中央教育審議会 初等中等教育分科会 教育課程部会 社会・地理歴史・公民ワーキンググループ(第5回)議事録 令和8年2月27日

要約

1. 議題①:目標及び高次の資質・能力等の在り方

前回からの修正点として、小学校段階における目標の文言を整理。「批判的に捉え直す力」を「問い返し、捉え直す力」へ変更したが、委員から「かえって意味が不明確になった」との指摘があり、表現の再検討が求められた。

「高次の資質・能力」という用語については、現場で「レベルの高い能力」として誤解される懸念が確認され、告示段階では別の語を用いるか、あるいは使用しない方向が示された。また企画特別部会から、①資質・能力の深まりの可視化、②記載のシンプル化、③複数項目の統合といった7つの精査観点が提示された。

2. 委員発表(3名)

北川委員(歴史学者・JAXA元センター長) 国際的観点から、学習指導要領の見直し視点として①空間軸の拡大(グローバルを超えた宇宙視点)、②教室の多様性(ダイバーシティ)への対応を提案。歴史をナラティブとして捉え、「なぜ」を通じた対話を核とする授業設計の重要性を主張。

韮塚委員(小川町コーディネーター) 埼玉県小川町で令和元年度から実施する「おがわ学」を紹介。小・中・高校連携の地域協働学習として、育成したい力の共有、指導計画の作成、教材テキスト化、ゲストティーチャー活用、地域コーディネーターの配置が成果の鍵と説明。生徒の「自分の参加で社会が変えられる」意識が47.9%に達したデータを提示。

池委員(早稲田大学教授) 中学校での地域調査実施率が1・2年ともに11〜12%と極めて低い現状を示し、時間的制約を克服する「見学型フィールドワーク」(50分〜2時間程度)と「探究型フィールドワーク」の事例を紹介。事前資料提供・地域人材活用・教材共有体制の整備が必要と提言。

3. 議題②:系統性・体系性の整理

小学校:同心円的拡大(市区町村→都道府県→国→世界)を基本維持しつつ、グローバル化や人口減少など現代的観点を各学年に追加(資料50ページの「L字型」構造)。

中学校:3分野の分野横断単元として、①「社会への扉」(導入)、②「私たちの社会」(接続)、③「よりよい社会を目指して」(まとめ)の3単元を新設する方向を提示(資料51ページ)。地域調査については、地理・歴史両面からの分野横断的な実施と、地域人材活用・学校行事との連携を方針とした。

委員からは、新単元への概ね支持が示された一方で、授業時数の増加なしでの内容組み換えの困難さ、精選の必要性、名称の再考などが指摘された。

現場視点の一般的な懸念

① 文言修正が現場の実践イメージをかえって不明確にしている 「批判的に捉え直す」→「問い返し、捉え直す」への変更は発達段階への配慮が意図だが、委員からも「何をすればいいか分からない」との指摘が出た。目標の文言は教師が授業設計の根拠とする言語であり、意味が曖昧になると具体的な学習活動に落とし込めない。解説への委任では補えない問題を含む。

② 追加・新設ラッシュと授業時数の矛盾 今回の改訂では、小学校への現代的観点追加、中学校への分野横断3単元の新設、地域調査の充実が同時に提案されている。総授業時数が変わらない中でこれらを実現するには大規模な内容精選が前提となるが、「何を削るか」の具体的合意形成はまだ見えない。桑原委員・唐木委員が明確に指摘したように、小・中・高で日本史を3回繰り返す構造など、既存の大枠への踏み込みなしに「乗せるだけの改訂」になるリスクがある。

③ 地域調査の実施環境整備がともなっていない 池委員のデータが示す通り、中学校の地域調査実施率は10〜12%程度。改訂で「分野横断単元Bの主な方法として位置づける」としても、準備時間・専門性・地域資源の有無というボトルネックは変わらない。板倉委員・寺田委員(提出意見)が指摘するように、優れた事例集の周知だけでは「見ない教員は見ない」のであり、コーディネーター予算・研修機会・教材共有の仕組みといったインフラ整備の担保なしには絵に描いた餅になる。

④ 分野横断単元の内容・時間設計が未確定のまま方向性だけが先行している 「社会への扉」「私たちの社会」「よりよい社会を目指して」はいずれも理念としては支持されているが、各単元に何時間を配分するのか、既存のどの内容を移行・削減するのか、教師がどう評価するのかは示されていない。山田委員が指摘したように、高校「公共」の「扉」単元でも既存内容の移行によって「対話の時間が取れなかった」という前例があり、同じ轍を踏む恐れがある。

⑤ 「高次の資質・能力」の用語問題が示す記述の自己目的化 告示段階では使わない可能性が高いとされた用語で、現在もなお膨大な検討資料が作成されている。現場では学習指導要領と解説書が唯一の実務拠り所であり、告示に残らない概念に大量の作業コストをかける構造は、改訂作業の効率性と現場への伝わりやすさ双方から問い直す必要がある。

⑥ ダイバーシティ対応の要請と、評価・指導の標準化志向の矛盾 北川委員・森本委員・中山委員が口を揃えて指摘した「教室の多様化」(外国につながる子ども、外国籍生徒の増加)への対応は、一方で「到達すべき資質・能力の可視化」「統合的な理解の示し方の標準化」を求める今回の改訂方針と方向が競合している。個の多様性を包摂する授業づくりと、国が示す目標・評価基準の明確化をどう両立させるかは、今回の議論では十分に整理されなかった。

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会社会・地理歴史・公民ワーキンググループの議事録を掲載しました
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