
要約
調査の概要と目的
本調査は、文部科学省の委託により、ベネッセコーポレーションが実施した英語力経年分析である。小・中・高の生徒を対象に、GTECを活用して「聞くこと・読むこと・話すこと・書くこと」の4技能をCEFR/CEFR-Jで測定し、旧学習指導要領(旧CS = Curriculum Standards)から現行学習指導要領(現行CS)への移行に伴う英語力の変化を多面的に分析している。比較時点は主に令和1年度・令和3年度・令和6年度の3時点。
高校
4技能総合スコアの推移 高1の総合スコアは「横ばい」(715→709→700点)。高2・高3はやや上昇傾向(高2:842→863→889点、高3:823→831→860点)。いずれの学年も平均CEFRはA2水準で推移しており、抜本的な向上はみられない。
技能別の特徴的変化 「話すこと」は高1でR1→R3に大きく低下し、R3→R6は横ばい。「書くこと」はR1→R3に横ばい、R3→R6に低下が顕著(高1のA2以上の割合がR3の68.2%からR6に49.4%へ大きく減少)。「聞くこと」「読むこと」は比較的安定。発信技能(特に書くこと)の低下が目立つ。
3年間追跡比較 同一学校群でのR1入学生(旧CS)とR4入学生(現行CS)を比較すると、R4入学生は「聞くこと」「読むこと」「話すこと」で高1時点からのスコア伸びが大きい。一方、「書くこと」はR1入学生のほうが3学年を通じて一貫して高スコアを維持。現行CS移行後の書く力の低下が継続的な課題として浮かぶ。
英語学習調査(アンケート) 高2の約71%が平日の自主学習時間30分以下。全学年を通じて「宿題はしているが復習はしていない」層が最多(高2で約63%)。R3→R6にかけて「宿題と復習は必ずする」割合は高2で大きく減少(31%→21%)。「予習はしていない」の割合はR1→R6にかけて全学年で増加。学習目標・目的意識についても、R3→R6にかけて「あてはまらない」層がやや増加している。
中学校
母集団の特性 私立中学が多数を占める(中1・2で約7割)点に留意が必要。首都圏・近畿の受検者が約6割。
技能別の動向 「話すこと」「書くこと」は現行CS下の生徒で総じて上昇傾向。中1・中2の発信技能(話す・書く)でCEFR-J上位層の割合が増加している。中3では「書くこと」に関してCEFR-J A2.2の割合がR6で減少し、A1.3の割合が増加するという二極化の兆候が見られる。
小学校(小学6年生)
4技能総合は現行CS下(小6)で上昇傾向。「話すこと」「書くこと」の上昇が目立ち、小学校段階での英語教育の成果が数値に反映されている。ただし測定対象は小6のみで、低学年への接続については評価の対象外。
現場視点の一般的な懸念
1. サンプルの代表性への疑問
本調査はGTECの学校実施データ(ベネッセ製品の受検校)を母集団としており、高校では「大学進学率9割以上の学校が8割」「首都圏・近畿が5割」という偏りがある。中学では私立が7〜8割という構成で、日本全体の公立校の実情を反映しているとは言いがたい。調査結果が政策立案の基礎資料として用いられる場合、この代表性の問題が看過されるリスクがある。
2. 「書く力の低下」と現行指導要領の評価
現行CS移行後、高校生の「書くこと」スコアの低下が複数の比較で確認されている。しかし調査報告は数値の変化を記述するにとどまり、指導内容・時数配分・評価方法のどこに原因があるかを特定していない。現場教員としては、「5領域・4技能の形式的対応に追われ、書く活動への指導時間が削減された」という構造的問題が背景にある可能性を見過ごすべきではない。
3. 学習時間・復習習慣の低下を「個人の問題」に帰属させるリスク
自主学習時間の短さや「予習はしていない」割合の増加は、生徒の意欲の問題として語られがちだが、教育課程全体の過密化や定期試験の形骸化、授業外学習の動機付け機能の喪失といった構造的要因と切り離して論じることはできない。アンケート結果を学習習慣指導の強化論拠に使うことへの慎重な姿勢が求められる。
4. CEFRによる「達成感のなさ」の固定化
高1〜高3を通じて平均CEFRがA2に留まり続けるデータは、生徒にとって「3年間英語を学んでも変わらない」というメッセージとして受け取られうる。CEFR-Jのレベル区分の微細な変化を「上昇」と報告する一方で、体感的な向上感と乖離しているとすれば、指標の設定自体が現場の英語教育の努力を可視化できていない可能性がある。
5. 発信技能評価の精度・条件の均一性
「話すこと」「書くこと」のスコアはCEFRレベル間の差が大きく、採点観点の設定やテスト条件(GTECの版・時期・受検環境)により結果が左右されやすい。特に話す力については、学校の授業実態(発話機会の量・質)との相関が検証されていないため、テストスコアの変化が授業改善の成果を反映しているかどうか、現場では判断が困難である。
6. 小学校英語の「見かけの成果」への過剰評価リスク
小6の「話すこと」「書くこと」の上昇を現行CSの成果として読む文脈が生まれやすいが、当該学年が小学校全期間を通じて現行CSで学んだ初めての世代であることを踏まえると、比較の条件が整っていない。また、小学校段階の発信技能の向上が中学・高校段階での読む・聞く力の育成と適切に連携しているかどうかは、本調査からは読み取れない。
「令和7年度 英語教育に関する調査研究(英語力に関する調査分析)」について:文部科学省 https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/mext_00010.html

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