AI時代における外国語教育の「本質的意義」再定義と資質・能力の構造化――次期学習指導要領改訂に向けた外国語WG取りまとめ案の検討(令和8年6月18日 第13回会議)

教育課程部会_外国語ワーキンググループ(第13回)配付資料_1

要約

本資料は、令和8年6月18日に開催された中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会・外国語ワーキンググループ第13回会議の配付資料一式で、中心となる「資料」は次期学習指導要領改訂に向けた外国語WGの取りまとめ案である。

現状認識として、現行学習指導要領下でCEFR A1相当以上の中学生の割合(H25:32.2%→R6:52.4%)、A2相当以上の高校生の割合(H25:31.0%→R6:51.6%)はともに上昇しており、「英語を使って何ができるか」を意識した授業改善には一定の進捗が見られるとする一方、語彙・文法の選定基準の不在による難易度の不揃い、「言語活動」概念の解釈のばらつき、中学校の経年変化分析調査スコアの低下傾向、高校「論理・表現」科目で発信活動が十分機能していない実態などが課題として挙げられている。

改善の方向性の柱は大きく五つある。第一に、AIによる高精度翻訳が当たり前になる時代を前提に、外国語を学ぶ「本質的意義」を「言葉・文化・コミュニケーションへの深い理解」と「自分の考えが磨かれ人間関係が豊かになること」の両面から再定義する。第二に、領域別目標を「内容」に移行し、「知識・技能」「思考・判断・表現」「学びに向かう力・人間性等」の三観点構造に統一するとともに、「コミュニケーション活動」と「コミュニケーション活動を支える活動」という新しい活動区分を導入する。第三に、基盤語彙リストの作成や中学校文法事項の焦点化など内容の精選を行う一方、話題・活動の見直しや「外化」を意識した発信力強化を図る。第四に、デジタル学習基盤・AI活用を学習指導要領上に明記する。第五に、高校必履修科目について外部試験(CEFR B2相当以上)による履修免除・振替制度の運用を開始する。

参考資料1の「英語教育実施状況調査」(令和7年度)は、CEFR到達率の上昇傾向に加え、教師の英語使用割合(全体の36.9%で発話の半分以上が英語)、ALTの授業参画状況、ICT活用状況などが生徒の英語力と正の相関を持つことを示しており、都道府県・指定都市間の達成率には依然として大きな開き(中学校で37.3%〜88.9%)がある。参考資料2は、国語WGとの連携のもとで「言語能力」を「受信」と「発信」の往還として整理し、外国語WGの「本質的意義」の再整理や「外化」概念と接続させていることを示している。

現場視点の一般的な懸念

第一に、今回の改訂で同時並行的に動く制度変更の数が多い。目標構造の三観点化、領域別目標の「内容」への移行、語彙リストの新規作成、中学校文法の焦点化、評価規準の作り直し、高校科目名称の変更、履修免除制度の運用開始――これらはいずれも個別には合理的な説明が付されているが、移行期に学校・教師が同時にどれだけの作業量を負うのかを一元的に見積もった記述は見当たらない。複数の改革が積み重なって現場の総負荷を押し上げるという構造は、過去の改訂でも繰り返し指摘されてきたパターンである。

第二に、CEFR到達率という数値目標が前面に出ている点である。「第4期教育振興基本計画」の目標値(中学A1相当60%、高校A2相当60%等)達成状況がグラフの中心に据えられており、都道府県別の達成率比較まで詳細に示されている。教育目標が「英語を使って何ができるか」から「CEFR基準をどれだけ満たしたか」へとすり替わっていく懸念は、本資料自体が問題提起している「AIに代替されるべきではない人間的価値」の議論と緊張関係にある。

第三に、自治体間格差(中学校で37.3%〜88.9%という大きな開き)は調査データとして明示されているが、その是正策は「先行事例の成果共有」「実践事例の積極的な提供」といった情報流通レベルにとどまっており、ALT配置予算や教員研修機会の地域差を埋めるための財政的措置には踏み込んでいない。

第四に、AI活用を学習指導要領に明記するという方向性自体は時代に即しているが、「AIの適切な活用」を明示的に位置付けることが、現場では「AIを使うこと」自体の達成度評価に転化しかねない。この点は資料中でも一定の自覚(AIによる代替と人間に残すべき部分の峻別)が見られるものの、具体的な歯止めの仕組みは今後の検討課題のままである。

第五に、高校必履修科目の外部試験による履修免除・振替制度は、CEFR B2相当以上という高い基準を要件としているが、外部試験の受験料や対策機会には家庭の経済力や地域による格差があり、制度が結果として学習機会の不平等を拡大する可能性について、本資料では言及がない。

第六に、中学校の経年変化分析調査スコア低下について、コロナ禍の影響に加え前回改訂による語彙・文法・話題の高度化が要因として挙げられているが、その是正(語彙リストや文法の精選)が効果を持つまでには新しい教科書の作成・導入を経る数年単位の時間を要する一方、現職教師は移行期間中も従来通りの指導を続けなければならない。

改善提案

第一に、語彙リスト作成、文法精選、目標の三観点化、評価規準の刷新、科目名称変更、履修免除制度の運用開始といった複数の改革を、実施時期を揃えた一覧表(工程表)として示し、どの学校段階・どの年度にどれだけの移行作業が集中するのかを可視化した上で、研修や移行支援のリソース配分を検討する必要がある。

第二に、CEFR到達率などの数値目標を運用する際には、達成率だけでなく「言語活動を通して育成された資質・能力の質」を捉える定性的な評価の仕組みを併用し、数値目標が独り歩きしないようチェック機能を制度設計の中に組み込むべきである。

第三に、自治体間格差の是正については、好事例の共有にとどまらず、ALT配置や教員研修の地域格差を埋めるための財政的措置(例えば、達成率の低い自治体への重点的な予算配分や人的支援)を具体的に検討する必要がある。

第四に、AI活用の明記にあたっては、「AIを使うこと」自体が評価指標化しないよう、解説等で活用の質を問う観点(例えば「外化を伴わないAI生成物の流用を避ける」といった既に文書内にある問題意識)を、評価規準や研修内容に具体的に落とし込む仕組みを併せて示すことが望ましい。

第五に、外部試験による履修免除・振替制度については、導入後に受験料負担や対策機会の地域・家庭間格差が学習機会の不平等を拡大していないか、継続的な影響評価を行う仕組みをあらかじめ制度に組み込んでおくべきである。

第六に、新しい活動区分(「コミュニケーション活動」「コミュニケーション活動を支える活動」)など概念的な再整理を教師に浸透させるための研修は、オンライン動画や資料の提供だけでなく、各地域・各学校の実情に応じた伴走型の研修や授業観察など、実践に根ざした支援を組み合わせる必要がある。

なお、参考資料1で今年度から特別支援学級・特別支援学校中学部高等部が新たに調査対象に加わったにもかかわらず、取りまとめ案本文ではこれらの学校種固有の配慮や負担についてほとんど言及がない点も、今後の検討課題として明記しておく価値がある。

教育課程部会 外国語ワーキンググループ(第13回)配付資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/108/siryo/mext_00013.html

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