特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程WG 取りまとめ案(第9回)

教育課程部会_特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ(第9回)_配布資料を掲載しました。_1

要約

本文書は、令和8年6月16日開催の中央教育審議会初等中等教育分科会・教育課程部会「特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ」第9回の取りまとめ案である。

制度の基本構造

通常の教育課程(1階)では支援が困難な児童生徒を対象に、特別の教育課程(2階)を編成・実施可能とする2階建て制度を設計する。本制度は「完全早修」ではなく「部分早修」と「拡充」を組み合わせたもので、本来の学年に在籍することを前提とする。漸進的な仕組みの構築を基本とし、当分の間は各学校や地域において必要かつ実施可能な場合の選択肢を提供することを趣旨とする。

支援の意義

取りまとめ案は支援の意義を3つの観点から整理している。【A】困難の軽減・解消、【B】「好き」を育み「得意」を伸ばす、【C】個人のウェルビーイングと社会のウェルビーイングの両面への貢献(多様性を社会の力に変え、経済社会の発展にも資する側面を有する)。なお、支援の目的として経済社会への貢献が明示的に位置づけられている点は特徴的である。

対象活動と実施体制

まず算数・数学や理科等の教科等に関わる認知的な側面に着目し、日常的な見取りや心理検査等により一定の判断が可能な対象から着手することを基本とする。対象活動の実施要件として、①相当教科等で育成する資質・能力をおおむね適切に身に付けられると判断できること、②対象活動を実施する方が学習上・生活上の困難の軽減・解消に効果的であることを総合的に判断できること、の両方を満たす必要がある。

実施機関として、高等学校・大学等・公的研究機関・博物館等の社会教育施設・一定の専門性と実績を有する民間団体を想定する。

指導計画・学習評価

各特例に係る指導計画等を一つの電子ファイルで一体的に運用できる様式(「2階シート」(仮称))を国として示し、特才児童生徒・不登校児童生徒など複数の特例に重複する場合でも俯瞰的に支援できるようにする。学習評価については、相当教科等全体の観点別評価・評定の実施を前提としつつ、対象活動の学習成果を評価材料として参酌する。入試対策助長を防ぐため、指導要録本体には特別の教育課程の編成実施については記載せず、個別の指導計画の写しを別紙として添付する扱いとする。

相談支援体制と施行時期

全国を対象とする複数大学等によるプラットフォームを構築し、都道府県教育委員会による相談支援担当の設置も中期的に想定する。施行時期については、次期学習指導要領の全面実施を待たず先行実施を可能とすることが適切とされているが、具体的時期は総則・評価特別部会等での検討に委ねられている。

現場視点の一般的な懸念

① 対象の判断プロセスの現実的困難

取りまとめ案は「日常的な見取りやWISC等の心理検査」を判断の基軸とするが、心理検査を実施できる専門人材は自治体によって著しく偏在している。心理検査の実施については、保健センターや児童発達支援センターなどの首長部局が所管する機関、民間機関、大学など多様な主体が想定されるとされるが、特に小規模・農村部の自治体では、いずれにもアクセスできない児童生徒が生じる可能性は否定できない。「判断のプロセスを丁寧に整理することが合理的」という記述は、定義の曖昧さを合理化するロジックとして機能しうる点にも注意が必要である。

② 教師への負担の集中

「1階での支援の可能性を検討した上で、それでも困難な場合に2階へ」という順序は理念的には正しいが、実際には担任が1階での試行錯誤を経て、指導計画作成・実施機関との調整・評価・記録・保護者対応を一手に担う構造になる。「実現可能かつ持続可能な仕組みとして創設すべき」「教師・学校・教育委員会の負担に配意する」と繰り返し強調されているが、具体的な負担軽減策は「運用の手引き」に委ねられており、現時点では絵に描いた餅にとどまっている。

③ 在籍学級の包摂性への影響

対象児童生徒が相当教科等の授業を離れる時間帯に、残された学級の授業はどう継続されるのか。他の児童生徒への説明の在り方、「離脱」が学級内の序列感や羨望・反発を生む可能性について、取りまとめ案の記述は「包摂的な学校・学級文化の醸成」という規範的表現にとどまり、具体的な対処法に踏み込んでいない。

④ 学習評価の恣意性リスク

相当教科等の評価に際して、対象活動での学習成果を評価材料として参酌し得るとされており、例えば微分等を学習した場合に四則演算に関わる資質・能力を見取ることも可能とされている。しかしこの論理は、対象活動の学習内容と相当教科等の評価規準のあいだに相当の「読み替え」を要求するものであり、評価の客観性・公平性を担保する仕組みが「運用の手引き」に依存している点は脆弱である。

⑤ 地域格差の構造的放置

実施機関として大学・研究機関・博物館等が想定されているが、これらへのアクセスは都市部と地方で根本的に異なる。オンライン活用が補完策として示されているものの、小中学校段階ではオンラインによる高度な学習を児童生徒のみで実施することは必ずしも容易ではないとも認められている。「運用の手引き」での整理に委ねるだけでは、地域格差が制度的に固定化される恐れがある。

⑥ 入試対策防止規定の実効性

指導要録本体への不記載・調査書への別紙不活用という方針は評価できるが、「特別な教育課程を経て大学プログラムに参加した」という事実自体が、進学を意識した保護者・学校による「受験戦略」として活用される余地は排除できない。取りまとめ案もこの懸念を自覚しつつ、高等学校への「要請」という軟弱な手段にとどまっている。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

① 相談支援プラットフォームの早期具体化と地域別格差の可視化

「全国対象の大学等プラットフォーム」の構築は不可欠だが、都市部に偏在する大学等に依存した設計では地域格差を再生産する。国として、農村・離島・小規模自治体に在籍する特才児童生徒のアクセス実態を定期的に調査・公表し、地域別のアクセス格差を可視化した上で財政的措置を講じる仕組みが必要である。オンライン活用は代替策ではなく正規の選択肢として、支援スタッフ配置の義務付けと合わせて設計すべきである。

② 負担軽減策の「運用の手引き」依存からの脱却

現状では「運用の手引き」が過大な役割を担わされており、制度設計の曖昧さを埋める装置として機能しようとしている。取りまとめ案の段階で、①指導計画作成の標準所要時間の目安の提示、②学校への加配措置の条件整備、③教育委員会の支援担当者の設置を義務ではなく強い努力義務として規定するなど、実現可能性に関わる要素を取りまとめ本体に明記すべきである。

③ 在籍学級への影響評価の仕組みの制度化

対象活動実施後の「クラス全体への影響」を評価する項目を指導計画に明示的に盛り込むべきである。包摂性の維持は理念として提示されているが、評価指標として機能しないかぎり空文化する。

④ 学習評価の「読み替え」基準の先行整備

対象活動の成果を相当教科等の評価に参酌する際の具体的な対応関係表を、各教科ごとに国が先行して例示すべきである。「運用の手引き」への一任では現場の判断に過大な裁量を与え、評価の公平性が損なわれる。

⑤ 入試対策化防止の実効的担保

高等学校への「要請」にとどまらず、中学校・高等学校・大学入試との接続における取り扱いを文部科学省が統一的なガイドラインとして発出し、入学者選抜要領等への反映を求める形での制度的担保が必要である。「運用の手引き」での明確化は最低限の措置として評価できるが、それだけでは不十分である。

教育課程部会 特定分野に特異な才能のある児童生徒に係る特別の教育課程ワーキンググループ(第9回) 配布資料を掲載しました。
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/120/mext_00021.html

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