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要約
本通知(8文科教第974号、令和8年8月28日付)は、文部科学省総合教育政策局長(淵上孝氏)及び初等中等教育局長(茂里毅氏)の連名により、各都道府県・指定都市教育委員会教育長、各都道府県知事、各文部科学大臣所轄学校法人理事長、附属学校を置く各国公立大学法人の長、構造改革特別区域法第12条第1項の認定を受けた各地方公共団体の長宛てに発出されたものである。文部科学省が令和2年7月に策定した「外国人の子供の就学促進及び就学状況の把握等に関する指針」(以下「指針」という)を今回改訂したことを受け、その内容や留意事項を周知するとともに、就学促進の取組の一層の充実を求める内容となっている。
改訂の背景には、文部科学省が実施する「外国人の子供の就学状況等調査」の令和7年度結果で、約9千人の外国人の子供に不就学の可能性があることが明らかになった事実がある。参考資料として添付された調査結果概要によれば、令和7年度調査(令和7年5月1日時点、全1,741市町村教育委員会対象)では、学齢相当の外国人の子供の数(住民基本台帳上177,726人)、義務教育諸学校への在籍者数(150,786人)がともに調査開始以来最多となる一方、不就学の可能性のある子供の数(不就学・就学状況把握できず・住民基本台帳との差の合計)は9,153人に達し、前回調査から723人増加している。あわせて同日公表された「秩序ある共生社会の実現に向けた日本語教育支援総合パッケージ」でも、外国人の子供の就学促進に向けた支援の一層の強化が方針として示されており、本通知はこの一環として、就学促進や就学状況の把握に関する重要事項を通知するものと位置づけられている。
改訂指針が示す取組の柱は大きく4点である。第一に「就学状況の把握」では、外国人の子供についても住民基本台帳に基づき学齢簿に準じるものを作成することや、「就学事務システム(学齢簿編製等)」を導入している場合は同システムで管理される外国籍児童生徒情報を積極的に活用することを求めている。就学状況が確認できない場合の電話・訪問等による個別確認、東京出入国在留管理局への外国人出入国記録の照会(居住実態や国外転出の有無の確認)、福祉部局との連携(こども家庭庁が毎年度実施する「乳幼児健診未受診者、未就園児、不就学等の状況確認調査」との連携を含む)が新たに明記された。第二に「就学案内等の徹底」では、住民登録窓口での就学意向確認、AI翻訳等デジタル技術を活用した多言語対応、退去強制手続中の被仮放免者・被監理者情報を活用した就学案内の実施が盛り込まれている。第三に「不就学の子供への支援」では、プレスクール(就学前の外国人幼児対象)・プレクラス(学齢期の外国人児童生徒対象の初期日本語指導等)の推進が明記され、就学前健診での就学説明や母語話者同行による家庭訪問等の取組事例が示されている。第四に「学校への円滑な受入れ」では、特定の義務教育諸学校に外国人の子供が集中し受入れ体制が逼迫している場合の就学校の柔軟な指定・変更、幼児教育施設から小学校への情報引継ぎ、学齢を超過した者の公立中学校・夜間中学への受入れ、日本語指導が必要な生徒を対象とした高等学校特別定員枠(令和7年度公立高等学校入学者選抜で20都道府県が設定)や入試における配慮の推進が求められている。「3.その他留意事項」では、外国人児童生徒等の受入れに当たり、特定の文化的背景への過度な配慮が学校現場の負担や学校教育活動への支障につながらないよう留意しつつ、児童生徒や保護者への日本の学校生活に関する丁寧な事前説明を求めている。
参考資料として、令和9年度「外国人の子供の就学促進事業」の概算要求(278百万円)、新規事業「プレスクール・プレクラス(初期日本語指導等)支援強化事業」(5,498百万円、令和9年度新規要求)、「帰国・外国人児童生徒等に対するきめ細かな支援事業」(3,007百万円)、「日本語指導が必要な児童生徒等の教育支援基盤整備事業」(ポータルサイト「かすたねっと」運用等、115百万円)等、令和9年度予算要求の内容も詳細に示されている。また、法務省を中心に検討されている、外国人が日本語や生活上のルール等に関する知識を習得する「日本語・生活学習プログラム(仮称)」に関連し、子供の就学状況等を親の在留審査における考慮要素とすることの検討が進められている点にも言及があり、就学促進策が今後、在留管理制度とも接続していく可能性が示唆されている。
現場視点の一般的な懸念
本通知を実際に対応にあたる市町村教育委員会や学校現場(教員、スクールソーシャルワーカー、就学援助担当職員等)の視点から見ると、いくつかの懸念が浮かび上がる。
第一に、教育委員会側の事務負担の増大である。学齢簿に準じるものの作成、就学事務システムでの外国籍児童生徒情報の活用、電話・訪問による個別確認、東京出入国在留管理局への外国人出入国記録の照会等、就学状況把握のための取組が具体的かつ多層的に列挙されているが、これらを実際に担うのは多くの場合、国際教育を専任としない少人数の学務担当職員である。特に外国人住民が少ない散在地域の市町村では、通常業務と兼務しながらこうした個別確認や照会業務まで対応することになり、業務量の増加に見合う人員体制が確保されるかは不透明である。
第二に、福祉部局・出入国在留管理局等との連携実務の複雑さである。こども家庭庁の状況確認調査との連携や、福祉部局からの情報提供を受ける際には「保護者の同意等、個人情報の適切な取扱いに十分留意すること」とされているが、具体的にどのような手続き・様式で同意を取得し、どこまでの情報を共有してよいのかの実務的な基準は本通知だけでは明確でない。自治体ごとに解釈や運用が分かれれば、円滑な連携どころか、かえって手続きの煩雑化や自治体間格差を招く懸念がある。
第三に、財源の不確実性である。プレスクール・プレクラス支援強化事業(5,498百万円)をはじめとする関連事業はいずれも令和9年度の概算要求段階であり、予算が確定したものではない。また、きめ細かな支援事業や就学促進事業の補助率は1/3にとどまり、残りは自治体の自主財源で賄う必要がある。財政力に余裕のある集住地域の自治体と、そうでない散在地域の自治体との間で、対応できる支援の質に格差が広がる可能性がある。
第四に、学校現場の受入れ体制の限界である。日本語指導員・母語支援員の確保、AI翻訳機等デジタル技術の活用、特別定員枠を設けた入試対応などが求められているが、日本語指導が必要な外国人生徒等の高等学校等への進学率は全生徒と比較して低く、特別定員枠が設定されているのは20都道府県にとどまる。プレスクール・プレクラスについても、概算要求資料によれば支援対象は「約40自治体」にとどまっており、全国的な普及にはまだ距離がある。
第五に、「特定の文化的背景への過度な配慮は学校現場の負担や学校教育活動への支障につながるおそれがある」との記載についてである。文化的背景への配慮と、学校運営上の負担・支障との線引きは現場の個別判断に委ねられており、どこまでの配慮が「適切」でどこからが「過度」なのかの具体的な基準が示されていないため、学校や教員が対応方針に迷う場面が生じうる。
第六に、学齢を経過した外国人への対応や夜間中学への案内については、「夜間中学を設置している地方公共団体においては」という条件付きの記載にとどまっており、夜間中学が未設置の地域に居住する対象者への具体的な受け皿は示されていない。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
以上の懸念を踏まえ、次のような改善の方向性が考えられる。
まず、教育委員会の事務負担増への対応としては、都道府県レベルでの広域的な支援体制(拠点校方式による日本語指導員・母語支援員の派遣、オンライン相談窓口の設置等)を拡充し、外国人住民の少ない散在市町村が単独で対応を抱え込まずに済む仕組みを整えることが望ましい。あわせて、外国人出入国記録の照会や福祉部局との情報連携について、同意取得の様式や共有可能な情報範囲を示す標準的な手続きひな形を国が整備することで、自治体間の運用のばらつきや実務上の混乱を防ぐことができる。
次に、財源の不確実性については、概算要求段階にある各事業の予算確定状況を早期に自治体へ周知するとともに、補助率1/3という現行の負担構造が財政力の弱い自治体の取組を阻害しないよう、集住・散在それぞれの実情に応じた補助率の見直しや、包括的な交付金化の検討が求められる。
学校現場の受入れ体制については、プレスクール・プレクラスの支援対象自治体(現状約40自治体)の拡大スケジュールと、日本語指導員・母語支援員の安定的な確保策(処遇改善や広域人材バンクの整備等)を明確なロードマップとして示すことが有効である。高等学校の特別定員枠についても、設定都道府県数(20都道府県)の拡大に向けた国の支援策や好事例の横展開を進めるべきである。
「特定の文化的背景への過度な配慮」に関する判断基準については、学校現場が迷わず対応できるよう、具体的な事例集やQ&Aの形で国が整理し、周知することが望ましい。
最後に、夜間中学が未設置の地方公共団体に居住する学齢超過者への対応として、近隣自治体の夜間中学への通学支援や広域連携の枠組みを国が示すことで、居住地によって学び直しの機会に格差が生じないようにする配慮が必要である。
外国人児童生徒等の就学の促進について(通知)(令和8年8月28日)
https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/2026/mext_00017.html


