
要約
議題1:体育・保健体育等の指導の充実等について(委員発表)
柏原(聖)委員(狛江市教育委員会) 「社会に開かれた教育課程」の観点から、狛江市の実践を報告。保健学習では科学的根拠に基づく意思決定・行動選択能力の育成を重視し、多職種連携(養護教諭・学校医・栄養士等)を強化。令和8年度からはメンタルヘルス専門の学校医を新たに委嘱する取組を開始。また、デフリンピック観戦やアスリート派遣事業を通じ、共生社会の実現に向けた身体的コミュニケーションの機会を提供。プロスポーツ団体・メディアとの協働により、学校体育と地域スポーツ・トップスポーツをつなぐ構成を構築している。締めくくりとして、次期改訂に向けて、表面的に「進める」改革より本質的に「深める」改革へと軸足を移す時期にあるとし、自治体が即応できる柔軟な制度設計と環境整備、そして学習指導要領解説における解釈の誤解防止への配慮を要望した。
斎藤委員(神奈川県立総合教育センター) 体育館・武道場への空調設置状況について、昨年5月時点で全国公立学校のうち小学校22%、中学校23.7%にとどまっており、整備は進んでいるものの十分とは言い難い状況を報告した。水泳指導については、プールの老朽化や維持管理コストの増加が課題として顕在化しており、近隣校プールの共同利用・公営プール・民営プールへの移行が各地で進んでいる。またコロナ禍により現行学習指導要領の水泳指導が十分実施できなかった数年間の遅れを指摘しつつ、「楽らく水泳」など安定した呼吸の獲得を楽しく学ぶ実践事例を紹介した。
渡辺委員(日本医師会) 保健管理(学校健康診断)と保健教育が現在は独立して運営されており連携が少ないため、両者を連動させた効果的な保健教育の実現を提唱。健康は人生を送る上での最も基本的な部分であり、生涯にわたって必要な知識・能力として位置付けるべきと述べた。また、保健体育の授業時間は限られており、特に授業時間管理を現場に委ねる方向性の中では保健体育が厳しい状況に置かれる可能性があるため、その重要性の主張が必要だと述べた。メンタルヘルスについては、「不安を感じたら相談しましょう」という教科書的な指導は実効性が低く、自分自身の状態を客観的に分析できる力や、助けを求める力の育成と相談しやすい文化の醸成が必要だと指摘した。
渡邉委員(研究者) ヘルスリテラシーを「健康情報にアクセスし、理解し、活用する力」と整理し、米国のナショナルヘルスエデュケーションスタンダーズ(2022年第3版)でも正式に基準として位置付けられたことを紹介。実践研究として中学生への批判的ヘルスリテラシー育成授業の効果を縦断データで示し、継続的な授業により批判的思考尺度が対照群と比較して有意に向上することを報告した。またヘルスニューメラシー(数値・グラフを正しく読む力)を取り上げ、ワクチン有効性の数値やフレーミング効果など、算数・数学では扱わない健康独自の数値リテラシーの重要性を指摘した。
議題2:体育・保健体育における指導に関する環境整備等について
事務局説明の主要論点
暑熱対策・活動場所の確保 暑さへの対応について、暑熱順化の考え方を取り入れた年間指導計画の工夫や、体育館等の計画的な空調整備が必要とされる一方、自治体によって整備スピードに差があることが指摘された。
水泳授業の在り方 学校における水泳指導の意義として、①水に親しむ楽しさ、②水中という特殊環境での動きの習得、③水難事故から身を守る力の育成の3点が整理された。一方、プールの老朽化・気象条件・教職員の管理負担(水質管理・プール注水のヒューマンエラー等)が課題として提示され、指定管理者制度や民間委託の推進、インストラクターとの連携を一層進める方向性が示された。
高等学校専門学科「体育」の改善 専門学科体育の教科名を「体育」から「スポーツ」へ改称することが提案された。これにより地域・社会との接点を意識したスポーツの多面的理解が促進され、保健体育科の科目「体育」との混同も解消されることが期待されるとされた。また、スポーツ基本法改正の趣旨を踏まえ、「する・みる・支える・知る」にとどまらず、スポーツを通じた社会課題解決という観点を取り込んだ内容改訂の方向性が示された。
現場視点の一般的な懸念
1. 環境整備の自治体間格差が「実現可能性」を空洞化させる 空調設置率が小学校22%・中学校23.7%という数字は、学習指導要領が全国一律に機能することへの根本的な疑問を突き付ける。「フィジビリティの確保」を改訂の柱に掲げながら、実施環境の整備を財政力の異なる自治体の判断に委ねる構造は矛盾している。好事例を示すだけでは格差は縮まらず、「できている学校」の実践が標準として機能してしまうリスクがある。
2. 水泳授業の「外部委託シフト」が学習評価の空洞化を招く 民間スイミングクラブへの移行は現実的な対応策である一方、移動コスト・時間割調整・事前安全確認等の負担が指摘されている。さらに委員から明示されたとおり、技術指導のインストラクター任せが「思考・判断・表現」や「学びに向かう力」の評価を教師から切り離してしまう危険がある。外部委託は「泳げる」を確保するが、「なぜ泳ぐか」「どう安全を判断するか」の学びが消える可能性がある。
3. 保健の授業時間が「管理現場」に吸収される懸念 授業時間管理の学校裁量化が進む方向の中で、保健体育、とりわけ保健はその重要性の認識が低い教員や管理職のいる学校では削減対象になりやすい。渡辺委員が指摘したとおり、メンタルヘルスや生命(いのち)の安全教育など現代的健康課題への対応が求められながら、授業時間は担保されないという二重拘束が現場に生じる。
4. 外部人材活用の「野放し化」リスク 宇山委員が述べたとおり、外部講師への依頼内容の大部分が個人に委ねられており、質のばらつきが生じている。体育・保健体育の文脈や発達段階を理解しないまま「夢・モチベーション」型の出張授業が増えれば、教育的効果より興行的効果が優先される恐れがある。ガイドラインの整備は急務であるが、現場に策定の余裕はなく、国が主導して示さなければ絵に描いた餅になる。
5. 小学校体育専科・教科担任制の議論が「加配頼み」に終わる構造 柏原(奈)委員が指摘した専科指導の充実は重要だが、その実現は加配教員の配置に依存しており、教員不足が深刻化する現状では持続可能とは言えない。教員養成段階で体育の専門性が担保されない構造(体育不要で小学校免許取得可能・採用試験の水泳実技廃止)が放置されたまま、現場に「専門的な指導」を求める政策的矛盾は解消されていない。
教育課程部会 体育・保健体育、健康、安全ワーキンググループ(第8回) 議事録:文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/112/gijiroku/mext_00008.html

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