特別コラム:次期学習指導要領改訂をめぐる複数ワーキンググループ横断分析――国語・理科・産業教育・情報技術・家庭・特別支援教育・総則等の資料に共通する構造的矛盾

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中央教育審議会は令和8年度、次期学習指導要領改訂に向けて国語・算数数学・理科・外国語・情報技術・芸術・家庭・体育保健体育・道徳・特別活動・産業教育・特別支援教育など、実に十数を超えるワーキンググループ(WG)を並行して走らせ、それぞれが取りまとめ(案)を相次いで公表している。個々のWG資料は、担当教科の課題に即して緻密に検討されており、単体で読む限り論理的な整合性に大きな瑕疵は見当たらない。

しかし、これらの資料を教科の壁を越えて横断的に読み込んでいくと、単一WGの視点からは見えてこない共通のパターンが浮かび上がってくる。学びに向かう力の評価をめぐる「○付記」方式が、判定基準未確定のまま国語・理科・産業教育・情報技術・家庭という異なる教科で同時並行的に採用されようとしている実態。臨時免許状・免許外教科担任という「危機的な課題」への対応が、教科を問わず一様に研修拡充へと矮小化されている構図。地域間格差の是正が、財政措置を伴わない「好事例の周知」という同一の処方箋でどのWGでも反復されている状況。デジタル活用を「目的化しない」という理念が各WGの文言には存在しながら、施行スケジュールという制度の力学がデジタル利用を既定路線として押し進めている矛盾。そして先行実施と条件整備完了時期がほぼ重なるスケジュール設計が、教科を問わず繰り返されている点――。

本稿は、co-lectがこれまで個別に分析してきた各WG・各答申の内容を横断的に照合し、一つひとつのWGでは「その教科固有の課題」として処理されがちな論点が、実は改訂プロセス全体を貫く構造的な設計思想の反映であることを示すものである。以下、6つの観点から具体的な資料の記述を引きながら整理し、それぞれに対する改善提案を付す。


懸念① 「○付記」評価方式――判定基準が未確定のまま全教科に横展開されている

国語ワーキンググループ(第7回)、理科ワーキンググループ、産業教育ワーキンググループ(第7回)、情報・技術ワーキンググループ(第9回)、家庭ワーキンググループ(第7回)――少なくともこの5教科のWG資料において、現行の「主体的に学習に取り組む態度」の観点別評価を廃止し、「学びに向かう力・人間性等」を教育課程全体を通じた個人内評価に位置づけた上で、「思考・判断・表現」の観点別評価欄に「○」を付記するという同一の評価方式が示されている。

この方式の判定根拠となるのが、国が各教科ごとに示すとされる「見取る姿(仮称)」である。しかしどのWG資料を確認しても、その具体的な内容は「学習指導要領改訂後速やかに示す」とされたままであり、現時点では確定していない。単一のWGだけを読んでいれば「まだ検討中の段階なのだろう」という理解で済むが、5教科分を並べて読むと、教科の異なる評価改革が、すべて同じ未確定の土台の上に積み上げられていることが見えてくる。しかも各WGは、それぞれ独自に教科固有の例示(理科であれば「自然の事物・現象に主体的に関わり、科学的に探究しようとしている」等)を出しており、教科ごとに解釈の方向性がずれた状態のまま議論が先行している可能性がある。

本来であれば、評価方式の共通基盤(「継続的な発揮」をどう判定するか、○が評定にどう影響するか)は、教科横断的な枠組みを扱う総則・評価特別部会が各教科WGに先行して確定させるべき性質のものである。しかし実際の議事の進み方を見る限り、各教科WGでの各論の検討が先に進み、共通基盤の整備が後追いになっている構図が透けて見える。


懸念② 教員不足への処方箋が「研修拡充」に一元化されている

総則・評価特別部会(第8回)の資料は、臨時免許状所有者・免許外教科担任の合計が中学校だけで2,400名を超えるという実態を「危機的な課題」と明記し、令和10年度までに全自治体でゼロにするという目標を掲げている。しかし対策の中心はオンライン免許法認定講習の拡大や研修動画の配布であり、令和8年度の受講予定者はわずか656名にとどまる。

この教員不足問題を念頭に置いた上で、情報・技術WG(情報・技術科としての独立教科化に伴う指導体制整備)、家庭WG(技術・家庭科家庭分野の免許外教科担任許可件数が全体の約29%という実態)、特別支援教育(通常学級担任への専門性要求の拡大)の各資料を読み返すと、いずれも「新たに専門性を要する内容・領域を増やす」→「担い手不足は研修・好事例の周知で埋め合わせる」という同一の解決パターンが教科を問わず反復されていることが分かる。個々のWGの文脈では「当該教科固有の課題」として語られるが、通して読むと、教員個人の学び直しに構造的な人材不足の解消を委ねるという解決思想が、改訂プロセス全体に通底する暗黙の前提になっていると言わざるを得ない。


懸念③ 地域間格差への対応が「好事例の周知」でループしている

家庭WG(免許外教科担任の地域差)、特別支援教育(研修アクセスの自治体財政力依存、合理的配慮の「過重な負担」判断における地域・学校間格差)、情報・技術WG(指導体制の地域格差に対する実証事業・伴走支援への依存)――これらの資料はいずれも、構造的な財政・人員格差の解決策として「好事例の周知」「指針等の策定」「実証事業と横展開」を挙げている。

個別のWGとして見れば穏当な処方箋に映るが、横断して読むと、実証事業に参加できる自治体は、そもそも人的・財政的余力のある自治体であるという逆説――意欲的な自治体ほど恩恵を受けやすく、余力のない自治体ほど取り残されやすいという構造――が、教科を問わない共通の弱点として浮かび上がる。恒久的な教員定数・財政措置に踏み込む記述がどのWGでも限定的である点も共通しており、「格差是正」という同じ言葉が、実質的な資源配分を伴わないまま各教科の資料をまたいで反復使用されている状況が見て取れる。


懸念④ 「デジタルを目的化しない」という理念と、制度設計の力学の不一致

家庭WGの資料には「1人1台端末は家庭科固有の実践的・体験的活動を充実させる手段として位置付け、『目的化』を避ける」という一文が明記されている。一方で、学校教育法等の一部を改正する法律案(デジタル教科書の法制化)や、デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議の資料を見ると、令和9年4月の施行スケジュールが先に確定した状態で、採択・供給・著作権処理といった制度整備が進められており、ICT環境の学校間格差が解消されないままデジタル形態が教科書の正式な選択肢に組み込まれる設計になっている。

「目的化を避ける」という注意書きは各WGの文言レベルでは存在するものの、GIGAスクール構想自体が「予算と調達が先に動き、教育理念が後から追いついた」という経緯を持つ政策である以上、個々のWGが理念レベルで自制を効かせても、制度全体の力学(施行スケジュール・調達)はデジタル利用を既定路線として押し進めているという矛盾が、教科横断で読むことで初めて可視化される。


懸念⑤ 先行実施スケジュールと条件整備完了時期がほぼ重なる

情報・技術科の実装課題に関する分析では、小学校が令和10年度、中学校が令和11年度から段階的に先行実施を行う一方、教材開発・研修コンテンツの提供は小学校で令和9年度末、中学校で令和10年度末を目途とされており、先行実施の開始時期と全教員を対象とした研修の完了目途がほぼ重なっている実態が指摘された。

この「準備期間の圧縮」という同型のスケジュール設計は、デジタル教科書の法制化(法案の閣議決定から施行まで約1年)や、デジタル教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(検討期間が令和8年12月末までで、施行が令和9年4月)でも繰り返し現れている。個別の政策として見ればそれぞれ「やむを得ない範囲」に収まるように見えても、複数の制度改正が同時期に同型のスケジュール圧縮を伴って進行することで、学校現場は同時多発的に移行期の混乱を抱え込むことになる。この積み重なりのリスクは、単一のWG資料からは決して読み取ることができない。


懸念⑥ 経済・労働市場的合理性が、人文的・市民的価値を後景化させる

情報・技術WGの資料では、生産年齢人口の不足数やAI・ロボット活用人材の不足数、企業のスキルギャップ認識率といった産業政策由来のデータが論拠の中心に据えられ、民主主義社会における主権者育成という論点は分量・登場頻度の面で相対的に劣後する構成になっていることが確認できる。

この力学は情報・技術科に限定された現象ではない。教員養成改革における「強み専門性」(AI・データサイエンス等の重点領域)の位置づけ、産業教育WGにおける評価改革の論拠立てなどにも通底しており、「役に立つか」という基準が、教科の存在意義を説明する論拠として教科横断的に優位に立ちつつある傾向が見て取れる。個々の教科の目標設定においても、この力学が評価・内容編成の細部にどこまで浸透していくかは、今後の各WGの取りまとめの精査を要する論点である。


改善提案

提案① 「○付記」の判定基準(見取る姿)を、各教科WGの取りまとめに先行して統一フォーマットで確定・公表する 教科ごとに独自の解釈が先行してから後追いで基準を揃えるのではなく、総則・評価特別部会が「継続的な発揮」の判定粒度や評定への反映方法について、教科横断で一貫した設計指針を先に固め、各教科WGはその枠組みの中で教科固有の例示を肉付けする順序に改めるべきである。

提案② 教員不足対策の重心を「研修拡充」から「定数・処遇・配置」の恒久的措置に移し、新設教科・領域の導入時期を教員確保の進捗と明示的に連動させる 免許外教科担任・臨時免許状所有者の解消を個々の教員の学び直しに依存させるのではなく、新教科・新領域の本格実施の開始時期を、教員定数の加配や採用計画の進捗と結びつけて公表することで、現場が見通しを持てる設計とすべきである。

提案③ 好事例横展開型の格差対策には、必ず財政措置を数値目標つきで併記することを全WG共通のルールとする 「好事例の周知」「指針の策定」といった情報提供型の対応策を提示する際には、対応する財政・人員措置(加配数、機器整備費等)の数値目標を必ず併記することを、教育課程企画特別部会レベルで各WGに一律に求めるべきである。

提案④ デジタル関連施策の施行スケジュールを、教育課程企画特別部会レベルで一元管理し、移行期間の重複を分散させる 教科書のデジタル化、指針策定、GIGA端末の更新といった個別の制度改正を各WG・各検討会議がばらばらに施行時期を決めるのではなく、学校現場が同時に負う移行負担の総量を可視化した上で、実施時期を意図的に分散させる調整機能を設けるべきである。

提案⑤ 経済合理性データと人文・市民性育成の論拠の扱いを、各教科の目標設定において意識的に均衡させるガイドラインを設ける 産業政策由来の統計データを教科の必要性の論拠として用いる際には、教育基本法が掲げる人格の完成・市民性育成といった価値についても同等の分量・具体性をもって記述することを、資料作成の指針として明記すべきである。


以上の6つの懸念はいずれも、単一のワーキンググループの資料のみを読んでいては浮かび上がってこない。次期学習指導要領の改訂が、教科ごとに分業された十数のWGによって並行的に進められている以上、その分業構造そのものが生み出す「見えにくい構造的矛盾」を可視化し続けることが、現場視点からの政策検証において今後ますます重要になるだろう。

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