
要約
本資料は、道徳科における「考え、議論する道徳」をより実効性ある形で実装するために、主に以下の2テーマについて論点と実践事例を整理したものである。
1.問題解決的な学習・体験的な学習の在り方
道徳科の学びをいじめ等の現実課題への対応につなげることを念頭に、「問題解決的な学習」と「道徳的行為に関する体験的な学習」の意義・具体例を改めて整理し、多様な実践を推奨することを明確化する方向性が示された。「問題解決的な学習」における「問題」の類型を従来の4項目から「①自己内葛藤」「②価値の対立」の2項目に整理・焦点化することも提案された。また一教材を「複数時間(複数コマ)」で扱う学びと組み合わせることで、体験的・問題解決的な活動を深める余白を生み出す方向性も検討されている。感情の認識・調整に関わる要素を体験的学習の一環として位置づけることも論点として提示された。
2.デジタル学習基盤の活用
道徳科の「深い学び」(多面化・多角化、自我関与)を促進するためのデジタル活用として、「意見の可視化」「振り返りの蓄積」「AIの活用」の3類型が示された。ただし、入力作業の目的化や、デジタル共有による子どもの本心の表出しにくさ、AIの回答を正解として受け取るリスク等について留意事項が多数整理されている。また内容項目ごと(家族愛、生命の尊さ、友情・信頼等)に固有の配慮が必要なことも示された。
委員発表として、渡辺弥生委員(法政大)よりSEL(ソーシャル・エモーショナル・ラーニング)の観点から感情発達・思いやりの発達段階を踏まえた指導の工夫が提示され、渡邉真魚委員(日本大)より役割演技の意義と留意点が実践事例とともに紹介された。
現場視点の一般的な懸念
① 「複数コマ」前提の授業設計は年間指導計画の組み替えを迫る 現状の道徳科は35時間で全内容項目を扱うことが前提であり、複数コマ構成を標準化すると、内容項目の網羅性との兼ね合いが生じる。学校ごとの年間計画の抜本的見直しと、管理職・教務主任の調整負担が増大する懸念がある。
② 問題解決的・体験的学習の「活動の目的化」はすでに起きており、処方箋が不明確 資料自体が「手段の目的化が散見される」と認める通り、現場では既にこの問題に直面している。今回の整理(類型の簡略化・具体例の追加)が実際に指導改善につながるかは、教師の授業力・教材理解の深さに強く依存しており、研修体制の整備なしには効果が限定的と見られる。
③ デジタル活用の「留意事項」が多すぎて教師の判断負担が増す 内容項目ごとに異なる配慮が求められるなど、デジタル活用を「適切に行う」ために教師が判断すべき事項が膨大である。ICT活用に不慣れな教師や、学級状態が安定していないクラスではむしろリスクが高く、「活用を推奨しつつ責任は現場へ」という構造になりやすい。
④ SELや感情教育の導入が道徳科の目標から乖離するリスク 感情の認識・調整は有効な要素である一方、道徳科の授業が心理教育化・カウンセリング化する懸念がある。特に学級担任が行う場合、専門的知識のないまま感情に踏み込む活動を実施することで、意図せず子どもを傷つける事例も想定される。
⑤ 役割演技の実施環境が整っていない学級での強行が懸念される 渡邉委員自身が「安心して自分を表現できない集団では役割演技は難しい」と指摘している通り、学級集団の状態が前提となる。いじめが潜在している学級や人間関係が不安定なクラスで実施した場合のリスク管理の指針が、現状では不十分である。
教育課程部会 道徳ワーキンググループ(第4回) 配付資料:文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/117/mext_00016.html

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