産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回)配布資料

産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回)配布資料_1

要約

本資料は、令和8年6月22日に開催された「産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回)」の事務局資料を中心に構成されている。文部科学省・経済産業省が共同で設置したこのWGは、日本成長戦略会議の総理発言を受け、戦略17分野を中心として特定分野に特に高い研究力を有する大学を中長期的に支援する新たな制度の創設を具体化するために設けられた。

これまで国際卓越研究大学(東北大・東京科学大ほか)やJ-PEAKS(25大学)が形成されてきたが、それに加え、高い研究力を持つ大学を我が国の成長の中心として世界で存在感を示し、将来的には世界と伍する研究大学へと発展させるべく新たな方策を検討する必要があるという問題意識のもと、新カテゴリーとして「産業競争力・研究力中核大学」が構想されている。

新大学群に求められる要件の方向性は4軸で整理されている。すなわち、①政府の産業政策のビジョンとの適合性、②迅速かつ柔軟な意思決定を可能とするガバナンス・経営力、③特定分野での世界トップレベルの研究力・人材、④経済圏への深い貢献、である。ガバナンス面では、教学担当役員(プロボスト)・事業財務担当役員(CFO)の配置、財源の多様性の確保、特定産業の企業経営者・専門人材の経営陣への登用、経営戦略と研究開発戦略の統合などが求められる取組例として挙げられている。

支援の枠組みについては、分野単位の支援(特定分野の研究力強化・外部資金獲得促進)と大学単位の支援(全学的な研究基盤・体制の強化)を組み合わせたスキームが想定されており、自走化に十分な期間として10〜15年程度が必要とされ、支援開始後3年ごとを目途に中間評価を行う方針である。評価体制には産業界有識者を含むアドバイザリーボードが置かれ、改善が見られない場合は認定取消も検討される。WGは令和8年6月から12月取りまとめを目指して審議を進める。

現場視点の一般的な懸念

第一に、産業政策との「適合性」が認定要件の筆頭に置かれている構造的問題がある。産業政策のビジョンに沿っていることを前提条件とした上で、ガバナンス・研究力・経済圏貢献が求められる設計になっており、政府の重点分野(AI・半導体・量子・合成生物学等)と強みが一致しない大学は事実上排除される仕組みになっている。これは大学の自律的な研究方向の設定を外側から制約するものであり、学術の多様性と長期的な研究の蓄積を支える基礎研究への圧力となりかねない。

第二に、経営改革要件の重層的な課題がある。CFO・プロボストの設置、外部人材登用、資産運用、複線型人事制度、研究IRの構築など、求められる取組例は非常に多岐にわたる。しかし国内のほとんどの大学、特に国立大学は、長年の運営費交付金削減により内部管理体制が脆弱化しており、これだけの経営改革を同時並行で進める人的・財政的余裕は乏しい。経営改革が「支援の前提条件」として課されると、改革能力のある大規模校に資源が集中し、地方中規模大学は構造的に選定から外れるという固定化が生じる。

第三に、評価・認定取消制度が研究の萎縮を招く可能性がある。3年ごとのステージゲート評価によって認定継続の可否を判断し、改善が見られない場合は認定取消も検討されるという設計は、10〜15年を要する基礎研究の性質と根本的に矛盾する。3年サイクルの評価が定着すると、成果が見えやすい応用・実装型研究へのシフトが加速し、「科学とビジネスの近接化」というスローガンのもとで基礎研究が実質的に空洞化するリスクがある。

第四に、「産業界からのコミット」を評価指標に組み込む構造が、大学の評価を市場原理に委ねることを意味している点も見逃せない。共同研究等件数・金額、人材育成実績、スタートアップ創出数、企業経営層のコミットメントなどが評価の観点として列挙されているが、こうした指標群は企業の投資判断に大学の研究方向が左右される構造を定着させる。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

第一に、「政府の産業政策との適合性」を認定の前提条件から外し、大学のビジョンと産業政策との「整合可能性」の確認にとどめることが必要である。大学の強みは長い時間をかけて蓄積された研究の固有性に基づいており、それを政府の重点17分野という固定されたリストに当てはめることで生じる研究の歪みは長期的に国の科学力を損なう。認定にあたっては、大学自身が策定したビジョンの実現可能性と研究の独自性を主軸に評価すべきである。

第二に、経営改革要件については到達点の設定ではなく変化の軌跡を評価する仕組みを導入すべきである。CFOやプロボストの設置・外部資金比率の達成といった完成状態の確認ではなく、申請時点からの変化の方向性と取組の真剣さを評価することで、出発点が異なる多様な大学が参加できる制度設計になる。地方中規模大学が有する産業連携や地域密着型研究の蓄積は、形式的な経営指標では捉えきれない価値を持っており、これを制度設計に反映する必要がある。

第三に、ステージゲート評価の3年サイクルは基礎研究主体の大学には不適切であり、研究領域の性質に応じた評価サイクルの複線化が求められる。応用・実装系の研究は3〜5年サイクル、基礎・萌芽的研究は7〜10年サイクルといった複数軌道を設け、評価に際しては「進捗の遅さ」ではなく「研究の深化と誠実な試行」を確認する質的評価を中心に据えるべきである。

第四に、評価体制に研究者コミュニティと大学実務者の声を組み込む必要がある。現行案では産業界の有識者を含むアドバイザリーボードが評価の中核とされているが、産業界の視点のみが評価を支配する構造では、長期・萌芽的研究の価値が系統的に過小評価されるリスクが高い。分野ごとの学術コミュニティ代表、地域大学の実務者、若手研究者を評価体制に参加させることで、評価の多元性を制度的に担保することが求められる。

産業競争力・研究力中核大学群に関するワーキンググループ(第1回)配布資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu31/siryo/000019199_00020.htm

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