審議事項は医学部臨時定員措置の令和9年度延長に伴う大学設置基準の技術的改正であり、これは異議なく可決・答申された。
報告事項の第一は、「教育・学習の質向上に向けた新たな評価の在り方ワーキンググループ」の議論のまとめである。現行の認証評価(機関別7年・分野別5年)が内部質保証システムの機能確認に偏り、評価する側・される側双方に「徒労感」を生んでいるとの課題認識のもと、①学部等を単位とした評価への転換、②質保証(15項目の法令適合性等)と質向上(教育成果)を分けた二軸評価、③4段階(要是正~星3つ相当)の段階別評価、④評価サイクルを6年に統一、⑤機関別・分野別認証評価の統合、⑥大学改革支援・学位授与機構への評価データプラットフォーム設置、という枠組みが示された。2030年開始を目途とし、全学的な質保証は矢羽根的に絞り込み、学部等の教育成果を直接評価・間接評価・社会からの評価の組み合わせで判断する設計である。委員からは、分野横断的な公平性確保の困難さ(志賀委員)、評価者の処遇・時間・専門性の裏付け不足(濱中委員)、コスト試算の欠如(髙宮委員)など、制度設計の実効性に関する具体的な懸念が集中した。
第二の報告は、大学の量的規模適正化総合施策及び「高校から大学・大学院等を通した人材育成システム改革ビジョン」である。2040年に向けた学生数3割減という前提のもと、理系人材(特にAI・ロボット活用人材、現場人材)の不足と事務系(文系)人材の過剰という需給ミスマッチが経済産業省推計として示され、2026年度から5年間を第Ⅰ期とする大学の規模適正化・機能強化施策(大都市私大の理工・デジタル系展開、人社系のダウンサイジング、私立大学の円滑な撤退慫慂等)が説明された。これに対し、吉見委員・平子委員・栗本委員らから「文系・理系」という二分法自体が時代遅れであるとの強い異論が相次ぎ、合田高等教育局長も文理分断からの脱却を目指す立場を明言しつつ、当面の政策上の枠組みとしての位置づけを説明した。
第三の報告は科学技術人材に関する基本政策(案)で、研究者・技術者・高度専門人材の職種別育成、初等中等教育から社会教育までの教育段階別育成、制度・システム改革を三本柱とし、研究費における人件費支出割合の引き上げ、技術職員・URA等の人事制度ガイドライン新設、DC単価の20年ぶり引き上げなどが盛り込まれている。
現場視点の一般的な懸念(6項目)
第一に、新評価制度における評価者確保と負担の実効性への懸念である。栗本委員が指摘した通り、国内には400種類以上の学部と700種類以上の学位(うち7割が単一大学限りのオリジナル学位)が存在する中で、学部単位・分野別のピア・レビュー体制を全国規模で構築することは、現行の機関別認証評価の延長では対応しきれない可能性が高い。濱中委員が明確に述べたように、評価対象学部数、年間評価件数、必要評価者数、標準作業時間、謝金水準といった具体的な数字の裏付けなしに制度設計が先行しており、大学教員の「持ち出し労働」への依存が常態化する危険がある。
第二に、質保証(負担軽減)と質向上(教員の意識共有・恒常的改善)という、志賀委員が「二律背反」と指摘した二つの目標の両立困難である。報告書全体が負担軽減側に比重を置いているように読める一方、質向上の実質を担保する仕組みが曖昧なまま制度が走り出せば、形式的なチェック作業への回帰、あるいは評価項目の増加による現場負担のさらなる肥大化のいずれかに帰着しかねない。
第三に、分野横断的な公平性の担保が原理的に困難な点である。地域の人材不足解決を担う短期大学のエッセンシャルワーカー養成学部と、最先端研究を担う学部とでは、評価すべき指標の性質自体が異なる。志賀委員が例示したように、国家資格合格率と就職率のどちらを高く評価すべきかという判断基準が不明確なまま「4段階評価」を導入すれば、評価結果の恣意性・不公平感が現場に強く残る。
第四に、地域大学が担う人材育成の文脈依存性と、全国一律の評価軸との齟齬である。山口委員が指摘した通り、地域ごとに求められる人材像は異なり、評価者が必ずしも地域事情に精通していない状況で、地方大学の教育活動が正当に評価されない懸念がある。同様に、大学の量的規模適正化施策における「大都市私大の理工系展開」と「地方大学の撤退慫慂」の組み合わせは、地域における質の高い教育機関の淘汰リスクを内包する。
第五に、「文系・理系」の二分法を前提とした人材需給政策の妥当性への疑義である。吉見委員・平子委員・合田局長自身も認めた通り、この区分は制度的起源(大正7年の高等学校令)に由来する時代遅れの枠組みであり、経済産業省の需給推計自体もこの二分法に依拠している。理系人材を数値目標的に増やす政策が、実際には工学部卒業生の職業ミスマッチの拡大(吉見委員)や、文理複眼的な人材育成の必要性(本間委員、廣津留委員)を軽視する結果につながりかねない。
第六に、教育成果を人材需要・産業競争力に接続する論理の危うさである。濱中委員が指摘した通り、教育側が「特定分野を学べばキャリアが保証される」かのような構図で学修者・保護者・学校に受け止められることへの慎重さが必要であり、雇用創出の責任を教育政策側が過剰に引き受ける構造は、政策と現場の実態との乖離を広げるおそれがある。
改善提案(6項目)
第一に、新評価制度の本格実施に先立ち、評価対象学部・学科数、必要評価者数、年間業務量、コスト試算を伴うパイロット評価を複数分野・複数規模の大学で実施し、実現可能性を定量的に検証した上で制度設計を確定すべきである。栗本委員が提案したチェックリスト方式との組み合わせなど、質保証部分の簡素化は欧州の先行事例も参照しながら早期に具体化する必要がある。
第二に、質保証と質向上の関係を制度上明確に切り分け、質向上に関する評価は「加点的・推奨的」な性格を持たせ、質保証をクリアした学部等への追加的負担とならないよう設計すべきである。データプラットフォームによる自動計算・アラート機能を、単なる負担軽減ツールとしてだけでなく、大学自身の内部改善サイクルにも活用できる汎用性を持たせることが望ましい。
第三に、分野横断的な評価基準の統一を急ぐのではなく、まず同一分野内での相対評価を確立し、分野間の「星」の意味づけの違いを社会に対して丁寧に説明する仕組み(例えば分野別の評価基準の公開と解説)を先行させるべきである。ディプロマ・ポリシーの達成度評価においても、エッセンシャルワーカー養成型学部と研究大学型学部とで、何をもって「高い教育成果」とするかの判断枠組みを、評価者研修の段階で明確化する必要がある。
第四に、地域大学の評価にあたっては、地域構想推進プラットフォームなどを通じて集積された地域ニーズの情報を評価者に事前共有する仕組みを制度化し、評価者側の地域理解不足を補完すべきである。また、規模適正化施策における地方大学の「撤退」と「機能強化」の選別基準を、経営指標のみでなく地域における教育機能の代替可能性を含めて多角的に設計する必要がある。
第五に、「文系・理系」という区分を前提とした人材需給推計に依存する政策決定から、実践的フィールド(医療・福祉・防災・地域課題等)を軸とした文理複眼型・文理融合型の人材育成モデルへと、統計上の分類軸自体を段階的に転換すべきである。栗本委員が提案したレイトスペシャリゼーション(前期リベラルアーツ・後期専攻選択)や大学単位での入学者選抜など、具体的な制度変更を試行的に導入し、需給ギャップの構造的解消を目指す価値がある。
第六に、教育政策と雇用・産業政策との接続について、文部科学省単独でキャリア保証を示唆するような発信を避け、関係省庁・自治体・産業界との役割分担と責任の所在を明確化した上で、人材育成システム改革ビジョンの実施状況を継続的に検証・公表する仕組みを設けるべきである。特に、修了後の社会での活躍状況(進展度)を追跡する枠組みは、和田副分科会長の指摘の通り重要であり、学修成果評価と接続させた長期的なエビデンス収集体制の構築が求められる。
中央教育審議会大学分科会(第190回)議事録
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