
要約
本資料は、令和8年8月31日(月曜日)13時から15時にWEB会議形式で開催された「通信教育の適正な実施・運営の確保のための基本的な指針等に関する検討会議」第1回の配付資料一式である。同検討会議は令和8年7月30日付の初等中等教育局長決定により設置され、令和8年8月31日から令和9年3月31日までを開催期間とする。委員は東北大学の青木栄一氏、東海大学付属望星高等学校長の吾妻俊治氏、元高校教師の荒瀬克己氏、一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事の岩本悠氏ら計8名で構成されている。第1回の議題は、座長の選任、会議の公開に関する規則の制定、法改正の背景・概要説明、検討課題の提示、自由討議の5点であった。
設置の背景には、令和8年7月に成立した「高等学校の定時制教育及び通信教育振興法の一部を改正する法律」がある。改正法は題名を「高等学校の定時制教育及び通信教育の振興等に関する法律」に改め、多様な背景を有する生徒への配慮や、国・地方公共団体・学校設置者それぞれの責務を明記するとともに、新設された第9条により、文部科学大臣が通信教育の適正な実施・運営の確保のための「基本指針」を定めることとした。基本指針には、①通信制課程を置く高校の適正な管理運営、②監督・情報提供・指導助言等の適切な実施、③広域通信制課程における関係地方公共団体相互間の連携協力、の3事項を定めることとされており、本検討会議はこの基本指針の内容を検討する場として設置された。
配付資料【資料3】では、通信制高校を取り巻く現状データが詳細に示されている。令和8年度時点で通信制高校は358校(全高校の6.5%)、生徒数は311,792人(同9.9%)に達し、全日制・定時制課程の校数・生徒数が減少傾向にある中、通信制のみが一貫して増加を続けている。特に私立の広域通信制高校の増加が顕著であり、平成10年からの10年間で66校、平成20年からの10年間で33校増加した。あわせて、生徒の実態も変容しており、令和5年度時点で通信制高校在籍生徒のうち小・中学校または前籍校で不登校経験を持つ者は65.6%(狭域)・64.2%(広域)に上る。一方、平成27年のウィッツ青山学園高等学校における就学支援金不正受給事案を契機に、「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」(平成28年策定、令和5年最終改訂)の策定や国・所轄庁による共同点検調査(令和7年度末時点で延べ78校実施)が進められてきたが、点検調査では面接指導回数の不足、無資格者による指導、収容定員超過、出欠未確認のまま単位認定、サポート施設をあたかも高校であるかのように誤認させる表示など、多数の不適切事案が確認されている。
【参考資料3】として示された「令和7年度通信制高等学校実態調査」(調査対象323校)の結果からは、質保証上の課題がより具体的に浮かび上がる。収容定員の充足率が50%未満の学校が全体の42.4%を占め、教諭等・講師の兼任率は私立で59.9%、株立で54.5%に達する一方、公立は31.1%にとどまる。情報公開についても、高等学校通信教育規程第14条が定める公表義務事項のうち、教職員組織に関する事項(第4号)を「公表していない」学校が全体で32.2%、入学・退学・卒業等に関する事項(第5号)を「公表していない」学校が26.3%に上るなど、法令上の公表義務が十分に果たされていない実態が明らかにされている。
【資料4】では、大臣の基本指針策定にあたっての検討課題として、①既存ガイドラインを踏まえた事項の整理、②これまでガイドラインに記載のなかった広域通信制課程に関する関係地方公共団体間の連携協力事項(認可時の情報共有、認可後の相互連携、合同点検調査等)、③その他盛り込むべき事項、の3点が示された。さらに参考資料としては、既存の「高等学校通信教育の質の確保・向上のためのガイドライン」全文、「通信制課程に係る私立高等学校の認可基準(標準例)」全文に加え、岩本悠委員が提出した「通信教育の適正な実施及び運営の確保に向けて」と題する提言資料が収録されている。同提言は、①法令上義務付けられた情報公開状況の全校書面調査の実施、②私学助成の減額措置や景品表示法上の措置命令など既存の是正手段の実効的な運用と法令違反校名の公表、③通報・相談窓口の明確化、④研修コンテンツの充実、の4点を具体的に提起している。
現場視点の一般的な懸念
- 情報公開義務の形骸化と是正措置の機能不全:実態調査によれば、教職員組織や入退学・卒業状況といった法令上の公表義務事項について、私立・株立を中心に公表していない学校が3割前後残っている。岩本委員提出資料も指摘するとおり、私学助成の減額措置は収容定員超過のケース以外ではほぼ活用されておらず、景品表示法上の措置命令も行使されていないなど、既存の是正手段が制度としては存在しながら実効的に機能していない状態が長期化している。基本指針でこの状態にどこまで踏み込めるかが見通しにくい。
- 広域通信制のサテライト施設に対する監督権限の空白:改正法第9条第2号は広域通信制課程に係る関係地方公共団体間の連携協力事項を新たに規定したが、資料3が示すとおり、現行制度では実施校の所在都道府県はサテライト施設が所在する他の都道府県への監督権限を持たず、サテライト施設側の都道府県も当該施設の実態把握が困難という構造的な空白がある。資料4もこの点を「検討課題」として提示するにとどまり、どのような権限・仕組みで空白を埋めるかは第1回時点では白紙である。
- 教員の非専任化・兼任構造が指導の質に及ぼす影響:実態調査では、私立通信制高校の教諭等・講師のうち専任は40.1%にとどまり、兼任が59.9%を占める。株立ではさらに、教員の主な勤務場所が「連携する学習等支援施設」となっているケースが最多であり、生徒への日常的な指導・相談体制がどの主体によってどこまで担われているのかが実態調査の集計だけでは見えにくい。
- 収容定員の設定と在籍実態との乖離:収容定員の充足率が50%未満の学校が全体の42.4%に上る一方で、5,000人以上の収容定員を定める学校も一定数存在する。定員設定の適切性を担保する認可基準(標準例)は既に存在するが、実際の運用・審査の水準が所轄庁によってどこまで統一されているかは、本資料だけでは判断できない。
- 検討期間の短さと論点整理の抽象度:本検討会議の開催期間は令和8年8月31日から令和9年3月31日までの約7か月間と定められているが、資料4で示された検討課題は「どのような事項を盛り込むべきか」という論点整理の段階にとどまっており、既存ガイドラインとの関係整理や広域通信制の連携協力の具体的な制度設計といった実質的な論点の多くがこれから議論される。短期間での基本指針策定が、拙速な内容整理につながらないか注視が必要である。
- 一委員提案の位置づけの不明確さ:岩本委員提出資料が示す4つの具体的提言(全校書面調査、是正措置の実効化、通報窓口、研修充実)は、現時点では一委員の提出資料であり、検討会議としての合意事項ではない。実務的で即効性の高い提案である一方、これが今後どこまで基本指針に反映されるかは今後の審議次第であり、現場(学校・所轄庁)としては動向を注視する段階にとどまる。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
- 情報公開の全校書面調査と可視化基盤の整備:岩本委員提出資料が提起する、全通信制高校・全サテライト施設を対象とした情報公開状況の書面調査を国主導で実施し、公表状況を通信制高校プラットフォーム等に集約して生徒・保護者・所轄庁が容易に参照できる仕組みを、基本指針の実施事項として明記することが有効である。
- 是正措置の運用基準の明確化:私学助成の減額措置や景品表示法上の措置命令について、収容定員超過以外にどのような法令違反が対象となり得るかの具体例・運用フローを国が整理し、所轄庁・消費者庁が実際に権限を行使できる体制を基本指針とあわせて周知することが望ましい。あわせて、法令違反が是正されない場合の学校名公表の基準を明確化する。
- 広域通信制の監督に関する都道府県間連携の制度化:改正法第9条第2号が新設した連携協力事項について、認可段階での情報共有・意見交換のタイミングや様式、認可後の合同点検調査の実施方法など、実務レベルで機能する具体的な手続きを検討会議として早期に整理し、サテライト施設所在都道府県が実質的に関与できる仕組みを構築する。
- 教員配置の実態把握と専任率向上のインセンティブ設計:兼任率の高い私立・株立において、教員の主な勤務場所や指導体制の実態を継続的に把握する仕組みを整えるとともに、専任教員の確保や生徒対応体制の充実に取り組む学校を評価・支援する枠組みを検討する。
- 収容定員審査の統一的な運用指針の提示:認可基準(標準例)に基づく収容定員審査について、充足率が著しく低い学校や急激に定員を拡大する学校に対する所轄庁の確認・是正の目安を国がモデル例として示し、所轄庁間の運用のばらつきを防ぐ。
- 検討課題の優先順位付けと段階的な指針策定:約7か月という限られた検討期間の中で拙速な整理に陥らないよう、実態調査で明らかになった課題(情報公開の不徹底、広域通信制の監督空白等)の緊急性に応じて優先順位を付け、まず対応可能な事項から基本指針に盛り込みつつ、制度設計に時間を要する論点(学位授与に類する国際通用性の議論とは異なるが、都道府県間連携の具体的権限配分等)については検討会議終了後も継続的な検討の場を確保することが望ましい。
通信教育の適正な実施・運営の確保のための基本的な指針等に関する検討会議(第1回)配付資料を追加しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/211/siryo/mext_00005.html


