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要約
令和8年8月3日に開催された第8回「学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会」では、これまでの議論を集約した「中間まとめ(案)」が示された。令和7年の小中高生の年間自殺者数が538人と過去最多を記録したことを踏まえ改正自殺対策基本法への対応が盛り込まれた一方、6月30日までに健康診断を終えられなかった項目として「心臓の疾病及び異常の有無」が37.4%にのぼるなど、制度と現場実態の乖離を示す数字も並ぶ。本稿では、この中間まとめが提示する見直し方針を現場視点から検討し、6つの懸念を提示する。
中間まとめ(案)の骨格は大きく5つに整理できる。第一に、健康診断の意義を「疾病スクリーニング」と「健康教育への活用」の二本柱として再確認しつつ、児童虐待の早期発見や自己の健康を考える契機としての役割も新たに明記した。第二に、実施項目・実施方法について、学校医等の確保が困難な地域の実情を踏まえ、視力・聴力・耳鼻咽頭疾患・眼疾患等で対象学年を限定する「隔年実施」や「対象を絞った実施」への切り替えを打ち出した。同時に、成長曲線の作成・評価の法令上の位置づけ検討、尿検査への潜血追加、脊柱検査における検査機器(薬機法に基づく届出・認証済み機器)の活用推進など、精度向上の方向性も併記されている。第三に、「心の健康の保持のための健康診断等」を新設概念として位置づけ、1人1台端末を活用した「心の健康観察」の推進と、保健調査票への心の健康記入欄の追加を求めた。第四に、健康診断の実施時期について、6月30日という期限に医学的根拠がないことを認めつつ、予診的事項(身体計測・視力聴力検査等)は引き続き6月30日までとし、学校医等による診断は地域の実情に応じて夏季休業開始までを目安に柔軟化する方針を示した。第五に、児童生徒のプライバシー・心情への配慮について、脊柱・胸郭・心臓・皮膚の検査で体操服やタオルをめくって視触診する場合があることの説明が一部の学校で不十分だったとする調査結果(「いずれも説明を行わなかった」16.6%)を踏まえ、周知徹底を図るとした。
参考資料として添付された千葉県印西市の脊柱側弯症検診・小児生活習慣病予防検診の事例は、3Dスコリオ撮影や血液検査を組み合わせた独自の重層的スクリーニング体制を紹介しており、有所見率が中学1年生で22.6%、心電図検査で6.4%に達するなど、学校単位での健康課題把握の実効性を示す一方、採血に伴う体調不良への対応や、法定項目ではない検査への同意取得の難しさといった実務上の負荷も同時ににじませている。
この中間まとめは、健康診断の意義の充実と、学校医等の確保困難・教職員の働き方改革という相反する要請の両立を「今後検討すべき事項」として先送りしている点に、更なる検討の余地を残している。以下、現場視点から6つの懸念を提示する。
現場視点の一般的な懸念
懸念①:役割拡充と負担軽減の同時要求という構造的矛盾 中間まとめは、健康診断に児童虐待の早期発見、心の健康観察、生涯にわたる予防医療への活用など次々と新たな役割を付加する一方で、「学校医等の確保が困難」「養護教諭を含む働き方改革の推進が求められている」という制約も繰り返し明記している。しかし、役割拡充分の業務量をどのように吸収するのか、具体的な人員配置や財源の裏付けは「今後検討すべき事項」として先送りされており、現場が両立の負担を一手に引き受ける構造になりかねない。
懸念②:学校医確保困難への対応が地域・学校の裁量任せになっている 検査機器の導入や対象学年の限定について、中間まとめは「全国一律の導入は困難」「地域の実情を踏まえて検討する必要がある」との表現を繰り返す。医療資源の偏在という構造的問題への対応が、結果として個々の学校・教育委員会の工夫や医師会との交渉力に委ねられる形になっており、対応力の差がそのまま児童生徒の受診機会の差につながりかねない。
懸念③:地域間格差の是正策が「先進事例の共有」にとどまっている 印西市の脊柱側弯症検診(3Dスコリオ撮影)や学校心臓検診のデジタル化は、参考資料として高く評価される形で紹介されているが、こうした体制整備には検査機関への委託費や検査機器の導入コストが伴う。中間まとめには、これらの取組を財政的に下支えする仕組みへの言及がなく、実施できる自治体とできない自治体の格差が固定化するおそれがある。
懸念④:デジタルツールの効果検証が追いついていない 「心の健康観察」アプリについて、中間まとめ自身が「その内容や効果についてばらつきが指摘されている」と認めている。また脊柱検査機器についても「精度管理はまだ一定しておらず、その導入のみをもって検査の質が担保されるものではない」という意見が両論併記されている。効果や精度が確立していない段階でデジタル化・機器導入を「推進」する方針が先行すると、現場は検証されていないツールの運用リスクを負うことになる。
懸念⑤:不登校児童生徒への対応が「引き続き検討」にとどまっている 小・中学校の不登校児童生徒数が12年連続で増加し、令和6年度には353,970人と過去最多になっているにもかかわらず、健康診断を受けられなかった児童生徒への対応は「事前に周知した」学校が57.4%にとどまり、教育委員会レベルでも「医師会等と協力し受診できる体制を整え周知している」のはわずか10.7%である。この構造的な課題への具体策は本中間まとめでは示されず、次の検討課題に持ち越されている。
改善提案
提案①:役割拡充に伴う業務量の定量的試算と、それに見合う人員・予算措置をセットで提示する 新たな役割(心の健康観察、虐待早期発見、PHR対応等)を追加する際は、その業務量がどの職種にどの程度上乗せされるのかを事前に試算し、養護教諭の複数配置や外部人材(スクールカウンセラー、地域看護職)の活用予算とあわせて提示する仕組みを導入すべきである。
提案②:学校医確保困難地域向けの広域連携モデルを国が具体的に提示し、財政支援を伴わせる 「都道府県単位で医師会等が連携して医師を派遣する」「複数校の児童生徒を1か所に集めて健診を行う」といった案は中間まとめ内でも複数回言及されているが、これをモデル事業として制度化し、実施に必要な財源を国が補助する枠組みを明確にすべきである。
提案③:印西市のような先進事例の横展開に、導入コストの補助制度をあわせて示す 検査機器導入や検診のデジタル化を「推進する」と述べるだけでなく、導入・運用コストの一部補助や、検査機関委託費の標準単価の目安を国が示すことで、財政力の異なる自治体間でも同水準の検診体制を構築できるようにすべきである。
提案④:デジタルツール導入前に効果検証の基準を設け、検証済みツールのみを推奨する仕組みを作る 文部科学省の「健康診断・健康観察に係る調査研究事業」において、心の健康観察アプリや脊柱検査機器の効果・精度に関する統一的な評価基準を先に策定し、その基準を満たしたツールのみを学校現場に推奨するプロセスを明確化すべきである。
提案⑤:不登校児童生徒への健診機会確保を教育委員会の必須業務として明確に位置づける 学校任せの「個別対応依頼」にとどめず、教育委員会が地域の医療機関と連携した受診体制(訪問健診、指定医療機関での受診補助等)を整備することを標準的な業務として制度上明確化し、対応状況を毎年度公表するなど、実効性を担保する仕組みを導入すべきである。
学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会(第8回)配布資料
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/199/siryo/mext_00008.html


