【現場視点】産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回)議事録

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要約

令和8年6月22日、文部科学省と経済産業省がそれぞれの審議会の下に設置したワーキンググループを合同開催するという異例の体制で、「産業競争力・研究力中核大学群」の形成に向けた検討が始まった。国際卓越研究大学(支援期間25年)やJ-PEAKS(同5~10年)に続く第三の大学支援制度として位置づけられ、高市政権の「日本成長戦略」における17の戦略分野を軸に、中長期的(10~15年、事務局試算で数十億~百億円規模)に大学を支援する枠組みが検討されている。西條科学技術・学術政策局長は、教員の研究時間割合50%以上の研究大学を2030年度末までに20大学以上とする第7期科学技術・イノベーション基本計画の目標達成のため、既存施策を「総動員」する一環として本制度を位置づけると説明した。

議論の前半では、産業界代表委員から支援期間の妥当性や評価制度の設計について活発な意見が出された。特に、KPI達成の有無だけでなく「なぜ達成できなかったか」「改善のスピード」まで評価に組み込むべきという指摘や、評価疲れを避けつつ緊張感を維持するバランスへの懸念が示された。後半のガバナンス・研究力・人材をめぐる議論では、理事長と学長を一体とすべきか分離すべきかで委員間の見解が真っ向から対立し、早稲田大学の田中総長が「一致している方が強い」と主張する一方、野口委員は立命館大学の事例を挙げて分離体制でも相乗効果を発揮できると反論した。また上山内閣府参与からは、国立大学が抱える会計基準上の構造的制約(利益を可視化すると運営費交付金を削減される懸念から、経営の見える化が阻害されている問題)が指摘され、これに本格的に対処するには国立大学法人法の改正まで踏み込む必要があるとの認識が示された。

会議全体を通じて、「本大学群が何を目指すのか」というミッションの明確化を求める声が複数の委員から上がった一方、要件・評価指標のリストは提示されているものの、それらを貫くロジックモデルが不在であるとの指摘(折茂委員)もあり、制度設計の骨格自体がまだ流動的な段階にあることが伺える。次回は7月後半を調整中とされ、年内をめどに5回程度の開催を経て取りまとめが行われる予定だが、初回時点で浮かび上がった論点の多くは、今後の詳細設計において具体的にどう制度に落とし込まれるかが不透明なまま残されている。

現場視点の一般的な懸念

懸念①:評価疲れとKPIの自己目的化への防止策が未整備 折茂委員から「評価疲れ」への懸念とKPI達成の有無だけを見ることへの警鐘が示されたが、事務局側からは定量・定性評価を組み合わせるという方向性が語られたのみで、具体的にどのような設計でKPIが目的化(指標の達成自体が自己目的化し、本来目指すべき産業競争力・研究力の実質的向上から乖離すること)することを防ぐのかは、初回時点では示されていない。

懸念②:ガバナンス体制(理事長・学長の一体/分離)を巡る対立が未整理のまま要件文言だけが先行 資料に記載された「法人の長へのガバナンス、権限と責任の分担が明確な業務執行体制」という要件について、田中委員(早稲田)は理事長・学長一体を、野口委員は立命館大学を例に分離体制の有効性を主張し、明確な結論は出ていない。両者に共通するのは「連携の質」が鍵という点だが、これを制度上どう評価・要求するのかの具体像は議論されていない。

懸念③:「権限のない役職」の形骸化リスクへの検証方法が制度設計に組み込まれていない 益委員は、CFOやプロボストといった役職が設置されていても実質的な資源再配分の権限を伴っていなければ意味がないと指摘し、大野主査自身も「ポストはつくって、そこに人はいるけれど、権限がない」状態への懸念を共有した。しかし、これを審査・評価段階でどのように見抜き検証するのかという具体的な方法論は、本会合では提示されていない。

懸念④:国立大学の会計基準問題は法改正を要する大きな制度変更だが、本WGのスケジュール内での扱いが不透明 上山内閣府参与は、国立大学が運営費交付金削減を恐れて利益を可視化しない構造的傾向を持ち、これがガバナンス・経営力を発揮できない根本要因になっていると指摘し、対処には国立大学法人法の改正まで必要になるとの認識を示した。同参与自身、CSTI在任中にこの改正に取り組みながら「やり切れなかった」と語っており、年内取りまとめを予定する本WGのスケジュール感の中で、この根本課題がどこまで扱われるのかは不明である。

懸念⑤:地域経済との連携強化が期待として語られる一方、具体的な財政的支援の枠組みが示されていない 波多野委員は地方再生や地域経済の活性化への波及を期待として述べたが、これを実現する具体的な財政措置や制度設計についての議論は本会合では深められておらず、従来の「ベストプラクティス共有」にとどまるリスクが残る。

懸念⑥:人文社会科学系など採算性の低い分野が経営判断次第で縮小対象となるリスクへの歯止めが不明確 田中委員は、大学経営を知らない「純粋な経営者」が学長を務めた場合、履修者数や収支だけを基準に人文・哲学系分野を廃止しかねないという懸念を表明した。この懸念自体は重要な指摘だが、それを制度上どう防ぐか(評価項目への明記や配分権限の要件化など)については、本WGの要件案には現時点で具体的な記載がない。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

改善提案①:KPI達成度だけでなく「未達の要因分析・改善プロセス」を必須評価項目として明文化する 折茂委員が示した「達成できなかった理由や改善策の提案まで評価に織り込む」という視点を、制度設計段階で評価票やガイドラインに明文化し、評価委員が単純な数値達成率のみで判断しないよう担保する仕組みを整えるべきである。

改善提案②:ガバナンス体制は「一体/分離」の形式ではなく「意思決定の実効性」を測る具体的指標で評価する 理事長・学長の一体・分離という形式論争に決着をつけるのではなく、予算配分の意思決定にかかる期間、部局間の調整コスト、決定事項の実行率といった実効性を示す定量・定性指標を設計し、どちらの体制であっても機能していれば正当に評価される仕組みとすべきである。

改善提案③:役職設置ではなく「実際の資源再配分実績」を審査・中間評価の必須確認項目とする 益委員が提案したように、学内資源の再配分実績・組織再編実績・重点分野への投資割合の変化といった実行状況を、認定時および中間評価(ステージゲート)双方で必須の確認項目として制度に明記し、「役職はあるが権限がない」状態を事前に排除する審査プロセスを設けるべきである。

改善提案④:国立大学法人法改正を含む会計基準見直しのロードマップを本WGとは別に、しかし連動する形で明示する 本WGの年内取りまとめとは別建てで、会計基準・国立大学法人法改正に関する検討体制と時間軸を明示し、両者の関係性(本大学群の認定基準が将来の法改正を前提とするのか、現行法制下でも機能する設計とするのか)を早期に整理して委員・応募候補大学に示すべきである。

改善提案⑤:地域経済連携について、情報共有にとどまらない財政的インセンティブ(マッチングファンド等)を制度に組み込む 「ベストプラクティス共有」の限界を超えるため、地域の経済団体・自治体との連携実績に応じた追加的な財政支援や、地域企業との共同研究に対するマッチングファンド的な仕組みを、支援措置の選択肢として具体的に検討・明記すべきである。

改善提案⑥:人文社会科学系分野の保護・活用を評価指標に明記し、経営判断の恣意性に歯止めをかける 野口委員が提案した「人文社会科学系研究者の活用度を定量指標に組み込む」という方向性を制度化し、経営責任者の裁量のみで低採算分野が一方的に縮小されないよう、多様な学問領域の維持・活用実績を正式な評価項目として要件に加えるべきである。

産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回) 議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu31/001/gijiroku/1422208_00012.htm

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