【現場視点】中央教育審議会大学分科会(第191回)議事録

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要約

令和8年7月16日、中央教育審議会大学分科会(第191回)がハイブリッド形式(対面・Web、傍聴はWebのみ)で開催された。吉岡知哉分科会長のもと、審議事項1件と報告事項2件、計3つの議題が扱われた。

第一の議題は、認証評価機関の認証についてである。一般財団法人大学教育質保証・評価センターおよび一般社団法人専門職高等教育質保証機構の2団体から、学校教育法に基づく認証評価機関としての認証申請があったことが報告された。前者は短期大学を対象とした機関別認証評価、後者は専門職大学の美容健康分野を対象とした分野別認証評価を行うための申請であり、具体的な審査は分科会の下に設置される審査委員会に付託されることが確認された。

第二の議題は、AI(人工知能)があらゆる領域に浸透し社会変革が加速する「AX時代」に高等教育機関が育成すべき人材像についてである。事務局からは、知の総和答申や日本経済団体連合会・経済同友会など経済界からの提言内容が紹介され、文理の壁を越えた普遍的な知識・能力、分野横断的な探究力、自律的に学び続ける力の重要性が共有された。続いて、有識者として招かれた株式会社PKSHA Technology代表取締役の上野山氏が「知識教育から価値創造力を育む教育への転換」をテーマに講演した。同氏は、AIによる知の高速道路の実現・不確実性の高まり・異分野融合という3つの環境変化を前提に、専門知識よりも下位にある「モチベーション」「主体性」「好奇心」「挑戦意欲」といった非認知的・情動的な能力が今後より重要になるという考えを示し、教育のパラダイムは「知識」から「問い」へ、そして「豊かなワールドモデル」を育むことへ移行していくと論じた。

これを受けた質疑応答では、委員から多岐にわたる意見が出された。挑戦する感情や成功体験の積み重ね方、情動記憶の形成時期、探究学習やPBL(プロブレムベースドラーニング)との関係、初等中等教育との接続、AIリテラシーの重要性、文理融合・異文化体験の教育的意義、受験制度改革の必要性など、幅広い論点が提起され、上野山氏や委員同士で活発な意見交換が行われた。

第三の議題は、高等専門学校(高専)の機能強化の方向性についてである。事務局(松本専門教育課長)から高専の現況(全国58校、学年定員は15歳人口の約1%)や国際展開の状況が説明された後、国立高等専門学校機構の中島理事長より、高専における研究活動の実績(科研費・共同研究・受託研究の増加傾向)や、学位(準学士)が国際的に「称号」に過ぎず学位ではないことに起因する海外進学・就職・ビザ取得時の不利益事例が具体的に報告された。これを踏まえ、学校教育法上の高専の設置目的に「研究」を明記すること、および学位授与の実現可能性について検討することが本日の論点として示された。

質疑応答では、上田委員(高専OG)や大竹委員などから、研究の位置づけ明確化や学位授与の検討に前向きな賛同が示された一方、志賀委員からは、短期大学と高専は設置基準からして異なる教育機関であるにもかかわらず両者を並べて論じることへの違和感、学位授与に見合う質保証・カリキュラムポリシー整備の必要性、NQF(教育資格枠組み)の記載が学位・称号の列挙にとどまり「どんな能力を身につけたか」を示していない点など、制度設計上の懸念点が具体的に指摘された。北畑委員からは専門職短期大学・専門職大学との役割分担の整理を求める質問、濱中委員からは学位授与の主体(大学改革支援・学位授与機構)や質保証の責任所在を明確にすべきとの指摘、吉見委員からは高専が持つ「16歳から21歳という一貫教育」「学習指導要領に縛られない自由度」という制度的可能性の大きさを踏まえた発言があった。

最後に報告事項として、連続課程特例認定制度に基づく東京大学の審査結果が事務局(石橋大学振興課長)から報告され、学士・修士の5年一貫課程を持つ「連続課程特例認定大学」として認定することが適当と結論づけられたことが共有された。

現場視点の一般的な懸念

今回の議論を教育現場(学校・教員)の視点から見ると、いくつかの懸念が浮かび上がる。

第一に、AX時代の人材像をめぐる議論は「情動」「モチベーション」「ワールドモデル」といった抽象度の高い概念が中心であり、これを実際の授業・教育課程にどう落とし込むのかという具体像がほとんど示されていない。国語・算数・理科・社会といった既存教科の枠組みをどう再編するのか、教員は何を変え何を変えなくてよいのかが不明確なまま議論だけが先行すれば、現場は方向性を見失いかねない。

第二に、AIリテラシー教育の必要性は繰り返し強調されたが、それを教える教員自身の研修体制や教材整備についての議論は見られなかった。「AIを批判的に問い返す力」を子どもに身につけさせるべきだという理念は理解できても、それを指導できる教員がどれだけ現場にいるのかという実態を欠いたままの理想論に終わるおそれがある。

第三に、初等中等教育と高等教育の接続の重要性は複数の委員から指摘されたが、具体的な連携の仕組みや財源についての言及は乏しい。探究学習やPBLの現場では「問いを立てられない生徒が多い」という中村委員の指摘があった一方、それを解決する具体策は今後の検討課題として持ち越された。

第四に、高専の機能強化に関しては、研究機能の強化・学位授与の検討という前向きな方向性が示される一方で、上田委員が指摘したとおり、高専教員はすでに大学教員に比べて授業コマ数が多く、寮の宿直や部活動指導も担っており、研究時間の確保に苦労している実態がある。研究を制度上明確に位置づけることが、現場教員の業務負担をさらに増やす結果にならないか、金子委員も同様の懸念を示していた。

第五に、高専の量的拡大(新設の動き)についても、志賀委員や上田委員から、現場の実態把握が追いつかないまま制度・規模の議論が先行することへの警戒感が示された。地方における教員確保の困難(大竹委員の指摘)も、量的拡大の実現可能性に影を落とす要素である。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

以上の懸念を踏まえ、次のような改善の方向性が考えられる。

まず、AX時代の人材像や情動・非認知能力の育成といった理念的な議論については、現場の教員・校長経験者を交えたワーキンググループを設置し、既存教科・カリキュラムへの具体的な落とし込み案(例:教科の枠を維持しつつパフォーマティブな要素を組み込む、探究学習の評価指標を整備するなど)を早期に提示することが望ましい。理念先行で終わらせず、モデル校での実証を通じて段階的に広げていく道筋を描く必要がある。

次に、AIリテラシー教育については、教員向け研修プログラムと教材・指導ガイドラインの整備を並行して進めるべきである。教員自身がAIを使いこなし、批判的に問い返す姿勢を実践できなければ、生徒への指導も形骸化しかねない。

初等中等教育と高等教育の接続については、具体的な情報共有の場(実践事例集の作成、教員交流プログラムなど)を制度化し、抽象的な「連携の重要性」の指摘にとどめず、実務レベルでの橋渡しを進めることが求められる。

高専の機能強化にあたっては、研究の位置づけ明確化と並行して、教員の授業負担・宿直・部活動指導の見直しを含めた働き方改革、研究時間確保のための人的加配・予算措置を同時に検討すべきである。上田委員や金子委員が指摘するとおり、制度の充実が現場の疲弊につながっては本末転倒である。また、学位授与の検討にあたっては、志賀委員・濱中委員が指摘したように、質保証の主体・基準・カリキュラムポリシーを先に整備し、称号にとどまらない実質を伴った制度設計を行う必要がある。

最後に、高専の量的拡大については、金子委員・上田委員の指摘どおり、現在の高専教育がどのような内容になっているかという実態を十分に把握した上で、地域ごとの教員確保状況を踏まえながら段階的に進めるべきであり、拙速な規模拡大は避けるべきである。

中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会産業教育ワーキンググループ(第9回)の議事録を掲載しました
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/106/gijiroku/mext_00010.html

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