教育課程企画特別部会(第15回)配付資料

要約

概要

本資料は、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会・教育課程企画特別部会(第15回、令和8年5月13日)の配付資料全体をまとめたものである。主な議題は、①総則・評価特別部会の検討状況の報告、および②各教科等WGにおける資質・能力の構造化等に関する検討状況の報告と意見交換。資料数・分量ともに極めて大部であり(689頁)、次期学習指導要領改訂に向けた審議の核心部分が網羅的に示されている。

【資料1】総則・評価特別部会の検討状況

目標・内容の構造化(表形式化):「高次の資質・能力」を「知識及び技能に関する統合的な理解」と「思考力・判断力・表現力等の総合的な発揮」の二軸で可視化し、並列パターン・並行パターンの2形式で表形式化する方向性を提示。各教科等WGで教科の特質に応じたパターンを選択。

デジタル学習指導要領:現行の紙・PDF形式の学習指導要領が教師の授業づくりに活用されていないという課題を受け、教科・学年で絞り込める検索機能、系統図・学校種横断の参照機能、教科書・外部教材との連携、AIへのデータ出力機能等を備えたデジタル版の構築を検討。「資質・能力ベースの授業づくり」への転換を目指す。

個に応じた指導・高等学校単位制の柔軟化:①科目の統合・組み替えの許容、②標準2単位科目の1新単位への減単、③外部試験による科目の履修免除、④週当たり授業コマ数の標準廃止といった大幅な柔軟化を検討。質確保のため国・都道府県・各学校の役割分担と監視体制を別途整備する方針。

学習評価の在り方(「学びに向かう力・人間性等」):形式的な評価材料収集を抑制しつつ、「思考・判断・表現」の観点別評価に「◯」を付記する形で「学びに向かう力・人間性等」を評価する新方式を導入する方向。「見取る姿(仮称)」を国が各教科等ごとに示し、評価期間全体を通じた「継続的な発揮」を見取ることとする。

学習評価プロセスの再整理:従来の複雑な文書ベースのプロセスを「目標設定→評価課題のデザイン→学習過程のデザイン→形成的評価の実施→総括的評価」というシンプルな「構想プロセス」として再整理。学年末に総括的評価を集約し形成的評価を充実させる方向。

【資料2-1・2-2】各教科等WGにおける検討状況

前回(第14回)以降の更新内容として、①各WGの「資質・能力の構造化等に関連する検討のポイント」の更新、②「高次の資質・能力」の設定趣旨・授業改善に向けたねらいの新規作成、③単元計画づくりの参考イメージ(授業構想プロセスの可視化)の新規作成が提示された。

主な各教科等の検討ポイントは以下の通り:

  • 国語:「並行」パターン採用。「話や文章の機能(仮称)」(事実や知識の整理と理解、考えや主張の理由付けと吟味、思いや経験の表出と想像、協働による深化や合意、伝統的な言語文化の継承と創造)という新軸で思考力・判断力・表現力等の内容を整理。AI時代の人間ならではの言語能力重視。高校国語選択科目の再編(現代の国語Ⅱ・言語文化Ⅱ新設+発展科目群の設定)。
  • 外国語:「並行」パターン採用。CEFR分類(Reception・Production・Interaction)を参照し「理解する・表現する・伝え合う」に分けて総合的発揮を記載。「コミュニケーション活動」と「コミュニケーション活動を支える活動」の二分化。基盤語彙リスト整備。AI時代における外国語学習の本質的意義を「言葉・文化・コミュニケーションへの深い理解」として再整理。
  • 社会・地歴公民:「並列」パターン採用。「社会的な視点や方法等」として思考の道具を「総合的な発揮」の中で明示。情報の信ぴょう性確認を重視する「情報の妥当性の確認」技能の新設。
  • 算数・数学:「並列」パターン採用。小中高を通じた6分野での内容整理、「数学ガイダンス(仮称)」「社会を読み解く数学(仮称)」の新設。行列・微積・確率・統計等の充実。小学校教科名を「数学」に統一する可能性も検討。
  • 生活・特活・道徳:資質・能力の3柱分節にはなじまないとして独自形式を維持。
  • 情報・技術:「並列」パターン採用。中学校「情報・技術科(仮称)」として技術科を情報技術中心に再編。「技術の統合(仮称)」内容項目の新設。AI・データサイエンス等の充実。
  • 幼児教育WG:遊びの中の「学び」を見取る視点の重視。「架け橋期のカリキュラム」とスタートカリキュラムの関係整理。
  • 不登校・特異な才能WG:特別の教育課程の在り方を検討。特異な才能のある児童生徒については、大学等の相談支援プラットフォームとの連携を前提とした新制度を構想。

現場視点の一般的な懸念

  1. 「高次の資質・能力」の運用負担と形式化リスク 「統合的な理解」「総合的な発揮」という概念は確かに学習の深まりを可視化しようとするものだが、全教科・全学年・複数区分にわたって表形式で示され、さらに「設定の趣旨・ねらい」「単元計画参考イメージ」まで作成されることで、教師が参照すべき文書群は膨大になる。「参考イメージは各教師に常に作成を求めるものではない」と断り書きが繰り返されているが、指導主事による研修や校内研究での運用において、この参考資料が事実上の「標準形式」として機能するリスクは高い。資質・能力の深まりを引き出すはずのフレームが、新たな文書作業の型として定着する可能性がある。
  2. デジタル学習指導要領の「便利ツール化」による教師の主体性の空洞化 デジタル学習指導要領の参考イメージには、評価規準例を「一括で見られるから便利」「生成AIも使って単元計画や評価基準等を練ろう」といった記述が含まれている。教師の授業づくりを支援する意図は理解できるが、検索・コピペ・AI生成で完結する授業計画が広まれば、教師が「この学年のこの子たちに何を教えたいか」という専門的判断を磨く機会が逆に失われる。ツールが教師の思考の代替ではなく補助として位置づけられるための、実践的な研修設計が不可欠だが、その部分の具体策が資料には示されていない。
  3. 高校単位制の大幅柔軟化に伴う格差拡大と進路誘導の問題 科目統合・減単・履修免除という大幅な柔軟化は、「多様な生徒一人一人に応じる学習の充実」を謳うが、現実には学校の規模・地域・受験対応方針によって制度活用の格差が生じる可能性が高い。特に外部試験による履修免除(外国語・数学を想定)は、経済的・文化的資本を持つ生徒ほど有利に働く仕組みであり、「大学入試対策への過度な傾倒を防ぐ」と記述しながらも、その防止策は学校のHP公表や都道府県による指導助言にとどまる。実効性ある監視の仕組みが求められるが、人員・財政の手当ては示されていない。
  4. 「見取る姿」の制度化による評価の形式化・負担増 「学びに向かう力・人間性等」について、国が各教科等ごとに「見取る姿(仮称)」を示し、評価期間全体を通じた「継続的な発揮」を観察するという仕組みは、形成的評価の充実という趣旨では評価できる。しかし「◯の付記」が「思考・判断・表現」の観点別評価と連動し評定にも影響するという設計は、結果として教師に「いつ、どの場面で◯を付けたか」の記録管理を求める運用に傾きやすい。「評価材料の過度な収集を抑制する」という論点整理の趣旨が、制度化の段階で形骸化するパターンは前回改訂でも繰り返された。
  5. 幼児教育・不登校・特異な才能WGの「後追い」的位置づけ 「高次の資質・能力」の構造化議論を含まないWGとして幼児教育・不登校・特異な才能WGが列挙され、「議論の状況を整理」とされているのみである。しかし、こうした子どもたちこそ画一的な資質・能力フレームになじみにくいはずであり、主流の教科等WGが枠組みを固めた後に「柔軟な対応」を付加する構造は、その趣旨を実質的に担保できない。特に特異な才能については、相談支援プラットフォームという体制論にとどまり、教育内容・方法の論議が薄い。
  6. 改訂全体の「累積的負担」に対する認識の欠如 本資料1回分だけで689頁に及ぶ。各教科等WGの資質・能力構造化・表形式化・デジタル学習指導要領の整備・学習評価の再設計・高校単位制の柔軟化・柔軟な教育課程編成制度の導入、これらが同時並行で審議・実施される現場への影響に対する体系的な「累積負担アセスメント」が存在しない。個別に「過度な負担にならないよう留意」という断り書きが繰り返されるのみで、制度間の相互連関が現場に与える総合的な負荷については、誰も責任ある見通しを示していない。

現場視点の懸念を踏まえた改善提案

  1. 「高次の資質・能力」参考資料の任意性の制度的担保 「参考イメージの作成は求めない」という断り書きを、答申・通知レベルで明示的に位置づけ、指導主事研修や学校評価において参考イメージの形式的な遵守を評価指標としないことを省令・通知等で明記する。あわせて、各校が「高次の資質・能力」をどのように授業づくりに活かすかは教師の専門的裁量に委ねられていることを、制度設計の核心として強調すべきである。
  2. デジタル学習指導要領の「補助ツール」定位の明示と研修設計の具体化 デジタル学習指導要領の普及に合わせ、「ツールで何ができるようになるか」の説明にとどまらず、「ツールが教師の専門的判断を代替しない使い方」を具体的に示した研修プログラムの設計を、文部科学省・国立教育政策研究所が主導して行う。特に、AIによる単元計画生成を使用した場合の「教師による修正・批判的検討」を不可欠なプロセスとして明示する研修内容が必要である。
  3. 高校単位制柔軟化における地域格差対策の実質化 履修免除・科目統合等の制度運用状況を毎年の「教育課程編成・実施状況調査」で詳細に把握し、制度活用の地域間格差・学校規模別格差・家庭背景別格差を継続的にモニタリングするデータ体制を整備する。HP公表・指導助言という現行の「防止策」に加え、都道府県教育委員会が明らかな問題事例に対して是正命令を発動できる実効的な規定の検討を行う。
  4. 「学びに向かう力」評価の記録負担軽減策の事前設計 「◯の付記」運用において生じうる記録管理負担を事前に把握するため、試行校・研究開発学校での先行実施において「教師の評価業務時間」の実態計測を義務づける。その結果を踏まえて、通知等に「◯の付記に係る記録の保存は評価期間終了時の最終判断のみで足り、逐次記録は不要」といった具体的な運用ガイドを盛り込む。
  5. 幼児教育・不登校・特異な才能WGを「先行検討」へ位置づけ直す 教科等WGが枠組みを固めた後に「適用の可否を検討する」という後追い構造を改め、幼児教育・不登校・特異な才能の観点を、通常の資質・能力フレームが成立しない場合のテストケースとして、構造化議論の冒頭から参照する形に制度設計を修正する。これにより「どのような子どもにも通用する枠組みか」というストレステストを改訂全体に組み込む。
  6. 改訂全体の「累積負担アセスメント」の制度的導入 今次改訂に含まれるすべての制度変更(構造化・表形式化・デジタル学習指導要領・学習評価再設計・単位制柔軟化・調整授業時数制度等)について、学校現場に生じる業務負荷を分析する横断的な「現場負担影響評価」を中教審の作業部会として設置し、答申前に一次評価結果を公表することを義務づける。個別WGが「過度な負担にならないよう留意する」と記述するだけでは、改革の累積的重みを制御できない。

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