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要約
本資料は、令和8年6月23日開催の中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会・特別活動ワーキンググループ(第7回)の配付資料一式であり、次期学習指導要領に向けた特別活動の改訂取りまとめ(案)が中心的な内容をなす。資料は大きく四点から構成される。
第一に、資料1「子供の主体的な地域社会等への参画の在り方について」は、こども基本法(令和5年施行)の基本理念を受け、学校運営協議会・学校評価・教育振興基本計画の策定プロセスへの児童生徒の参画をめぐる現状と方向性を整理したもので、19の実践事例を収録している。教育振興基本計画策定に際して子供の意見聴取を行っている市区町村は全国平均で約2割にとどまるとの調査データも示されている。
第二に、資料2「特別活動WG取りまとめ(案)」は今回の審議の核心をなし、57ページにわたる包括的な改訂方針である。改訂の基本的考え方として、特別活動を「確かな民主主義の担い手を育み、共生社会を実現する基盤」と位置付け直すことを第一の柱とする。現行指導要領の三つの視点「人間関係形成・社会参画・自己実現」を「人間関係形成(基盤)・社会創造・自己実現」に再整理し、「社会参画」から「社会創造」への質的転換を図る。目標の改訂案では、小中高を通じて「多様な個性や特性、背景を有する他者との対立や葛藤を乗り越え、対話や協働を通じて納得解を形成しようとする」力を「学びに向かう力・人間性等」の中核に位置付ける。
内容の改善としては、学級活動(1)の項目を「ア:学級内の課題、イ:組織・役割、ウ:学校(学年・異学年等)の課題」に整理して境界を明確化する。学校行事については、子供が「主体的に創造する活動」であることを明記し、現行「文化的行事」の名称を「文化・学習発表的行事(仮称)」へと改め、「好きや得意」の発表機会を明確化する。クラブ活動は「好き(興味・関心)の追求による個性の伸長」を意義の中心に据え直し、時数の全国的な減少傾向を踏まえて地域の社会教育活動との接続を推進する方向を打ち出す。キャリア・パスポートは手段の目的化・形骸化を受けて国が示す例示資料を廃止し、「見通し・振り返り」に資する多様な取組への転換と、学校間の引継ぎを求めない個人管理への移行を提案する。
学習・指導・評価の改善については、「合意形成」(多様な意見・価値観を認め合い納得解を創造すること)と「意思決定」(自己の価値観に照らし責任をもって行動を選択すること)の概念を操作的に整理し、それぞれの典型的なプロセスを解説等で示す方針を示す。評価については観点別の目標準拠評価を廃し、形成的評価と個人内評価を重視する方向へ転換する。デジタル学習基盤・AIの活用については、「合意・意思決定の主体はあくまでも子供」「なすことによって学ぶという方法原理を維持」という留意点とともに活用事例を解説等で示す方針が示される。
第三・第四に、資料3(参考資料)と資料4(事例集)は、補足イメージを含む詳細な補足資料・実践事例集である。
現場視点の一般的な懸念
「社会創造」の理念と現場の時間・人的資源の乖離
取りまとめ(案)全体を貫く「確かな民主主義の担い手」「社会創造」という理念は、特別活動の本来的な意義を正面から据え直す試みとして意欲的である。しかし問題は、この理念が要求するものの厚さと、現場が使える時間・マンパワーの間にある根本的な乖離である。合意形成の四段階プロセス(課題設定→発散→収束→実践・振り返り)を丁寧に展開するためには相当の授業時数が必要であるが、現行でも学級活動は週1コマが標準であり、その枠は変わらない。資料19の改善イメージが示す生徒会活動の具体例では、年間6コマ計画が途中で不足して追加1コマを確保するという場面が描かれているが、このような柔軟な時間確保が実際にどの程度可能かは学校の実態に依存する。
「担任一人」構造の温存と学級経営負担の加重
取りまとめ(案)は特別活動、とりわけ学級活動を「学級経営の要」「生徒指導の第1層の要」「特別支援教育の多様性・包摂性の要」という三重の「要」として位置付け直す。理論的な整合性は理解できるが、これらすべての「要」を担う主体は現実には小学校において担任一人である。小学校の教科担任制推進が言及されているが、担任の果たす機能の代替可能性は特別活動においては限定的である。「要」の明確化が実質的には要への要求の積み上げを意味するリスクがある。改訂の前提として記された「学校現場に新たな負荷を課すためのものではない」という宣言と、多方向への期待の拡大との間の整合性について、現場教師が疑問を持つことは自然である。
「好事例」普及モデルの構造的限界
資料1に収録された19事例、資料4の事例集など、本資料群は豊富な好事例を提示している。しかしこれらの多くは、意識の高い管理職・担当教員・地域コーディネーターが重なった特殊な条件下で成立した実践である。資料が率直に記すように、コミュニティ・スクールとの連携、生徒会の自治的活動の活性化、地域との協働いずれも、その前提条件——地域人材の組織化、首長部局との連携基盤、生徒会活動の蓄積——が整っていない学校にとっては「発信」を受け取っても即座に実践へ転化しにくい。改善策の普及経路として「好事例の発信」が繰り返し登場することは、こうした条件の差異への認識を充分に反映していない。
評価の個人内評価化が生む新たな負担リスク
今次改訂では評価を「過度な評価材料集めを抑制」しつつ「個人内評価」と「形成的評価」を重視する方向へ転換する。趣旨は理解できるが、実際には観点別評価の廃止に代わる「形成的見取り」が何を意味するのかが教師ごとに曖昧なまま運用された場合、かえって「一人一人のよさを見取るための記録」という名の新たな負担が生じる可能性がある。指導要録への記載や通知表との関係についての具体的な整理が、取りまとめ(案)の段階では依然として参考イメージにとどまっており、実施に向けた詳細設計が不可欠である。
「子供の参画」の地域格差是正手段の欠如
資料1が明示するように、教育振興基本計画策定への子供の意見聴取を実施している市区町村は全国平均約2割、都道府県間格差も顕著である。資料は「多様な取組事例を発信していく」という対応策を示すが、この格差が財政力・首長の姿勢・地域コミュニティの活性度といった構造的要因によって生まれているとすれば、好事例の発信のみでは是正されない。格差を縮減するための財政的・制度的手当てへの言及が資料には見られない。
現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案
時数の可視化と調整の仕組みの制度化
合意形成・意思決定のプロセスを丁寧に展開するために必要な授業時数の目安を、WGが示す「典型的プロセス」に対応した形で例示することが求められる。また、生徒の問題意識に基づく発議が年度途中に生じた場合の「追加時数確保」の方法として、裁量的な時間の活用ルールと特別活動との関係を早期に整理し、解説のみでなく総則レベルで明記することが必要である。
「要」の多重化に対応した支援体制の具体化
特別活動を三重の「要」として位置付けるならば、その機能を担う教師を支援するための人的体制——養護教諭・スクールカウンセラー・特別支援教育コーディネーター・学校運営協議会コーディネーターとの役割分担と連携プロトコル——を解説レベルを超えて制度的に示す必要がある。「研修の充実」だけでなく、担任を「要」として孤立させない組織的支援の枠組みが不可欠である。
形成的評価の具体的プロトコルの提示
個人内評価への転換を実効的なものにするためには、「見取り」の具体的な手順と記録の最小基準を示す必要がある。「過度な評価材料集めを求めない」というメッセージと「学びに向かう力を一体的に見取る」という要求が現場で矛盾なく受け取られるよう、学期ごとの記録の目安、指導要録記載との連動方法、デジタルツールを活用したポートフォリオ的な見取りの実例を、特別活動固有の評価参考資料として早期に整備することを提案する。
キャリア・パスポート移行における転校時・校種接続のセーフティネット
個人管理への移行を進める場合でも、転校・校種接続時に学習の連続性が損なわれないための最低限の共通フォーマット——蓄積物の内容ではなく「自己の学びを見通し・振り返ることができる」という機能を保証する最小単位——を国が示すことが適切である。完全なクラウド個人管理の前提となるデジタル環境の地域格差を踏まえた移行期対応も明示すべきである。
地域参画格差の是正に向けた財政・制度的手当ての検討
子供の意見聴取実施率の都道府県間格差を示すデータが資料に含まれている以上、この格差の要因分析と是正策の検討を好事例発信にとどめず、自治体への財政的インセンティブ(地方交付税算定への反映等)や、学校運営協議会設置と子供参画の組み合わせを義務付けに近い形で促す制度設計の検討を、関係省庁(こども家庭庁・総務省等)と連携して具体化することを提案する。
「社会創造」から「同調圧力温存」への逆流防止のための評価観点の整備
取りまとめ(案)が強調する「安易な多数決・予定調和からの脱却」「少数意見の包摂」は理念として正しい。しかし指導者の意図や技量によっては、合意形成の「型」の習得が目的化し、結果として「正しい合意形成を演じる」という新たな同調圧力を生みかねない。形成的評価の観点として「合意プロセスへの表面的な適応ではなく、少数意見を実際に吟味した痕跡」「納得解に至らなかった経験を振り返りに生かした履歴」を具体的に評価の視点として解説に明記することで、逆転現象を予防することが重要である。
教育課程部会 特別活動ワーキンググループ(第7回) 配付資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/115/siryo/mext_00022.html
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