【現場視点】道徳ワーキンググループ取りまとめ(案)

道徳ワーキンググループ取りまとめ(案)※会議後修正_を掲載しました_1

要約

中央教育審議会・教育課程部会の道徳ワーキンググループが公表した「取りまとめ(案)※会議後修正」は、次期学習指導要領に向けて道徳教育・道徳科の枠組みを大きく組み替えるものではなく、平成27年の「特別の教科」化以降積み重ねてきた「考え、議論する道徳」の骨格を維持したまま、これを学校現場に「実装」するフェーズへ移すことを基本方針として掲げている。目標や評価の在り方、四つの視点による内容項目の枠組みといった制度の根幹部分は現行を維持する一方で、現場の授業運営に直結する部分には踏み込んだ見直しが示されている。中でも焦点となるのは、各学年の教科書に一律35コマ分収録されてきた「読み物教材」を、発達段階に応じて中学校13、小学校高学年8、中学校(原文ママ、中学年の誤記ではなく中学年)4、小学校低学年0という具体的な目安まで示して精選し、代わりに「深める教材」を含めた「複数時間」の学びを拡充するという方針である。あわせて、チームで行う道徳授業の明確化、デジタル学習基盤やAIの活用場面の具体化、道徳教育推進教師の役割の再整理、高校の全体計画における総合的な探究の時間の位置付け追加なども盛り込まれた。

いじめの認知件数74.6万件・重大事態1,129件、暴力行為発生件数12.3万件という過去最多の数値や、児童虐待相談対応件数約22.6万件といったデータを引きながら、道徳科の学びを実生活の道徳的実践につなげる必要性を強調している点も特徴的で、社会情勢の変化を制度改善の根拠として明示的に組み込んでいる。もっとも、「読み物教材ゼロ」という小学校低学年の教材構成の転換や、複数時間・深める教材・問題解決的学習・体験的学習・デジタル活用・チーム指導といった複数の改善策を同時並行で走らせる設計が、現場の準備期間や実施体制にどのような負荷をもたらすのかについては、本文中でも「学校現場に過度な負担を課すものとなってはならない」という留保が繰り返し付されているものの、具体的な移行支援や地域間格差への目配りは十分に描き切れていない。以下、現場視点から6点の懸念と、それに対応する改善提案を示す。

現場視点の懸念

  1. 教材精選・「深める教材」開発への移行負担 中学校13・小学校高学年8・中学校中学年4・小学校低学年0という読み物教材数の目安が示された一方、これに代わる「深める教材」の開発は教科書発行者の取組に期待する記述にとどまり、次期教科書検定サイクルまでの移行期間に学校現場が独自に教材を補う場面が生じた場合の支援策は明記されていない。
  2. 35コマの中での内容項目網羅と複数時間活用の両立 各学年で最大22の内容項目を全て取り上げる原則を維持したまま、「複数時間」で1教材を扱う運用を広げるとなると、年間35単位時間という限られた枠の中で時数配分がタイトになる可能性がある。取りまとめ内でも学年をまたぐ内容項目の柔軟化は見送られており、負担の吸収は結局、各学校の年間指導計画の工夫に委ねられる形になっている。
  3. チーム指導の推進と実施体制の地域差 教師が交代で授業を行う「チームで行う道徳授業」は指導力向上や教師の負担軽減に資するとされる一方、低学年では信頼関係に基づく個別指導の重要性という相反する留意点も明記されている。どちらを選ぶかの判断は学校規模や教員配置に左右されやすく、小規模校や講師比率の高い学校では選択の余地自体が乏しい可能性がある。
  4. デジタル学習基盤・AI活用における環境格差と目的化リスク 意見の可視化やAIによる異なる立場の提示など具体的な活用イメージが示された一方、「入力作業そのものが目的化していないか」を現場が点検する仕組みは解説レベルの留意事項にとどまる。ICT環境やAI活用スキルの学校間格差についての言及がなく、先進的に取り組める学校とそうでない学校との実践差が広がる懸念がある。
  5. 道徳教育推進教師の役割強化と実効性のギャップ 過半数の小中学校が「諸計画の作成」に、4割以上が「情報提供・情報交換」に重点を置いているとの調査結果が示すとおり、推進教師の役割の受け止め方には学校差がすでに存在する。取りまとめは「参考となる資料等を提供すべき」とするにとどまり、時数確保や処遇といった制度的な裏付けには踏み込んでいない。
  6. 道徳科固有の学びと情報モラル・AI教育指導との境界の曖昧化 AIやSNSをめぐる道徳的課題を道徳科の教材で扱うことが適当とされる一方、情報活用能力全般は情報・技術ワーキンググループ側でも検討が進んでおり、両者の役割分担は「今後の検討」に委ねられた部分が残る。道徳科が担うべき「人間としての価値判断と責任」を深める学びが、実務上は情報リテラシー指導の代替に矮小化されるリスクが拭えない。

改善提案

  1. 教材精選のロードマップと移行支援策(見本となる「深める教材」の国による提供、教科書検定サイクルに合わせた激変緩和期間の設定)を具体的に示し、教科書会社の対応待ちで現場が独自負担を強いられる期間を最小化すべきである。
  2. 内容項目22項目の網羅と複数時間の充実を両立させる年間指導計画のモデル例・時数シミュレーションを国が提示し、各学校が自校の実態に合わせて調整しやすい形で公表すべきである。
  3. チーム指導の導入可否を判断するための校内体制構築ガイド(学校規模別の運用パターン、非常勤講師を含めたTT運用例)を具体化し、小規模校でも実施可能な選択肢を併せて示すべきである。
  4. ICT環境・AI活用スキルの学校間格差の実態を調査した上で、整備支援策と指導事例をセットで提示するとともに、「入力作業の目的化」を防ぐための現場向け自己点検チェックリストを整備すべきである。
  5. 道徳教育推進教師の標準的な業務内容・時間配分の目安を示すとともに、資料提供にとどまらず、加配や校務分掌上の位置付け、研修参加のための代替時数確保など、処遇面を含めた制度設計を検討すべきである。
  6. 道徳科と情報・技術科など各教科等との役割分担を解説等で明確に線引きし、道徳科が情報リテラシー指導の下請けとならないよう、「人間としての価値判断と責任」を深めるという道徳科固有の学びの評価軸を明記すべきである。

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