【現場視点】秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育の充実について(通知)(令和8年8月28日)

20260828_184653_「秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育支援総合パッケージ」を取りまとめました_1

要約

本通知は、文部科学省総合教育政策局長(淵上孝氏)名で令和8年8月28日付(8文科教第977号)で発出された「秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育の充実について(通知)」である。宛先は各都道府県知事・都道府県教育委員会教育長、各指定都市市長・教育委員会教育長、構造改革特別区域法認定地方公共団体の長、文部科学大臣所轄学校法人理事長、附属学校を置く国公立大学法人の長と幅広く、各地方公共団体・学校設置者・学校等における取組の一層の充実を要請する内容となっている。

背景として、我が国に在留する外国人は令和7年末時点で過去最高の約400万人に達し、日本語指導が必要な公立学校の児童生徒数も約8.5万人(令和7年度「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」)と、9年間で約2倍に増加して過去最高を記録している。こうした状況を受け、文部科学省は「外国人児童生徒等の教育の充実に関する有識者会議」報告書(令和8年6月)や「経済財政運営と改革の基本方針2026」等を踏まえ、子供から大人まで切れ目なく一気通貫した日本語教育支援を掲げる「秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育支援総合パッケージ」(別添1)を策定・公表した。令和9年度概算要求・要望額は113億円(事項要求分を含む)で、前年度予算額31億円から大幅な増額要求となっている。パッケージは「来日前」から「来日直後・就学前」「学齢期=高校段階」「大人」までのライフステージを縦軸に、「集住化」「散在化」「母語の多様化」という3つの課題軸を横断する構成である。

通知本文は10項目から成る。①就学促進の支援強化では、「外国人の子供の就学状況等調査(令和7年度)」で約9千人の外国人の子供に不就学の可能性があることが明らかになったことを踏まえ、「外国人の子供の就学促進事業」の概算要求(278百万円)と、令和2年策定の「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」の改訂(詳細は別途通知)が示されている。②プレスクール・プレクラスの支援強化では、初期日本語指導等を集中的に行う取組への支援強化を新規事業(5,498百万円)として要求し、全国展開に向けた教材開発・普及を進めるとしている。③学校における日本語指導体制の充実では、「帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業」(別添2)で市町村教育委員会への直接補助の検討や、日本語指導員・母語支援員の派遣を含む指導体制の構築、公立小・中学校の教員定数改善(別添4、日本語指導関連は令和8~10年度累計1,050人〔ピーク時2,100人〕)が盛り込まれている。

④学校における日本語指導内容の充実では、生成AIやオンライン活用を含む指導内容・方法等に関するガイドラインを年度内に新規策定するとともに、特別の教育課程による指導の活用促進(義務教育段階約76%に対し高等学校段階は約16%にとどまる)、個別の指導計画の参考様式の改善検討、情報検索サイト「かすたねっと」の機能強化(別添5)が示されている。⑤教師等の養成・採用・研修の充実では、教員養成課程における内容充実の検討、日本語指導経験者の採用選考での積極的評価、独立行政法人教職員支援機構(NITS)による研修や全国教員研修プラットフォーム「Plant」の活用促進(別添7)が挙げられている。⑥進学・就職へのきめ細かい支援では、高等学校入学者選抜における特別定員枠(設定は令和7年度時点で20都道府県にとどまる)や受検配慮(試験教科の軽減、漢字へのルビ振り等)の全国的な推進、キャリア教育・支援の実践ガイドの活用促進が示されている。

⑦地域日本語教育の質の向上と機会の拡充、⑧地方公共団体における日本語教育センター機能整備への支援(別添6、地方公共団体等における日本語教育推進事業)では、総合調整会議の設置や地域日本語教育コーディネーターの配置支援等を通じて、子供から大人までの一貫した地域体制の構築を進めるとしている。⑨質の高い日本語教育体制の強化では、令和6年度に創設された国家資格「登録日本語教員」の養成・研修事業(別添7)に加え、日本語教員試験のCBT(Computer Based Testing)化に向けた検討・試行が示されている。⑩「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の創設については、令和8年1月23日の関係閣僚会議決定「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」に基づき、在留外国人(帯同家族を含む)が日本語や我が国の制度・ルール等を学ぶプログラムの創設について、出入国在留管理庁等において検討が進められており、文部科学省も連携する形で、結論が得られ次第別途知らされるとされている。

このほか、参考資料として学校における日本語指導に係る各種ガイドライン・手引き等のリンク集(参考1)、「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」令和7年度結果(参考2、在籍数84,759人・過去最高、支援者8,706人・母語支援員7,301人、ICT活用66.0%等)、有識者会議報告書概要(参考3)、「経済財政運営と改革の基本方針2026」関係部分抜粋(参考4)、「外国人の子供の就学状況等調査」令和7年度結果(参考5、不就学の可能性のある子供9,153人・前年度比723人増)が添付されている。

現場視点の一般的な懸念

本通知及び総合パッケージを学校現場(校長・教育委員会、日本語指導担当教員、日本語指導員・母語支援員、養護教諭を含む一般教員)の視点から見ると、いくつかの懸念が浮かび上がる。

第一に、施策の量に見合う人材が確保できるかという根本的な懸念である。ガイドライン策定、特別の教育課程の活用促進、個別の指導計画の改善、プレスクール・プレクラスの全国展開等、指導内容・体制の充実策は多岐にわたるが、いずれも実際に指導に当たる日本語指導員・母語支援員・登録日本語教員等の人材がいてはじめて機能する。参考資料が示すとおり日本語指導員は全国で8,706人、母語支援員は7,301人にとどまり、特別な配慮に基づく指導を受けていない児童生徒が依然として約1万人(10.2%)存在する。教員定数改善(別添4)でも日本語指導関連は令和8~10年度の累計で1,050人〔ピーク時2,100人〕にとどまり、8.5万人という対象児童生徒数の規模に対して、体制強化のペースが追いついているのかは見通しにくい。

第二に、集住地域と散在地域の格差への対応である。全国的なガイドラインや標準教材、「かすたねっと」の多言語化は共通基盤として有用だが、大人数が在籍する集住地域と、学校に数人程度しか在籍しない散在地域とでは、現実的に取り得る指導体制が大きく異なる。散在地域では巡回指導やオンライン指導への依存度が高まらざるを得ないが、通知では「生成AIやオンラインの活用を含め」という方向性が示されるにとどまり、対面指導に代わる質をどう担保するか、児童生徒の心理的なケアや学校生活への適応支援とどう両立させるかについて、具体的な運用像が今後の検討課題として残されている。

第三に、補助スキームと自治体の財政力への依存である。「帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業」の補助率は1/3であり、市町村教育委員会への直接補助は「検討している」段階にとどまる。プレスクール・プレクラス支援強化事業も自治体が運営主体となることが前提であり、財政力の弱い自治体や、支援対象の外国人児童生徒が急増している自治体ほど、事業実施のための負担(人件費・施設整備費の自己負担分)が重くのしかかる懸念がある。

第四に、現場の事務・記録負担の増加である。個別の指導計画の作成、特別の教育課程の活用拡大、外国人児童生徒等に関する状況調査への対応等、指導の質を高めるための施策の多くは、同時に書類作成・報告業務の増加を伴う。通知では「教師の過度な負担を生じさせず」と明記されているが、具体的な負担軽減策(様式の簡素化、デジタル化支援等)は「検討を進めていく予定」とされるにとどまり、現時点では現場の実務負担がどの程度軽減されるか判然としない。

第五に、高校段階における支援の遅れである。特別の教育課程による指導の活用率は義務教育段階の約76%に対し高等学校段階では約16%にとどまり、高校入学者選抜における特別定員枠の設定も20都道府県にとどまっている。日本語指導が必要な高校生等は非正規就職率が高く進学も就職もしていない者の割合が高いという課題(進学率41.2%、対全高校生等75.0%)も示されているが、義務教育段階に比べて高校段階での体制整備の遅れが構造的な課題として残っている印象を与える。

第六に、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」が出入国在留管理庁主導で検討されている点である。教育を所管する文部科学省と、在留管理を所管する入管庁とでは政策目的が異なる。参考4の「経済財政運営と改革の基本方針2026」では「不法滞在者ゼロプラン」など管理・取締り的な施策と同じ文脈で日本語教育の充実が語られており、学校や地域の日本語教育の現場に、在留管理上の要請がどのような形で及ぶのか、教育的支援としての性格が損なわれないか、詳細が明らかでない段階では現場の受け止め方に注意を要する。

第七に、不就学者数の増加傾向である。「外国人の子供の就学状況等調査」令和7年度結果では、不就学の可能性のある子供の数が9,153人と前回調査から723人増加しており、就学促進事業や指針改訂の効果が実際に不就学の解消につながるかは、今後の実施状況を注視する必要がある。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

以上の懸念を踏まえ、次のような改善の方向性が考えられる。

まず、人材確保については、登録日本語教員の待遇・キャリアパスを明確化し、学校現場での配置・活用に関する指揮命令系統や責任分担を明示したガイドラインを整備することが望ましい。あわせて、教員養成課程における日本語指導関連科目の充実や、採用選考での加点措置を全国の教育委員会に広げる取組を、単なる要請にとどめず、優良事例の横展開や実施状況の定期的な公表を通じて後押しすべきである。

集住・散在の格差については、地域日本語教育コーディネーター(別添6)や都道府県教育委員会による広域的な指導体制の整備を核に、散在地域向けのオンライン指導・巡回指導の質を担保する具体的な運用基準(指導時間数、対面指導との組み合わせ方等)を国が示すことが有効である。プレスクール・プレクラスのオンライン型実施事例の効果検証結果を継続的に収集・共有し、対面指導との効果差を可視化することも、散在地域の学校や自治体が導入を判断する材料になる。

財源面では、市町村への直接補助の早期制度化とあわせて、複数年度にわたる予算の見通しを自治体に示すロードマップを整備し、外国人児童生徒等が急増している自治体に対しては優先的な財政支援や補助率のかさ上げを検討することが考えられる。

事務負担の軽減については、個別の指導計画の参考様式の簡素化・デジタル化を、生成AI・オンライン活用に関するガイドライン策定と一体的に進め、既存の様式(特別の教育課程に係る計画等)との重複を整理することが望ましい。あわせて、「かすたねっと」のポータル機能強化にあたっては、多忙な現場の教職員が短時間で必要な情報にたどり着けるよう、利用者(教員・支援員・保護者)別の動線設計を重視すべきである。

高校段階の支援拡充については、特別定員枠の設定や受検配慮を全国的に広げるための数値目標や達成時期を明示し、高校教員向けの日本語指導研修を重点的に拡充することが求められる。キャリア教育・支援の実践ガイドについても、活用状況のフォローアップ調査を行い、活用が進んでいない学校・自治体への働きかけを強化すべきである。

「日本語・生活学習プログラム(仮称)」については、検討の進捗を学校・教育委員会関係者にも早期かつ継続的に共有するプロセスを設け、教育的な日本語支援と在留管理上の施策とを制度上・運用上明確に区別することで、学校現場が誤解や過度な負担を抱えないようにする配慮が重要である。

最後に、不就学対策の実効性を高めるため、改訂される「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」の内容を早期に周知するとともに、市区町村教育委員会が住民基本台帳等との照合を効率的に行えるツールや手順を具体的に提供し、就学状況の把握から就学促進までの一連の実務負担を軽減する支援策を、財政面の裏付けとあわせて講じることが望ましい。

秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育の充実について(通知)(令和8年8月28日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/2026/mext_000016.html

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