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要約
令和8年4月22日に開催された第7回大学研究力強化部会では、三者からのヒアリングと委員による質疑が行われた。
経済産業省からの報告として、文科省・経産省が共同設置した「世界で競い成長する大学経営の在り方に関する研究会」の中間取りまとめが紹介された。日本の大学は財務規模や産学連携額において海外トップ大学と大きく差が開いており、共同研究の小型化(300万円未満が8割)や企業からの投資の低水準が課題として示された。打開策として、①国際卓越研究大学・J-PEAKSに加える「新たな研究大学群」の形成(産業競争力強化への貢献を軸とし、大学の経営改革をセットで求める)、②世界トップ大学と同等の柔軟な経営環境の整備(大学経営ガイドラインの策定)、③研究開発税制の大幅強化(企業の税額控除40〜50%)、④産学協定による「契約学科」の創設——の四方向が示された。今後は両省の審議会下にワーキンググループを設置し、連携を制度化する方向で調整中とのことであった。
慶應義塾大学(伊藤公平塾長)からの報告では、「国を支えて国を頼らず」という建学の精神のもと、J-PEAKSを軸に学問の社会実装と起業家育成の二本柱で取組を進めていることが紹介された。独自VCファンド(3号200億円、全額民間資金)によるスタートアップ支援、資産運用利回りの7.4%への引き上げ、現物寄附解禁を活用した年100億円超の寄附目標、AIキャンパス構想(30億円を全額自己資金で投資)など財務・経営面での具体的な取組が示された。一方、課題として①データ基盤・計算資源整備への公的支援の必要性、②個人研究から研究のユニット化への移行、③大学院生比率の低さ(全学生の14%、東大の50%超と対照的)が挙げられた。
AeroEdge株式会社(水田和裕CTO)からの報告では、博士人材の専門性とイノベーション戦略論・実践力を兼ね備えた「CTO人材」が日本に決定的に不足しているという問題提起がなされた。特にハードウェア・ディープテック領域では、研究成果を市場につなぐブリッジ機能を担える人材が育っておらず、大学・大企業・スタートアップ・海外の間の交流促進と、博士課程段階からのマネジメント教育の導入が不可欠と述べた。
委員からの質疑では、産業界からの研究開発投資を1.6倍(120兆円)に増やすための障壁、新大学群と既存制度(国際卓越・J-PEAKS)の重複問題、「研究力」の定義をめぐる日欧米の認識ギャップ、大学発プロデューサー人材の育成方法、教員のマインドセット改革の困難さ、などが議論された。
現場視点の一般的な懸念
「競争力強化」言説の反復と、問いの深化の回避
本部会の議論は、日本の研究大学の国際競争力低下という診断を繰り返しながら、処方箋の大枠は従来政策の延長にとどまっている。西村委員が核心をついた問い——「研究力とは何か、日本と欧米でその定義がずれていないか」——は、川上室長・国分課長の回答によって「産学連携のエコシステム論」に吸収されたが、問いそのものへの正面からの答えは得られなかった。現場の研究者・教員の立場からすれば、こうした「定義の曖昧さ」のまま投資が積み上がることへの懸念は大きい。
大学経営改革の要求と現場負担の非対称性
新大学群構想では、支援を受ける条件として「国際卓越研究大学に準ずる経営改革」が求められるとされた。しかし、経営改革の実質的な担い手は学内の管理職・事務職員・教員であり、その負担増は現場に直結する。伊藤塾長が語った「事務方との4年間の対話」は誠実な取組の表れだが、外部からの制度的要求として経営改革を課された場合、現場では「改革のための改革」が発生しやすい。
「CTO人材育成」論の実装段階での困難
水田CTOの提言は刺激的だが、博士課程学生にマネジメント・戦略論・ファイナンスを身につけさせるという方向性は、既に各大学で「トランスファラブルスキル教育」として試みられ、現場では「研究時間の圧迫」との緊張が生じている。那須委員が指摘したように、「そんな時間があるなら研究しろ」という指導教員の圧力は構造的な問題であり、カリキュラム改革だけでは解消できない。
地方・中小大学の排除リスク
本部会のヒアリングは慶應義塾大学という資金力・ブランド力において特異な私立大学を事例としており、議論の射程が自ずと限定されている。浅井委員の「我々のような中小大学はどうすればいいか」という問いへの回答は、「慶應が実験して公開するので参考にしてほしい」という趣旨にとどまり、地方・中小大学が新たな研究大学群から構造的に排除されるリスクへの具体的な手当は議論されなかった。
文科省・経産省連携の「縦割り解消」が生む新たな複雑性
両省連携は象徴的な前進であるが、「横の予算(文科省:交付金型)」と「縦の予算(経産省:分野別)」の二系統が並走することで、大学側の申請・管理・報告業務が複雑化するリスクがある。現場の研究者にとっては、資金源の多様化が事務負担の増大として現れる可能性を注視すべきである。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
「研究力」の定義を政策文書に明示する
西村委員の問いに誠実に応えるため、本部会として「研究力」の定義を多面的に整理し、文書化することを提案する。「論文被引用数」「産業界への移転額」「基礎研究の厚み」「人文社会系の貢献」など複数の軸を明示した上で、新大学群がどの軸で評価されるのかを透明化することが、現場の納得感と政策の一貫性につながる。
経営改革要求に対するコスト・ベネフィット評価の実施
新大学群の要件として経営改革を課す場合、その実施に伴う学内コスト(時間・人件費・機会費用)を事前に評価し、支援措置の設計に反映する仕組みを設けるべきである。改革要求が現場の疲弊に転化しないよう、「改革の内容」ではなく「改革の成果」を評価する指標設計が求められる。
博士人材のキャリア多様化支援を「教員評価制度」の改革とセットで設計する
博士課程学生へのマネジメント教育導入は、指導教員の評価制度が「論文指導の量と質」に集中している限り、実効性が低い。学生の多様なキャリア実現を支援した教員が正当に評価される仕組み(例:産業界・行政への輩出実績を業績評価に組み込む)を、カリキュラム改革と同時に制度化することが不可欠である。
地方・中小大学向けの「伴走型支援」モデルの設計
新大学群の競争枠とは別に、地方・中小大学が産学連携・研究力強化の知見を得られる「伴走型支援」の仕組みを設けることを提案する。慶應義塾が「実験結果を公開する」という姿勢を持っているのであれば、それを組織的な知識移転プログラムとして制度化し、規模の異なる大学が段階的に参照できる形にすることが、研究力強化の裾野拡大につながる。
両省連携予算の申請・管理一元化窓口の設置
文科省・経産省の二系統予算が並走する以上、大学側の事務負担を最小化するため、申請・中間評価・報告の窓口を一元化する仕組み(ワンストップ対応)の設計を、ワーキンググループ設置と同時に検討するべきである。制度的連携が現場の煩雑さに終わらないよう、「連携の恩恵が大学現場に届く設計」を優先する視点が求められる。
科学技術・学術審議会 大学研究力強化部会(第7回)議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu35/gijiroku/00007.html

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