地域コミュニティの基盤を支える今後の社会教育の在り方について(審議経過報告案)にみる、社会教育人材拡充路線の期待と現場実装ギャップ

中央教育審議会生涯学習分科会社会教育の在り方に関する特別部会(第19回)の開催について(第137回生涯学習分科会合同開催)_配布資料_1

要約

本審議経過報告案は、少子高齢化・人口流出・単身世帯増加等による地域コミュニティの「つながりの希薄化」を根本課題と位置づけ、その解決手段として社会教育を再定義するものである。報告は、地域住民の認識・態度・行動の変容を促す「人づくり・つながりづくり・地域づくり」という社会教育固有の教育的機能に焦点を当て、これを担う「社会教育人材」(社会教育主事・社会教育士)の質的・量的拡充を最大の柱として据えている。

具体策としては、①現行「称号」にとどまる社会教育士の位置づけを見直し、社会教育主事・公民館主事を社会教育士取得者から任用する構想、②社会教育主事・社会教育士共通の新講習・養成課程への再編(総単位数は講習8単位を維持しつつ養成課程は22単位程度に精選、社会教育実習を1→2単位に増加、社会教育特講を8→4単位程度に縮減)、③受講しやすさ向上のための導入的講習の普及、④都道府県主導の社会教育人材ネットワーク構築、⑤公民館・図書館・青少年教育施設・博物館・社会体育施設それぞれの機能強化と社会教育士配置の推進、⑥学校(コミュニティ・スクール、地域学校協働活動)、高等教育機関、RMO(地域運営組織)、NPO・民間企業、社会福祉法人、首長部局との連携拡大、が挙げられている。あわせて、社会教育主事の配置率低迷という長年の課題を「理解増進」により改善する方針、地方公共団体には財政制約下でも配置・体制整備を求める方針が示されている。

現場視点の一般的な懸念

第一に、社会教育主事の配置率低迷という構造的問題が数十年来指摘されながら、本報告における処方箋は「法律の趣旨の周知」「好事例の収集・周知」「理解増進」といった啓発的手法にとどまり、配置を裏付ける財政措置(地方交付税措置の拡充や国庫補助等)には踏み込んでいない。財政力の弱い自治体ほど社会教育主事を置けない現実がある中で、周知・理解の不足が問題の中心であるかのような記述は、真因を過小評価している。

第二に、社会教育士については「量的拡充」が繰り返し強調される一方、称号取得者を実際に処遇・任用面で評価する仕組みは「望まれる」「期待される」という自治体・任命権者の任意的努力に委ねられており、制度的な裏付けを欠く。称号取得のインセンティブが乏しいまま数値目標的に拡充を図れば、取得者数という指標自体が自己目的化し、実際の活動の質や地域への実装とは乖離するリスクがある。

第三に、公民館・図書館・青少年教育施設・博物館・社会体育施設のいずれに対しても「社会教育士の配置促進」「多世代拠点化」「アウトリーチ活動の展開」といった新たな役割期待が積み増しされているが、人員・予算の増加を伴わない期待の上乗せであり、現場の職員が既存業務に加えてこれらを担うことが前提とされているように読める。特に指定管理者制度下の施設では、契約内容への社会教育士要件の盛り込みが「望まれる」段階にとどまり、委託費の積算増を伴わない限り実効性は乏しい。

第四に、学校との連携強化(コミュニティ・スクールと地域学校協働活動の一体的推進、部活動の地域展開)についても、地域学校協働活動推進員の高齢化・固定化という別の担い手不足が指摘されながら、解決策は「教育委員会による伴走支援」「国及び自治体による必要な支援」という抽象的表現にとどまり、教員の働き方改革との整合や、推進員自身の処遇・確保策には具体性が乏しい。

第五に、NPO法人・民間企業との連携拡大の文脈で、NPOへの委託費・人件費の適正な積算の必要性に言及しているのは評価できるが、「個々の地域ごとの実情に応じた適切な形で実施」という表現に落とし込まれており、実際に予算措置が伴うかは自治体の裁量任せである。地域間の財政力格差を踏まえれば、これもまた地域間格差を追認・拡大しかねない。

第六に、養成課程・講習の見直しにおいて、社会教育士と社会教育主事を「共通の課程」で養成する方向性は合理的である一方、社会教育特講の単位数削減(8→4単位程度)は、多様な現代的課題への対応力を養う機会の縮小につながりうる。社会教育総合実践演習(仮称)の新設で補うとされるが、演習で「振り返り」を行うことと、特講で幅広い専門領域に触れることとは代替関係にあるとは必ずしも言えない。

現場視点の一般的な懸念を踏まえた改善提案

第一の懸念に対しては、社会教育主事の配置を実質的に進めるため、地方交付税の基準財政需要額における算定の見直しや、配置率の低い自治体を対象とした期限付きの人件費補助制度など、財政的インセンティブを伴う具体策を検討すべきである。「理解増進」に加えて、配置しない場合のコスト(他部局施策の実効性低下等)を可視化するエビデンスの提示も有効であろう。

第二の懸念に対しては、社会教育士の処遇・任用上の評価を自治体の任意に委ねるのではなく、国が公民館主事等の任用要件のモデル基準を明確化し、社会教育士を有することによる処遇上のインセンティブ(手当、昇任要件への算入等)の標準的な枠組みを提示することが望ましい。取得者数を目標指標とする場合には、あわせて活動実績や地域への還元度を測る質的指標を併用し、数の拡大が目的化しないようにする必要がある。

第三の懸念に対しては、各社会教育施設に新たな役割を求める際には、対応する人員配置基準や予算措置とセットで提示すべきである。特に指定管理者制度下の施設については、公募要件に社会教育士配置を盛り込む場合、それに見合う委託費の増額を併せて制度設計することが不可欠である。

第四の懸念に対しては、地域学校協働活動推進員の確保・定着策として、謝金水準の引き上げや複数校兼務による安定的な収入確保、社会教育士取得者からの優先的登用など具体的な処遇改善策を検討すべきである。また教員の働き方改革との関係では、休日引率等の役割を推進員や社会教育士に段階的に移管する制度設計(法的責任の所在の明確化を含む)を早急に整理する必要がある。

第五の懸念に対しては、NPO等への委託費・協定費の積算基準について、国が標準的な算定モデル(人件費・運営費の目安)を示し、自治体間でのばらつきを是正することが望ましい。地域間格差是正のためには、財政力の弱い自治体に対する国からの財政支援メニューを別途用意することも検討に値する。

第六の懸念に対しては、社会教育特講の単位数削減にあたっては、削減される内容領域(現代的課題の類型)を明示した上で、社会教育総合実践演習や社会教育実習の充実によってどの程度代替されうるのかを、養成課程を持つ大学へのヒアリング等を通じて検証し、単位数ありきではなく学修成果の担保を優先した設計とすべきである。

中央教育審議会生涯学習分科会社会教育の在り方に関する特別部会(第19回)の開催について(第137回生涯学習分科会合同開催) 配布資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo2/015/giji_list/mext_00024.html

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