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要約
令和8年5月20日に開催された「学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会」第6回では、第2回から第5回にわたる関係学会等へのヒアリングを踏まえ、事務局が健康診断の意義から実施項目、実施時期、プライバシー配慮、未受診者対応、実施体制、学校医の確保・役割、学校健診PHRに至るまで七つの論点を一括提示し、委員による議論が行われた。とりわけ、成長曲線の作成率が69.6%である一方で評価を行っていない学校が22.2%に上ること、学校医の「1人配置」が39.2%に達すること、6月30日の期限までに必須項目を終えられなかった学校が7.4%存在すること等、複数の統計が明らかになったことで、制度の理念と現場の実施可能性との乖離が改めて浮き彫りとなった。
議論の底流にあったのは、「学校健康診断は誰の責務で、何のために、どこまでの精度を担保すべきなのか」という根本的な問い直しである。渡辺委員は、現行の健診の意義規定自体が曖昧なまま、脱衣の要否といった現場対応の判断だけが学校医に委ねられている状況を「非常におかしな話」と指摘し、多職種連携や個別健診併用といった提案についても、責任の所在が分散すれば誰も最終的な責任を取れなくなる懸念を繰り返し表明した。一方で、負担軽減や機器導入、多職種の参画といった改善の方向性は多くの委員から支持されたものの、その財源—とりわけ交付金である学校医報酬の改善余地の乏しさ—については踏み込んだ議論には至らなかった。
学校健診PHR・PMHをめぐる議論では、明神委員や渡辺委員から、マイナンバーとの連結作業がどこかで必ず発生すること、クラウド型校務支援システムの普及率が1割に満たない現状でPMH活用を論じることの現実性への疑問が提起され、理念先行への警戒感がにじんだ。また、田中委員からは、通知や事務連絡の趣旨が学校・自治体によって解釈が分かれ、結果として「学校差」が生じている実態が指摘され、制度設計の不備が個々の校長・学校医の判断ミスであるかのように受け止められかねない構造への懸念も示された。
本稿では、こうした議事録の内容を踏まえ、現場実務の観点から想定される一般的な懸念と、その改善に向けた提案を整理する。
現場視点の一般的な懸念
- 健診の意義・責任主体が未整理のまま、現場の個別判断に負荷が集中している。 渡辺委員が指摘したように、健診の目的・意義そのものの定義が現行のまま前提とされており、プライバシー配慮と検査精度確保という相反する要請の間で、脱衣の可否等の実務判断が学校医個人に委ねられている。責任の所在が制度上明確化されないまま、現場対応だけが求められる構造は、学校医のなり手不足をさらに悪化させかねない。
- 多職種連携・体制強化の提案が、財源の裏付けを欠いたまま先行して語られている。 保健師・心理士・専門科医師等を交えた多職種連携は複数の委員から歓迎されたが、弓倉委員も渡辺委員も、学校医報酬が交付金であり実質的な改善が難しいこと、多職種化により誰が最終的な検査責任を負うのかが曖昧になることを指摘している。負担軽減の理念と、それを支える予算措置・責任分担の制度設計との間に距離がある。
- 成長曲線に代表されるように、「作成すること」自体が目的化し、評価・活用が伴っていない。 日本学校保健会調査では成長曲線の作成率が69.6%に対し、評価を行っていない学校が22.2%存在する。弓倉委員は、校務支援システムの普及によって曲線の作成自体は可能になった一方、それをどう評価すべきかという視点が現場に浸透していないことを問題視しており、指標の整備が実質的な健康管理の向上に直結していない可能性がある。
- 通知・事務連絡の解釈が学校・自治体ごとに分かれ、「学校差」という形で個々の現場の対応力の問題であるかのように現れている。 田中委員は、プライバシー配慮に関する通知の趣旨理解に地域差があり、その背景には教育委員会や校長の解釈の違いがあると述べた上で、通知発出時にFAQ・Q&Aを付すことを要望している。制度の周知不足という構造的な課題が、個別の学校・校長の対応の巧拙として現れてしまう危険がある。
- 学校健診PHR・PMHの推進が、基盤整備(マイナンバー連結、クラウド型校務支援システムの普及)に先行して議論されている。 明神委員はマイナンバーとの連結作業がシステム上どこかで必ず発生することを、渡辺委員はクラウド型校務支援システムの普及率が1割に満たない現状を、それぞれ指摘した。デジタル化推進の政策的モメンタムが、基盤未整備という現実的制約より先行して進む懸念がある。
- 不登校児童生徒等への健診機会確保が、学校のみに責任が帰属する形で進められている。 渡辺委員は、長期間通学できない児童生徒への対応を学校だけで担うことは困難であり、こども家庭庁等との連携を含めた広い枠組みで検討すべきだと述べている。不登校児童生徒数が増加基調にある中、学校完結型の対応では限界が生じることが懸念される。
改善提案
- 健診の意義・目的および実施主体の責任範囲を、検討会として明文化した上で、個別項目ごとの実施可否判断の基準を整理する。 渡辺委員の提案する「別途会議体」の設置も含め、意義の再定義を先送りにせず、脱衣要否などの現場対応の根拠となる基準を明確化することが、学校医の判断負担軽減につながる。
- 多職種連携や体制強化を制度化する際は、財源措置と責任分担の明確化を同時に検討する。 学校医報酬の交付金としての制約を踏まえ、多職種参画にかかる費用負担のモデルケースを示すとともに、各職種が担う検査項目ごとの責任の所在を明文化した運用指針を策定することが望ましい。
- 成長曲線をはじめとする指標について、作成率だけでなく評価・活用率を把握する調査項目を追加し、評価を担う人材(学校医・養護教諭)への研修機会を制度的に確保する。 遠藤委員が提案する成長曲線活用の義務化を検討する場合も、作成の徹底と併せて評価スキルの底上げを一体的に進める必要がある。
- 通知・事務連絡の発出に際しては、田中委員の要望どおりFAQ・Q&A形式の補足資料を標準的に添付し、教育委員会・学校長向けの解釈のばらつきを抑える仕組みを整備する。 併せて、通知の周知状況や理解度を定期的に調査し、解釈の地域差を可視化・是正するプロセスを組み込むことが有効である。
- PMH活用の検討に当たっては、クラウド型校務支援システムの普及状況やマイナンバー連結の実務負担を先に精査した上で、段階的な導入ロードマップを示す。 明神委員が求めるように、調査研究事業の中でマイナンバー連結作業の担い手や費用負担、システム未整備校への対応を具体的に検討し、理念先行を避ける必要がある。
- 不登校児童生徒等への健診機会確保について、文部科学省とこども家庭庁等の関係省庁が連携する枠組みを別途構築し、学校単独での対応を前提としない制度設計を行う。 総務省の実態調査結果も踏まえ、学校が担う範囲と地域・医療機関が担う範囲を切り分けた上で、費用負担や案内方法の統一的なルールを整備することが求められる。
学校における持続可能な保健管理の在り方に関する調査検討会(第6回)議事録
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/199/gijiroku/mext_00004.html


