
要約
本資料は、令和8年6月19日に開催された中央教育審議会教育課程部会・国語ワーキンググループ(WG)第11回会合の配付資料であり、議題は「とりまとめに向けた検討」である。中心となる資料1「国語WG取りまとめ骨子案」は、次期学習指導要領改訂に向けた国語科の改善の方向性をまとめたものである。
骨子案はまず現状の成果と課題を整理する。成果としては、PISA調査における日本の15歳の読解力がOECD平均を上回っていることなどが挙げられる一方、全国学力・学習状況調査や学習指導要領実施状況調査からは、①言葉で思考を整理・深めること、②目的や場面に応じたコミュニケーション、③目的に応じた文章理解と情報の評価・熟考、④我が国の言語文化を継承・発展させる態度形成、の4分野で課題があるとされる。特に参考資料2(令和6年度高校実施状況調査・暫定版)では、情報の信頼性の確かめ方の理解・使用(正答率35.3%)、目的や意図に応じた情報の妥当性・信頼性の吟味(45.1%)、古典の解釈(21.9%)など、低い正答率の項目が複数示されている。
これを踏まえた改善の柱は大きく二つある。第一に、〔思考力、判断力、表現力等〕を従来の三領域別整理に加えて「話や文章の機能」(仮称:事実や知識の整理と理解/考えや主張の理由付けと吟味/思いや経験の表出と想像/協働による深化や合意/伝統的な言語文化の継承と創造)という軸で整理し直す案、および〔知識及び技能〕を「①運用しながら深める事項」「②教養として深める事項」の二側面で再整理する案である。
第二に、高等学校の科目構成の見直しである。必履修科目「現代の国語Ⅰ」「言語文化Ⅰ」(仮称、各2単位)は現行の枠組みを維持しつつ、選択科目を再編する。現行の「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」(いずれも4単位)から標準的内容を抽出した「現代の国語Ⅱ」「言語文化Ⅱ」(仮称、各4単位)を新設し、その上に発展的な内容を学ぶ「論説と批評」「対話と表現」「文学と創作」「古典と文化」(仮称、各2単位)を置く三層構造とする。見直しの背景には、現行選択科目が全て4単位で時間割編成上の制約が大きいこと、「国語表現」が大学入試に結びつかない等の理由で進学希望者の多い高校では選択されにくいこと、理系生徒の履修が「論理国語」「古典探究」(国公立)や「論理国語」のみ(私立)に偏っていること、といった実態調査(教科書需要数に基づく推計履修率:論理国語77%、文学国語49%、国語表現16%、古典探究87%)が挙げられている。
このほか、生成AI時代における「人間ならではの言語能力」の重視(受信・発信の往還という整理)、教科等横断的な言語能力育成における国語科の役割の明確化、ICT活用の中での書写指導(特に小学校での手書き)の継続的重視、形成的評価と総括的評価の役割を整理し過度な評価負担を生じにくくする方向性、なども示されている。なお、各科目名・各事項の名称はいずれも「仮称」であり、告示文の検討過程で精査されるとされている。
現場視点の一般的な懸念
第一に、改革の重なりによる現場負担の増大が懸念される。今回の骨子案は、目標・見方考え方の見直し、〔思考力等〕の「話や文章の機能」軸への再整理、〔知識・技能〕の二側面化、高校科目の三層再編、評価方法の見直しを同時並行で進めるものであり、いずれも教員にとっては従来の指導観・評価観の組み替えを要する変更である。これらの総量がどの程度の研修時間・教材整備期間を要するのか、誰がその負荷を見積もり責任を持つのかは、本資料からは読み取れない。
第二に、選択科目再編が抱える構造的な脆弱性である。「国語表現」が選択されにくかった理由として「大学入試に繋がらない」ことが明記されているにもかかわらず、骨子案が示す対応は科目の組み替え(標準科目と発展科目への分割)にとどまっており、大学入試との接続という根本要因への言及は見当たらない。新設される「現代の国語Ⅱ」「対話と表現」等が、同じ理由で進学校において軽視される可能性は否定できない。
第三に、評価負担の「精選」が実質的な軽減につながるかという点である。資料には形成的評価と総括的評価の役割分担を整理する考え方が示されているが、同時に〔知識及び技能〕の二側面それぞれについて評価場面を分けて設計する仕組みも提示されており、これが現場にとって本当に評価の手間を減らすものなのか、あるいは評価設計自体がより精緻化・複雑化するのかは、補足イメージ⑫を見る限り判然としない。
第四に、AIに関する課題認識がやや個人の取り組み方に帰属しがちな点である。「ブラウザの検索結果上部のAI要約をコピー&ペーストし、十分な思考を働かせていない実態」が課題として挙げられているが、これが生徒個々の姿勢の問題なのか、指導時間の不足や評価方法(事実的知識を問うペーパーテスト中心)といった構造的要因に起因するのかについての分析は薄い。
第五に、学校図書館や司書教諭・学校司書との連携強化、読書環境整備の重要性が随所で述べられているが、これらの人的体制は学校・地域によって大きな差があり、その配置状況の格差に対する財政的な手当については本資料に記述がない。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
第一に、今回提示されている複数の改革要素(目標構造の見直し、資質・能力の再整理軸の変更、高校科目再編、評価の見直し)について、文部科学省ないし教育課程部会において、改訂全体としての現場負担の総量を可視化し、移行スケジュールと併せて研修・教材整備のための具体的な支援策(時間的猶予、財政措置、モデル教材の提供など)を明示することが望ましい。
第二に、高校選択科目の再編については、大学入試の出題科目・出題内容との連動について、入試研究を所管する部局や大学関係者との協議状況を併せて示すべきである。これがなければ、「現代の国語Ⅱ」「対話と表現」等の新科目が「国語表現」と同様の事情で選択されにくくなるリスクへの対応が不十分なまま告示に進むことになりかねない。
第三に、評価の見直しについては、抽象的な方針提示にとどめず、実際の中学校・高等学校の単元を用いたモデルケースで、現行の評価負担と改訂後の評価負担を定量的に比較できる資料を示すことが、現場の納得感を高める上で有効と考えられる。
第四に、生成AIの利用をめぐる課題については、「生徒が安易にコピー&ペーストする」という現象の記述にとどめず、なぜそうした学習行動が起きるのか(授業時間の制約、評価方法、家庭学習環境の差など)を分析した上で、個々の生徒の意識啓発だけでなく、授業設計・評価設計の両面からの対応策を併記することが望ましい。
第五に、学校図書館機能の充実や読書活動の推進を実効性あるものにするためには、司書教諭・学校司書の配置基準や財政措置について、総則・評価特別部会や他の関連審議会と連携した検討状況を、国語WGの報告にも一定程度反映させることが求められる。
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語ワーキンググループの配付資料を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/107/siryo/mext_00011.html
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