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要約
本資料は、令和8年7月16日に開催された第3回検討会議の配布資料一式である。会議の主題は「紙・デジタルがそれぞれ効果的な学習場面」および「健康への影響」に関するヒアリングと、「教科書の形態に関する意向調査」の結果報告の三本柱から構成されている。
第一の柱として、群馬大学・柴田博仁委員が認知科学の知見から、紙とデジタルでは単なる表示形式の違いにとどまらず、読み・手書き・描画といった学習行動そのもののプロセスと思考モードを変容させることを、自らの実験データ(相互参照の読み、答えを探す読み、講義ノートの取り方、未発表の算数授業評価実験等)に基づき提示した。低学年児童を対象とした算数授業の比較実験では、正答率自体に差はなかったものの、発想の転換を要する解法へのたどり着き方に紙とタブレットで差が見られたとする点が示唆的である。柴田委員は「目を使うならデジタル、手を使うなら紙」といった使い分けの指針を提示しつつ、教材のインタラクティブ機能デザイン自体にも指針が必要であると論じている。
第二の柱として、東京家政大学・太田洋教授が令和5~7年度の実証研究事業の実践事例(英語科中心の5事例)を紹介し、学習者用デジタル教科書が「教師が引っ張る」授業から「児童生徒が主語」の授業へ転換する学習基盤になり得るとの整理を提示した。
第三の柱として、日本学校保健会・弓倉整委員が、健康配慮を「注意喚起」から「継続的確認」へ発展させる必要性を訴えた。文科省による令和元~7年度の実証研究の蓄積を評価しつつも、継続調査項目が姿勢・視距離に偏っており、眼精疲労、近視進行、睡眠、家庭での総スクリーンタイムといった要素の継続的モニタリングが手薄であると指摘している。
第四に、教科書の形態に関する意向調査(教育委員会・学校長対象、令和7年10~12月実施)の結果では、全学校種・全教科でハイブリッド形態を望む回答が最多(小学校88.3%、中学校86.3%、高校78.4%)であり、低学年・中学年ほど紙中心を望む傾向、高学年・中学校の英語や実技系教科ほどデジタル比率の高いハイブリッドを望む傾向が明確に示された。
このほか参考資料として、教科書制度の基本構造、二次元コードの急増(4年間で3.5倍)とその検定対象化をめぐる論点、GIGAスクール構想第2期の端末更新・ネットワーク整備・次世代校務DX環境の進捗状況(次世代校務DX環境の導入率はいまだ6.1%)等、幅広い基礎データが収録されている。
現場視点の一般的な懸念
第一に、意向調査結果と学術的知見との間の解釈のねじれが懸念される。意向調査では採択権者の多数がハイブリッド形態を支持しているが、これは「紙かデジタルか」という二者択一を回避したいという穏当な選好の表れである可能性が高く、柴田委員の提示する「教材のインタラクティブ機能デザインそのものに指針が必要」という、より踏み込んだ論点への現場の理解や備えが伴っているとは限らない。制度設計が意向調査の量的多数派に引きずられ、認知科学的な使い分けの精緻な議論が形骸化する恐れがある。
第二に、健康配慮の「継続的モニタリング」への移行が、実質的には学校現場・養護教諭・学級担任への新たな業務負担として着地しかねない点である。弓倉委員の提言は医学的見地からは正当だが、「総スクリーンタイムの把握」「家庭との連携」「症状の継続的把握」を誰が、どの時間を使って行うのかという実装論が資料上明確でない。ガイドラインが「配慮すべき項目」を増やすほど、現場は「実行できているかどうかの証明」に追われることになりかねない。
第三に、教科書と教材の境界の曖昧化・複雑化が採択現場の負担として直撃する構造が見える。参考資料4に示された「二次元コードの参照先を検定対象に含めるか」という論点、および「デジタルコンテンツが急増し、教科書採択の負担となっている実態」という委員意見は、まさに教科書課自身が問題として認識している。二次元コード数が4年で3.5倍に増加した実態を踏まえれば、ハイブリッド教科書がデジタル化した場合、採択権者(特に人員に限りのある市町村教育委員会)が全コンテンツを精査することは事実上不可能に近づく。
第四に、意向調査結果を学校種・学年別に精緻に見ると、低学年・中学年での紙志向、英語・実技系でのデジタル志向という明確な傾向が出ている一方、これは「現時点での教員・管理職の経験や慣れ」に基づく回答である可能性が高く、今後の教員研修や機器整備の進展次第で変化しうる流動的な指標である。にもかかわらず、これを制度設計(教科・学年ごとの形態指定等)の固定的根拠として用いることには、調査時点のスナップショットを永続化するリスクが伴う。
第五に、実証研究データの解釈における「相反する結果の並置」が、現場に対しては指針というより判断の押し付けとして機能しかねない。資料には「デジタル優位」「紙優位」「差なし」の研究が並列で紹介されており(記憶・理解度・思考力等の観点ごとに結果が割れる)、これ自体は誠実な整理であるが、多忙な教育委員会・学校が実際の教科書選定や授業設計の場面でこれらを咀嚼し独自の判断に落とし込む時間的・専門的余裕があるとは考えにくい。
第六に、GIGAスクール構想の基盤整備(ネットワーク速度確保63.9%、次世代校務DX環境導入率6.1%)が、デジタルな形態を含む教科書の令和12年度導入という期日に対して明らかに周回遅れであるにもかかわらず、本会議の議論の中心は「学習場面での紙・デジタルの使い分け」に置かれ、インフラ整備の遅れという物理的制約条件が指針検討の前提としてどこまで重み付けされているかが資料からは見えにくい。
改善提案
第一に、意向調査の結果を制度設計に反映する際には、「望ましいと考える形態」という選好調査であることを明記した上で、認知科学的エビデンス(柴田委員提示のデータ等)との対応関係を整理した参照表を作成し、両者が一致する領域と乖離する領域を可視化すべきである。乖離がある場合には、選好調査の数値をそのまま基準化するのではなく、乖離の理由(教員の習熟度不足か、真に学習効果上の理由か)を検討会議として明示的に議論する手続きを設けることが望ましい。
第二に、健康配慮の継続的モニタリングを制度化する場合、それを担う主体・時間・データ収集手段を、ガイドラインの一項目としてではなく、具体的な業務フロー(誰が、どの頻度で、どのツールを用いて把握し、誰に報告するか)として明示すべきである。既存の大規模アンケート調査(令和3~7年度実証研究事業)の枠組みを恒常的な健康モニタリング基盤に転用し、現場教員による新規の記録業務を極力発生させない設計とすることが現実的である。
第三に、二次元コード先のコンテンツを検定対象に含めるか否かの判断に当たっては、採択権者の実務負担を定量的に試算した上で決定すべきである。仮に検定対象に含める場合には、国が一定の様式・チェックリストを整備し、都道府県教育委員会が行う調査研究の範囲を明確に限定することで、市町村教育委員会が「全件精査」という非現実的な作業に追い込まれないようにする必要がある。
第四に、意向調査は今回限りの単発調査とせず、教員研修の進捗や機器整備状況の変化と合わせて定点観測化し、経年変化を追跡できる設計に改めるべきである。特に、デジタル教科書研修を受けた教師の使用頻度が高いという本資料内のデータ(受講経験と使用頻度の相関)を踏まえれば、研修機会の拡充と並行して意向調査を再実施し、「経験不足による紙志向」と「教育的観点からの紙志向」を区別できるようにすることが有益である。
第五に、実証研究の紹介に当たっては、単に肯定的・否定的な結果を並置するだけでなく、各研究の対象年齢層・被験者数・実施条件(大学生か児童生徒か、実証期間の長短等)を踏まえた「適用範囲の注記」を体系的に付し、現場が自校の実情に照らして参照しやすい形に整理し直すことが望ましい。特に本資料自身が指摘するとおり、先行研究の多くが大学生を対象としており、児童生徒への外挿には慎重さが必要である旨を、指針本文でも明記すべきである。
第六に、指針の実効性は基盤整備の進捗と不可分であることを踏まえ、次世代校務DX環境の導入率やネットワーク速度確保率などのインフラKPIの達成状況を、デジタルな形態を含む教科書の導入スケジュール(令和12年度)と明示的に紐づけたロードマップとして提示すべきである。基盤整備が計画目標に届かない地域については、教科書の形態選択(ハイブリッド比率等)に猶予や特例を認める仕組みをあらかじめ制度設計に組み込み、地域間格差がそのまま教育機会の格差として固定化することを防ぐ必要がある。
デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(第3回) 配布資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/206/mext_02383.html
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