【現場視点】産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回) 議事録

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要約

令和8年6月22日、文部科学省と経済産業省がそれぞれ所管する審議会の下に合同設置された「産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ」の第1回会合が開催された。会議では、研究開発収支の赤字がこの10年で倍増し2兆円を超える規模に達しているとの事務局側の危機感が共有される一方、支援期間は10~15年程度、支援規模は年70億~100億円程度といった具体的な数字が委員から示されるなど、制度設計の輪郭が急速に固まりつつある様子が窺えた。しかし、その議論の内実を読み解くと、委員間の意見には看過できない食い違いや、事務局側も明確な答えを持たない構造的な難題が随所に露出しており、単純に歓迎ムードでまとめられる内容ではない。本稿では、議事録の発言内容から浮かび上がる6つの現場視点の懸念を提示する。

まず目立つのは、既存の支援制度(国際卓越研究大学、J-PEAKS)との関係整理の曖昧さと、評価指標をめぐる委員間の温度差である。定量指標偏重への警戒感を示す委員がいる一方、KPIの具体的な運用方法については踏み込んだ合意形成には至っていない。また、経産省と文科省という2省庁の合同開催という「画期的」な枠組みそのものについても、内閣府参与から「縦割りに陥れば意味が薄くなる」という率直な懸念が示されており、制度の一体性が本当に担保されるのかは今後の議論に委ねられている。

さらに、ガバナンスのあり方(理事長・学長の分離か一致か)をめぐっては、早稲田大学と立命館大学のケースを引き合いに委員同士が正面から異なる立場を示しており、これが単なる各大学の個別事情の違いなのか、制度設計上の要件とすべき論点なのか、整理がついていない。加えて、国立大学特有の会計基準の問題が、過去にCSTIでも改正を断念した経緯を持つ根深い構造的障壁として言及されており、この制度がその壁を本当に突破できるのかは極めて不透明である。国立大学と私立大学とで支援ニーズの性質が異なるという指摘も、制度を一律に設計することの難しさを浮き彫りにしている。


現場視点の一般的な懸念

1. 評価指標のKPI自己目的化と定量指標偏重のリスク 委員からは、評価制度について「評価疲れ」への懸念や、KPI達成の有無のみで機械的に評価することへの慎重論が示された。特に、既存の実績評価軸(論文数・外部資金獲得額など)をそのまま用いると、すでに研究力の高い大学に有利な評価構造が固定化しかねないとの指摘があり、定性的な「改革可能性」や「地域・産業界貢献度」をどう定量化・評価に組み込むかという方法論は、今回の会合では十分に詰められていない。

2. 省庁間連携の実質化が担保されない懸念 文科省・経産省の合同ワーキングという枠組み自体は「画期的」と評価される一方、内閣府参与からは、研究開発の「縦(分野特化型の拠点整備)」を経産省、大学の基盤支援という「横」を文科省が分担するような役割分担に陥った場合、両省庁を一体化させた意味自体が失われるとの率直な懸念が表明された。基盤的経費の支援に経産省がどこまで踏み込めるかは、国立大学法人法における運営費交付金の扱いとも関わる制度的な難題であり、現時点で解決の見通しは示されていない。

3. ガバナンス設計思想(理事長・学長の関係)の不一致 本大学群に求める要件の一つとして「権限と責任の分担が明確な業務執行体制」が資料に示されているが、これに対し、早稲田大学の委員は理事長と学長を分離すると意思疎通に齟齬が生じるリスクを指摘し、両者一致を推奨した。一方、別の委員は理事長・学長が分かれていても連携がうまく機能している立命館大学の例を挙げ、分離体制でも十分な相乗効果が得られるとした。この対立する立場は会議内で解消されておらず、どちらのガバナンス形態を要件・評価の前提とするのか、制度設計上の判断が今後必要になる。

4. 国立大学の会計制度という構造的ボトルネック 内閣府参与からは、国立大学が経営上の利益を可視化すると財務省による運営費交付金削減の対象とされかねないという構造的な事情から、国立大学の会計基準がそもそも経営情報を「見えにくく」する方向に働いていることが指摘された。この問題はCSTI在任時にも改正を試みたが実現に至らなかった経緯があるとされ、私立大学と同水準の経営判断を可能にするには国立大学法人法改正にまで踏み込む必要があるとの見方が示されている。今回の制度がこの壁をどこまで動かせるかは、現時点では未知数である。

5. 国立大学・私立大学の非対称なニーズへの一律制度設計のリスク 内閣府参与の発言によれば、これまで研究力への公的支援が国立大学に偏ってきた経緯から、私立大学にとっての本制度の主眼は研究力支援に、国立大学にとってはガバナンス改革支援になりやすいとの整理が示された。また、私立大学は学生納付金への依存度が経営構造に与える影響が国立大学とは異なるとされ、人材育成のあり方についても両者で異なる支援設計が必要との指摘があった。一つの制度枠組みでこの非対称性にどう対応するかは、今後の詳細設計の焦点となる。

6. 産学間の人材循環・知財収益基盤の未整備 複数の委員から、大学と産業界の人材交流を阻む要因として、報酬・処遇格差の大きさ、企業内への共同研究室設置に伴う秘密保持・知財・費用負担上の制度的障壁、そして大学の特許出願に対しライセンス収入(実施料収入)が諸外国と比べて著しく少ない実態が指摘された。これらは長年繰り返し指摘されてきた課題であるとされ、本大学群の要件設計が、この基盤的なインフラ不全に具体的にどう切り込むのかは、資料上ではまだ明確化されていない。


現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

1. 定量・定性評価の複線化と未達成プロセスの評価組み込み 論文数・外部資金額などの定量指標に加え、改革可能性や地域・産業界への貢献度といった定性指標を評価軸として明文化し、単年度のKPI達成・未達成のみでなく、未達成の要因分析や改善策の提示プロセス自体を評価対象に含める仕組みを制度設計段階で具体化すべきである。

2. 基盤的支援に関する省庁間の権限・財源の一体的整理 経産省と文科省が「縦」と「横」で単純に役割分担するのではなく、基盤的経費の支援スキームについても両省庁が共同で検討・執行できる枠組みを、国立大学法人法の関連条項の見直しも視野に入れつつ、早期に整理・明文化する必要がある。

3. ガバナンス要件のロジックモデルの明確化 理事長・学長の分離/一致いずれを推奨するかを一律に定めるのではなく、本大学群が目指すミッション(産業競争力強化に資する研究力向上)に照らして、どのようなガバナンス体制がどのような成果につながるのかというロジックモデルを整理した上で、複数の体制モデルを許容する評価基準を設計すべきである。

4. 国立大学会計基準の見直しに向けた工程表の提示 本大学群に選定される国立大学については、経営情報を可視化できる会計運用を認める特例措置を設け、将来的な国立大学法人法改正への足がかりとする工程表を、本ワーキンググループの取りまとめに明記することが求められる。

5. 設置形態別の支援メニューの明示的な作り分け 私立大学向けには研究力強化を主眼とした支援メニュー、国立大学向けにはガバナンス改革を主眼とした支援メニューを明確に区分しつつ、両者が同一の評価土俵で不利益を被らないよう、設置形態に応じた要件・評価基準の差異化を制度文書に明記すべきである。

6. 人材流動化・知財収益基盤整備への具体的財政措置 企業・大学間の処遇格差是正、企業内共同研究室設置に係る秘密保持・知財ルールの標準化、大学の特許ライセンス収入拡大に向けた知財マネジメント人材の配置支援など、産学人材循環の基盤インフラ整備そのものを本大学群の必須要件・支援対象として位置づけ、具体的な財政措置を伴う形で制度化する必要がある。

産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回) 議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu31/001/gijiroku/1422208_00012.htm

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