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要約
開催概要
令和8年3月24日、WEB・対面併用方式にて開催。主査:大坪氏。議題は「資質・能力の整理(論点1)」および「『高次の資質・能力』を踏まえた個別の資質・能力の精査等(論点2)」の2点。
論点1:資質・能力の整理
背景と方向性
現行学習指導要領では、知識及び技能と思考力・判断力・表現力等が別々に位置付けられているため、実際の学習過程との乖離が生じているとされてきた。とりわけ、①工夫する(思いや意図をもつ)場面と技能習得の場面が別々に指導されやすい、②表現の工夫が言語化にとどまり実際の表現につながらない、という課題が指摘されてきた。
次期学習指導要領では「学習指導要領の構造化」の方針を踏まえ、知識及び技能と思考力・判断力・表現力等を往還しながら一体的に育成することが目指される。身体性・創造性の重視、AIが進化する時代における「人間の本来的な能力としての技能」の位置付けが強調された。
教科別改善の方向性
| 教科 | 現状の課題 | 改善の方向性 |
|---|---|---|
| 音楽 | 工夫する場面と技能習得が分断されやすい | 「習得した技能を生かして表現するプロセス全体」を思考力・判断力・表現力等として一体化 |
| 図画工作・美術・工芸 | 発想・構想と工夫して表すことが別資質・能力に分断 | 「発想や構想したことを工夫して表現するプロセス全体」を思考力・判断力・表現力等として一体的に示す |
| 書道 | 思考力・判断力・表現力等の「表現力」と身体性を伴う表現力の捉え方が不明瞭 | 「構想・工夫して書作品として表現するプロセス全体」を思考力・判断力・表現力等として一体化 |
委員からの主な意見
- 技能を「習得した技能を生かす」方向だけでなく、「表現の工夫から必要な技能に気付く」双方向の往還として捉えることが重要(山内委員)
- 「創造的」という語が全目標段階に入ることで概念がぼやける恐れ(山内委員)
- 音楽における「知覚・感受」の定義を明確化する必要性。知覚=音を適切に聴き取る能力、感受=過去の経験を基に音の働きを直観的に解釈する能力として技能に位置付け得るが、情動的側面の範囲をどう限定するかは慎重な検討が必要(水戸委員、山下委員)
- 図画工作で「工夫すること」が技能から思考力・判断力・表現力等へ移動することは大きな転換であり、技能が単なる材料・用具の扱いに矮小化される危惧(廣田委員)
- 「知識及び技能」と「思考力・判断力・表現力等」の往還は、外部(知識・技能)と内部(思考・構想)の相互往還として捉えるべき。その反復プロセスを通じて深い学びが実現する(森委員)
- 芸術制作は他教科(国語・理科・社会・英語等)の知識を統合する場でもあり、「芸術の技能が他教科に活用できる」という一方向だけでなく逆方向の視点も必要(岡本委員)
論点2:個別の資質・能力の精査(内容のスリム化・余白の創出)
背景
深い学びを実現するための「余白」確保と、新設される「調整授業時数制度」(特定教科の時数を他教科に充当可能)への対応として、各教科の内容精査が要請された。
精査の方向性(教科別)
- 音楽:歌唱・器楽を一区分に統合し指導事項を精査。親和性の高い知識・技能事項を一文で統合表示。具体的な記述の一部を「内容の取扱い」へ移行。
- 図画工作・美術・工芸:造形遊びと絵・立体・工作で共通する技能を統一文言で示す。鑑賞の技能を新たに明確化。
- 書道:字形・文字の大きさ・全体の構成等の書を構成する要素を〔共通事項〕としてまとめ、各書分野での柔軟な取り扱いを可能に。鑑賞の技能を位置付ける。
委員からの主な意見
- 精査によって余白が実際に生まれるかどうか、全体を見渡した確認が必要。子供が音楽を学ぶ意義という視点からぶれない精査が不可欠(稲委員)
- 図画工作の技能を共通文言で統合することで「造形遊びはやらなくてもよい」との誤解を招く恐れがあり、丁寧な説明が必要(廣田委員、大泉委員)
- 書道における書の「一回性・運動性・身体性」が〔共通事項〕の整理の中で見えにくくなる点を検討すべき(加藤泰弘委員)
- 「高次の資質・能力」という語が高低の二元論を想起させ、芸術教科の特性になじまない(大泉委員)
- 映像・メディア芸術教育の位置付けを、この委員会でこそ議論すべき(岡本委員)
主査まとめ(大坪主査)
- 「知識や技能を活用して」の「活用」には教科ごとに相当な幅があり、場合によっては学習の本体を含む可能性がある。今後の整理においてこの幅を踏まえることが重要。
- 学びに向かう力・人間性等は、音楽・図工美術・書道を通底する「芸術に向かう態度」として、学校種ごとに示されることが望ましい。
- 題材構成の工夫は時数調整だけでなく、学校の地域性・多様性を反映したものであるべき。若手教員が新たな題材開発に積極的になれるような学習指導要領の示し方が重要。
次回は令和8年4月20日(月)9時30分開催予定。
現場視点の一般的な懸念
- 「工夫することの思考力・判断力・表現力等への移動」が現場に混乱をもたらすリスク 図画工作・美術では「工夫して表すこと」がこれまで技能として整理されており、これを思考力・判断力・表現力等に移動させることは現場の先生方にとって大きな転換となる。特に「技能とは何か」を再定義する説明が不十分であれば、技能指導が材料・用具の扱いに矮小化される恐れがある。解説・研修等による丁寧な趣旨説明がなければ、授業実践の現場では混乱が生じやすい。
- 「知覚・感受」の技能化に伴う概念の曖昧化 音楽における知覚・感受を技能として位置付けることは概念的に整合性があるとしても、小学校担任教諭が授業で扱う際には理解のハードルが高い。また、小学校と中学校で異なる文言(「知覚・感受」vs「諸感覚で捉えること」)を使い分けることで、義務教育9年間のつながりが見えにくくなり、系統的な指導計画の立案を困難にする可能性がある。
- 「創造的」という語の多用によるキーワードの形骸化 今回の改善案では「創造的」という語が小・中・高等学校の目標の複数個所に登場する。芸術教育においてこの概念が本来持つ重みが希薄化し、評価や指導上の手がかりとして機能しなくなる「指標の空洞化」が懸念される。
- 精査による「余白」が実際には生まれない可能性 各精査案(歌唱・器楽の統合、共通技能の統一文言化、共通事項へのまとめ)は個別には合理的であるが、それが実際の授業時間の余白に転化されるかどうかの検証が不十分である。教科書・指導書の作成段階で内容が再び増加する「リバウンド」は過去の改訂でも見られており、今回も同様のリスクがある。
- 造形遊びの軽視・誤解を招く構造的リスク 造形遊びと絵・立体・工作の技能を共通文言で統合することは、「造形遊びはやらなくてよい」という誤解を現場に与える危険がある。造形遊びは活動の過程そのものに意味があり、「表したいことがあってそれを実現する」という他の活動とは本質的に異なる。共通化の文言設計が不十分であれば、造形遊びの独自性・必要性が見えなくなるリスクがある。
- 「高次の資質・能力」という枠組みと芸術教科の特性のミスマッチ 「高次/個別」という二層構造は教科横断的な構造化のために導入されたものだが、「高次」という語が高低の価値判断を連想させ、芸術教科になじまないという指摘が複数の委員から出された。また、芸術における技能の「熟達・深化」は線形の高低モデルで表しにくく、一回性・身体性・即興性といった特性が構造化の枠に収まりきらない部分がある。現場の先生方が「高次の資質・能力」を授業設計の手がかりとして使いにくい形式になるおそれがある。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
- 「技能から思考力・判断力・表現力等への移動」に関する段階的な移行支援の設計 改訂の趣旨を現場に浸透させるためには、学習指導要領本体・解説の記述だけでなく、改訂前後の対照表・授業事例集・評価事例集を早期に整備し、「なぜ変えたのか」という意図を具体的な授業像とともに示すことが必要である。特に、技能の評価場面と思考力・判断力・表現力等の評価場面がどのように同一作品から切り分けられるかについて、複数の具体例を提示する。研修資料においても、図画工作・美術・書道のそれぞれについて「技能が思考を含むとはどういうことか」を実技的なデモンストレーションで示すことが効果的である。
- 「知覚・感受」の扱いに関する小中接続の整合性確保と用語解説の充実 小学校で「知覚・感受」、中学校で「諸感覚で捉えること」という文言の相違を、発達段階に基づく意図的な違いとして解説に明記し、9年間の系統性が読み取れる図表を提供する。とりわけ小学校担任への支援として、「知覚・感受」の意味を子供の具体的な聴き方・言葉の例と共に示すリーフレット等を別途作成することが望ましい。
- 「創造的」という語の使い分けの基準を明示する 「創造的」という語を目標のどの位置に、どのような意味で使うかについて、解説において学校種別・資質・能力の柱別に定義と具体例を示す。各段階での「創造的である状態」の児童生徒像を記述することで、評価・指導の手がかりとしての機能を保持する。同一文書内での多用を見直し、特に強調すべき箇所に絞ることも検討に値する。
- 精査の効果検証プロセスの制度化 各精査案が「実際に余白を生み出すか」を確認するために、学習指導要領告示前に複数の学校でのパイロット実施・授業時数シミュレーションを行い、その結果を解説や教師用資料に反映させる仕組みを設ける。教科書作成段階での内容再増加を防ぐため、教科書検定基準においても「精査の趣旨に沿った記述量の上限」を意識した基準設定を検討する。
- 造形遊びの独自性を担保する記述・説明の強化 技能の共通化を図りつつも、造形遊びが「目的・完成形を定めない活動の過程そのものを学ぶ」という固有の特性を持つことを、解説・研修資料・教師用指導書において明示的に記述する。共通技能の文言を「造形遊びに適合的か」という観点で再点検し、必要であれば造形遊びに固有の技能の示し方を別途補足することを検討する。
- 「高次の資質・能力」の芸術教科向け説明フレームの開発 「高次/個別」という二層構造の意図を、芸術教科の実態に即した言葉で説明し直す補足資料を開発する。例えば「授業全体を貫く資質・能力」と「各題材で培う具体的な資質・能力」という言い換えを検討する。あわせて、書道の一回性・身体性・運動性が「高次の資質・能力」においてどのように表現されるかを明示し、〔共通事項〕と技能の記述に反映させる。芸術系教科全体に通底する「芸術に向かう態度」を「学びに向かう力・人間性等」の柱のもとに学校種別に示し、音楽・図画工作美術工芸・書道の共通基盤として可視化することも提案する。
中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会芸術ワーキンググループ(第7回)の議事録を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/113/gijiroku/mext_00007.html


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