【現場視点】デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(第5回) 配布資料

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要約

令和8年8月18日に開催された「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議」第5回では、教科書の形態のあり方、障害等による学習上の困難の軽減、採択・発行等の負担軽減、情報活用能力の抜本的向上という4つの議題が同時に扱われ、6本の配付資料と6本の参考資料が示された。事務局からは、紙とデジタルそれぞれが効果的な学習場面を教科別に整理した一覧と、全学校種・全教科でハイブリッド形態を望む回答が最多(小学校88.3%、中学校86.3%、高等学校78.4%)だったという意向調査結果が報告され、令和12年度以降の教科書形態の当面の取扱いについて議論が求められている。あわせて、座長代理である中川一史氏からは国語のデジタル教科書実践事例に基づき、ハイブリッドの形態を「紙の本文+QR」に限定せず端末画面への書き込みを可能にすべきとの提言が示された。

障害等による学習上の困難の軽減については、外部有識者である近藤武夫東京大学教授から、デジタル版教科用特定図書等のあり方について短期(〜2030年4月)・中期(制度定着まで)・長期(その先)に分けた具体的な提案がなされた。近藤氏の発表で特に注目すべきは、「読む又は書く」に著しい困難のある児童生徒が小・中学校で3.5%(約30.6万人相当)と推計される一方、実際に音声教材の需要として把握されているのは中学校でわずか1,878人にとどまり、学校段階が上がるにつれて「把握から支援資源への接続」という経路が細くなっている可能性を指摘した点である。高等学校は義務教育の無償給与制度の対象外であり、財源の根拠自体が制度的に存在しないことも明確化された。

採択・発行等の負担軽減については、教科書協会や全国都道府県教育委員会連合会などから、紙・デジタル・ハイブリッドの3形態すべてを発行者に求めない方針の明確化、二次元コード先コンテンツの調査研究範囲の限定、共同調査研究の好事例の横展開といった要望が示され、事務局からもそれに沿う方向性が示された。情報活用能力の抜本的向上(資料6)は、他の議題とは性質を異にし、次期学習指導要領改訂に向けた教育課程企画特別部会・情報技術WGの検討状況の「御報告」という位置付けで、小学校総合的な学習の時間への「情報の領域」付加、中学校「情報・技術科」の新設という教育課程の大きな改編案が示されている。令和10年度から小学校、令和11年度から中学校で段階的な先行実施が想定される一方、指導体制や免許制度といった条件整備は「検討中」の域を出ておらず、内容改編のスピードと現場の受け皿整備との間にどれだけの時間的余裕があるのかは、この資料だけでは判然としない。

全体を通じて、紙・デジタルの使い分けや教科書形態の目安、障害のある児童生徒への対応、教員の指導体制のいずれについても、方向性としては現場の実態を踏まえた柔軟な設計を志向しているように見える一方、それを実現するための財源・人員・スケジュールといった条件整備の具体化は多くの論点で「今後の検討課題」として先送りされている。以下では、この資料群を現場視点で読んだ場合に浮かび上がる懸念と、それに対応する改善提案を整理する。

現場視点の一般的な懸念

  1. 紙・デジタルの使い分けに関する「目安」の実務的な具体性不足  資料1で示された教科別の紙・デジタル使い分け表は、あくまで「一例」であり、「児童生徒の発達段階により、必ずしも以下の整理が妥当しない場合も考えられる」との留保が付されている。しかし、令和12年度以降の教科書形態の取扱いを検討する上での基礎資料として用いられる以上、この一覧が事実上の標準として扱われ、教科書採択の現場における判断基準として独り歩きするおそれがある。意向調査で示されたハイブリッド支持率(小学校88.3%等)という数値も、学校種・教科ごとの内実の多様性を覆い隠しかねない。
  2. 採択・発行等の負担軽減が「好事例の横展開」中心にとどまる懸念  資料5では、共同調査研究による負担軽減の「好事例」を国が収集し横展開を促す方向性が示されているが、これは財政的な裏付けを伴う制度化ではなく、あくまで自治体の任意の取組に依拠する。教科書協会や教育委員会連合会からの要望は、事務手続きの簡略化や調査研究対象範囲の明確化といった実務レベルの切実な訴えであるのに対し、事務局の回答は方向性の提示にとどまっており、共同調査研究を行う体制・財源に乏しい小規模自治体や単独採択地区ほど、実質的な負担軽減の恩恵を受けにくいという地域間格差が生じる可能性がある。
  3. 障害等のある児童生徒への支援における学校段階間の構造的な財源断絶  近藤教授の発表資料が明確に示した通り、義務教育段階の教科用特定図書等は無償給与の対象であるのに対し、高等学校段階にはそもそも同様の財源根拠が存在しない。加えて、学校段階が上がるにつれて音声教材等の需要把握数が大きく減少する現象について、近藤教授は「困難が減ったと断定せず、把握・申請・利用につながる経路が細くなっていないかを検証する」必要があると釘を刺している。この構造的な財源・経路の断絶に対する具体的な改善策は、資料上は「今後の政策課題」という位置付けにとどまっており、高校現場の教員や特別支援教育の担当者にとっては、当面の見通しが立ちにくい。
  4. 障害等による学習上の困難の「把握」が引き続き教員個々の気づきに依存する構造  近藤教授の指摘するように、通常の学級において読みの困難等を組織的に把握し必要な制度につなぐ仕組みは十分に整っているとは言えず、教員の気づきや本人・保護者からの相談に左右されているのが実情である。デジタル版教科用特定図書等の技術的な整備が進んでも、その入口となる「把握」の体制そのものが強化されなければ、支援を必要とする児童生徒が実際には制度につながらないまま取り残されるリスクが残る。これは個々の教員の見落としの問題としてではなく、組織的な把握体制の未整備という構造的な課題として捉える必要がある。
  5. 情報活用能力の抜本的向上に伴う教育課程改編と条件整備の速度の不一致  資料6で示された小学校「情報の領域」付加・中学校「情報・技術科」新設は、令和10年度・11年度からの段階的先行実施が想定される規模の大きな改編である。一方、資料内で条件整備として挙げられている教員研修(オンライン・全国規模の免許法認定講習)、PC教室の環境維持に向けた財政措置、教材開発の年次アップデート体制などは、いずれも「検討」の段階にとどまっている。学習内容の具体化(学年別・時間別のミニ探究ユニット例まで)が相当に進んでいるのに対し、それを支える教員の指導体制・免許制度の整備がどの時点で現場に届くのか、この資料からは判断できない。
  6. デジタル教科書の効果を語る実践事例が、特定の熱心な実践者・先進校の声に偏るリスク  資料2で紹介された「実践者の声」は、いずれも国語のデジタル教科書を積極的に活用してきた特定の教員によるものであり、教科書に書き込み、消し、試行錯誤するという活用法が児童の学びを深めたという説得力ある報告である一方、これらの効果が一般化可能かどうかは資料からは検証できない。ハイブリッド形態の指針を検討する際に、こうした先進的な実践事例が全体の標準であるかのように扱われると、ICT環境の整備状況や教員の習熟度に差がある学校現場の実態との乖離が生じかねない。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

  1. 紙・デジタルの使い分け表を指針として盛り込む際には、「一例」であることを明示するだけでなく、学校や学級の実情に応じて採択権者・現場教員が独自に判断できる余地を明文化し、当該一覧を機械的な基準として運用しないよう留意事項を併記すべきである。あわせて、意向調査結果の数値を公表する際には、学校種・教科ごとのばらつきの幅(分布)も示し、平均値・多数派の回答のみが独り歩きしないようにすることが望ましい。
  2. 採択・発行等の負担軽減については、好事例の横展開という情報提供にとどめず、共同調査研究を実施する自治体への財政的インセンティブや、都道府県教育委員会による調査研究を市町村が信頼して活用できるようにするための具体的な運用ルール(重複調査を求めないことの明文化等)を、指針の中に制度的な裏付けとして盛り込むべきである。
  3. 高等学校段階における教科用特定図書等・アクセシブル教材の財源根拠については、「今後の政策課題」として先送りするのではなく、義務教育で構築される構造化データやノウハウを高校教材にどう波及させるか、具体的なロードマップと暫定的な財源措置(既存の高校教科書無償化と異なる枠組みでの補助等)を、次回以降の会議で早期に検討課題として明示すべきである。
  4. 障害等のある児童生徒の「把握」を教員個々の気づきに依存させない体制として、校内委員会やスクールカウンセラー、特別支援教育コーディネーター等と連携した組織的なスクリーニングの仕組みを、デジタル版教科用特定図書等の制度設計と並行して整備することを指針に明記すべきである。近藤教授が提案する「診断や申請の前でもまず試せる」共通機能の実現は、把握の入口を広げる観点からも優先度の高い施策として位置付ける必要がある。
  5. 情報活用能力の抜本的向上に伴う教育課程改編については、学習内容の先行公表と条件整備(教員研修・免許制度・財政措置)の進捗を対で示す工程表を作成し、令和10年度・11年度の先行実施までに、少なくとも対象学年を担当する教員全員が最低限の研修を受けられる体制が整うことを担保する仕組みを、指針や関連文書に明記すべきである。条件整備が学習内容の具体化に追いつかないまま先行実施を迎えることは、現場の混乱と教員の過重負担に直結する。
  6. デジタル教科書の実践事例を指針の根拠として用いる際には、特定の熱心な実践者の報告に加え、ICT環境や教員習熟度にばらつきのある学校での導入初期の実践例や課題も併せて収集・提示し、指針が「模範的な実践ができる学校」だけでなく、多様な条件下にある学校でも機能するものとなるよう、事務局に対して実践事例の収集範囲を広げることを求めたい。

デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(第5回) 配布資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/mext_02432.html

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