中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会幼児教育ワーキンググループ第9回・こども家庭審議会幼児期までのこどもの育ち部会保育専門委員会第10回

要約

本文書は、幼稚園教育要領・保育所保育指針・幼保連携型認定こども園教育・保育要領(3要領・指針)の次期改訂に向けた取りまとめ案である。全体を貫くキーワードは「遊びの深まり」であり、乳幼児の自発的な遊びが資質・能力の育成に深く結びつくプロセスを実現することが、改訂の中心的な目標として位置づけられている。

1.現状の成果と課題 平成29年改訂による3要領・指針の整合性確保は一定の成果を上げているが、「育みたい資質・能力」「5つの領域」「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の関係性が不明確なため、現場での実践構想に困難が生じている。また「10の姿」への過度な依存、保育所における「養護と教育の一体的実践」理解のばらつき、ICT活用の不適切事例、幼小接続の不徹底なども課題として挙げられている。

2.資質・能力の構造化 3要領・指針が「遊びの深まり」を実現する手がかりとなるよう、「育みたい資質・能力の3つの柱」「3つの視点及び5つの領域のねらい及び内容」「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」の三者の関係性を明確化・整合化する。あわせて「0歳児」「1~2歳児」「3歳以上児」のねらい・内容のつながりを整理し、長期的視点からの構造化を図る。ねらい・内容の表示形式は、小・中・高等学校と同様に表形式で示すことが適当とされる。

3.内容の改善 0歳から18歳までの学びの連続性を意識した上で、以下の3点を重点的に充実させる。

  • 多様な動きを伴う体験の充実と身体感覚の育成:一方向的な指導ではなく、自発的な遊びの中で多様な動きを経験させる。
  • 他者と関わり協同する力の育成:0歳からの他者への関心を出発点に、異質な他者との葛藤・協同を通じた当事者意識・社会参画意識の芽生えを育む。
  • 言葉を用いて考える力の基礎の育成:直接的・具体的な体験と言葉による表現の往還を通じて、「伝えたい」という意欲を起点に思考力の基礎を育む。

4.指導・評価の改善 施設類型を問わず乳幼児理解に基づく評価を規定し、記録と振り返りの充実、「遊びの中の学びを見取る視点」の重視を求める。ICT活用については、直接的・具体的な体験を阻害しない形に限定し、スクリーン利用の心身への影響についても科学的知見に基づく留意事項を明示する。

5.保育所等における養護 養護の重要性を改めて明確化し、現行指針の「養護に関するねらい及び内容」の記載の整理・改善を図る。

6.特別な配慮を必要とする乳幼児 障害のある乳幼児には「基礎的環境整備」の充実と「合理的配慮」の確実な提供を規定。外国人乳幼児等については「日本語の力を育む視点」をもった日常的な関わりを重視する。

7.幼小接続 「架け橋期のカリキュラム」を5歳児カリキュラムとスタートカリキュラムの総称として位置づけ、合同研修・相互参観・「対話のための資料」の活用等により、互恵的な実践改善を図る。過度な負担を生じさせないよう国が多様なモデルを提示し、自治体はコーディネーター等による継続的支援を行う。

8・9.家庭・地域との連携と地域体制の整備 保護者とのパートナー的関係の構築、こども家庭センター等との連携、幼児教育センターの全都道府県設置、幼児教育アドバイザーや架け橋期コーディネーターの育成・配置を推進する。

現場視点の一般的な懸念

  1. 「遊びの深まり」の評価指標化リスク 「遊びの深まり」は本来、過程を丁寧に見取るための概念であるが、指導評価の充実が強調されるなかで、「深まりがあったかどうか」を確認するチェック項目として形式化されるおそれがある。遊びの質を定型的に記録・評価しようとする圧力が現場に加われば、「遊びを観察するための遊び」が演出されるという逆説が生まれかねない。
  2. 記録業務の際限ない拡大 「記録と振り返りの充実」「写真・動画・ICT活用による共有」が重ねて強調されているが、既に多くの現場で保育記録は深刻な業務負担となっている。何を記録しないかの優先順位づけや、記録作成を支える人員・時間の確保策が示されないまま「充実」が求められることで、保育士の疲弊がさらに進む可能性がある。
  3. 「0歳からの接続」強調による発達段階の均質化圧力 0歳から18歳までの学びのつながりを明示し、0歳児からの各能力の芽生えを丁寧に位置づけることは理念として重要である。しかし現場では、こうした記述が「0歳でもこれができなければならない」という早期達成の圧力として受け取られるリスクがある。発達の個人差が大きい時期であることへの十分な配慮が、実際の運用段階で損なわれやすい。
  4. 幼小接続の業務集中と担当者異動問題の構造的未解決 本文書でも「担当者の異動等により取組が途切れがち」という課題が明示されているにもかかわらず、その根本的解決策は示されていない。架け橋期コーディネーターの配置推進が謳われているが、こうした役割を担う人材が少数の担当者に集中し、異動後に体制が崩壊するという構造は変わらない。「地域の実情に応じて」という留保が、実質的な不作為の免責として機能するおそれもある。
  5. ICT留意事項と「障害のある乳幼児には有効」との矛盾の現場での取り扱い ICTについては直接体験を阻害しないよう留意することを求めながら、障害のある乳幼児には積極的に活用すべきとも記述されている。この二重のメッセージを現場の保育士が具体的にどう運用するかの手がかりが乏しく、個々の判断に委ねられたまま、どちらの方針も中途半端に終わるリスクがある。
  6. 「合理的配慮」と「基礎的環境整備」の自治体間格差の放置 基礎的環境整備の状況に各園で大きなばらつきがあることが課題として認識されているが、改善策は自治体や施設の自律的な取り組みへの期待にとどまっている。財源保障や人員配置基準の見直しといった制度的裏づけなしには、「整備できている園だけが合理的配慮を実践できる」という不平等な状態が固定化されかねない。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

  1. 「遊びの深まり」の概念的位置づけの堅守と評価指標化の明示的禁止 要領・指針の本文および解説において、「遊びの深まり」はアウトカムの達成基準ではなく実践を構想するための視点であることを明記し、これを数値化・チェックリスト化することを慎むよう明示する。国が作成する参考資料においても、記述式の事例記録を主体とした評価モデルを示し、評定型の形式が普及しないよう設計する。
  2. 記録業務の「選択と集中」ガイドラインの整備 「記録の充実」と並行して、「記録の精選」に関する国レベルのガイドラインを整備する。たとえば「一日の全活動を記録する必要はなく、実践改善に結びつく場面を選んで深く記録することが本旨である」と明文化するとともに、記録時間の確保を人員配置基準の検討と連動させることを自治体への推奨事項として盛り込む。
  3. 発達の個人差を保障するための「非到達の容認」規定の強化 0歳からのつながりを示すねらい・内容において、各年齢区分の記述はあくまでも環境構成と援助の手がかりであり、到達基準ではないことを、要領・指針の総則レベルで繰り返し強調する。特に保護者向けの普及啓発資料では「できていないことの発見ではなく、今の姿を大切にすること」を前面に打ち出す。
  4. 幼小接続体制の制度的安定化措置の明記 担当者異動による取組の断絶を防ぐため、架け橋期コーディネーターを個人ではなく複数名体制で配置すること、引き継ぎ文書の標準様式を国が提供すること、市町村単位での接続推進計画の策定を努力義務化することを明記する。「地域の実情に応じて」という留保は残しつつも、最低限の体制要件を国が示すことで、自治体間格差を縮小する。
  5. ICT活用の場面別判断基準の具体化 「乳幼児の直接体験を阻害しない活用」と「障害のある乳幼児への有効活用」を矛盾なく運用できるよう、国の参考資料において「通常の遊び・生活場面」「特性のある乳幼児への個別支援場面」「記録・保護者連携ツールとしての活用」といった場面ごとの判断基準と事例を整理して提示する。保育士が個人の裁量で判断せざるを得ない状況を減らすことで、実践のばらつきを抑制する。
  6. 「基礎的環境整備」の財政的裏づけを条件とした合理的配慮義務の段階的実施計画の策定 合理的配慮の提供を「確実に行われるよう規定」するだけでなく、その前提となる基礎的環境整備の水準を国が最低基準として明示し、それを下回る自治体・施設に対する財政的支援の仕組みを整備する。整備状況の自治体別公表と改善目標年限の設定によって、「ばらつきがある」状態を放置しない制度設計を求める。

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会幼児教育ワーキンググループ(第9回)の配付資料を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/104/siryo/mext_00013.html

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